[3日 ロイター] - 米アルファベット子会社・グーグルは来年、同社のネット閲覧ソフト(ブラウザー)である「クローム」利用者の閲覧履歴を他企業に提供する「サードパーティー・クッキー」と呼ばれる仕組みを段階的に廃止する計画だ。ただ、それで利用者が見当違いの広告を目にしないようになるわけではないし、靴を1度閲覧したら靴の広告がいつまでも違うウェブ上に表示される状況がなくなることもないだろう。

グーグルがなぜ、閲覧履歴(クッキー)の外部提供をやめるのか。なぜ、反発につながっているのか。広告主はサードパーティー・クッキー廃止後のターゲット広告戦略をどうするつもりなのか、などを以下にまとめた。

◎プライバシー侵害懸念

10年前ごろから相次いだ重大な個人データ流出事件を経て、2018年以降には欧州連合(EU)と米カリフォルニア州で革新的なプライバシー保護規制が導入され、違反者には相当額の罰金が科せられるようになった。

この法令は、巨大IT企業がユーザーのあらゆる動きを示すデータを、しばしば当人の許可なしに追跡し、これといったデータについては他の企業と共有する時代が終わる先駆けとなった。

グーグル、アップル、フェイスブックを含めたほぼ全てのインターネット大手は、企業側に知らせてよい情報の管理をユーザーにさせる方針をより明示するようになった。

◎ブラウザー戦争

クッキーはウェブの土台だ。これがあれば、例えば認証作業を逐次せずに新しいパブリッシャーの運営サイトを訪問することができる。

ただ、プライバシー保護活動家は、オンライン広告技術開発企業がクッキーを乱用して数多くのサイトにまたがる形でユーザーの行動を追跡し、さまざまな企業がそのデータを用いてターゲット広告を展開するのを許していると批判する。

アップルの「サファリ」、モジラの「ファイアーフォックス」や新興の「ブレイブ」といったブラウザーは、先頭に立ってそうした行動の制限に踏み切った。そして今、世界のブラウザー市場で60%と最大のシェアを誇るクロームが、ようやく流れに追いつこうとしている。

これまで長い間、グーグルなどオンライン広告技術を手掛ける企業は、例えば1週間前にナイキのサイトで靴を検索し、フットロッカーのサイトで特定の色をチェックしたクロームユーザーを追跡することで、そのユーザーがロイターのニュースページを開いた際に靴の小売業者にターゲット広告を流すよう伝えることが可能だった。

しかし、グーグルの新たな方針の下では、さまざまなサイトを横断する追跡作業はできなくなる。

◎広告対象を集団化

その代わりにグーグルは、同じ興味を持つ消費者を集団化し、企業がこの集団にターゲット広告を流してもらう方法を試している。各ユーザーの匿名性が担保されるので、プライバシー保護強化につながるという。

この技術は「プライバシー・サンドボックス」と呼ばれるプロジェクトの一部。アルゴリズムを使い、閲覧行動が類似する人々を1つの集団にまとめる。各集団とも人数は最低限にとどめて管理し、個人の特定はできないようにする。

例えば、自動車広告を考えると、広告主は従来、多様な自動車購入関連サイトを訪問するユーザーをそれぞれ追跡するクッキーに依存していたが、今後は自動車を買うことに興味がある集団が対象になり得る。

広告主の有力業界団体はグーグルに対して、この代替的な仕組みの効果が証明されるまで、サードパーティー・クッキーの廃止を先送りするよう要望してきた。これに対し、グーグルは今年1月、集団化システムは、有効に機能し得るとの試験結果を公表した。

◎独占禁止法問題

英競争・市場庁は1月、クローム内のクッキー利用制限がオンライン広告事業において、グーグルの優越的地位をさらに高める要素になるかどうか調査を開始した。

グーグルに対しては、ライバルがユーザーのビッグデータ構築をできないようにしつつ、自分ではクロームで引き続き、そうしたデータの蓄積を図る方法を開発しようとしているとの批判がある。

これに対してグーグルは3日、自社用のそうした開発はしないと約束し、ターゲット広告については消費者から直接受け取るデータに基づく形にさせていくとも確約した。

◎他の選択肢

グーグルの広告技術に対抗する仕組みとして、ライバル勢からは幾つか提案が出ている。その1つはトレード・デスクが示した、人々がサイトへのログインに使う電子メールアドレスの暗号化コピーを活用する方法だ。米ワシントン・ポスト紙は昨年12月、「ユニファイドID2.0」と呼ばれるトレード・デスクのこのシステムを採用すると表明した。

他のサイトでの個人の閲覧行動に基づいてターゲット広告を流す手法が、今後廃れていく可能性もある。クッキーによってターゲット広告が拡大する前まで、より一般的だったのは、表示されているコンテンツに関連する広告だった。つまり、ワクチンに関する動画には、医療分野の広告が展開されることになるというわけだ。