[東京 5日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は5日、衆院財務金融委員会で、長期金利の変動幅について「拡大する必要があるとは考えていない」と言明した。新型コロナウイルスの感染拡大で経済への下押し圧力が続く中、イールドカーブを低位に安定させる重要性を強調。「プラスマイナス0.3%に拡大するという段階には全然ない。相当に議論しないといけない段階だ」とも指摘した。

半期報告後、海江田万里委員(立憲民主党・無所属)など与野党議員の質問に答えた。日銀は現在、長期金利の誘導目標をゼロ%としつつ、「おおむねプラスマイナス0.1%の倍程度」(黒田総裁)の変動を許容している。

<めりはりあるETF買い入れへ「相当議論になる」>

新型コロナの感染拡大で昨年3月に株式市場の変動幅が急拡大すると、日銀は上場投資信託(ETF)の買い入れを積極化。日銀は日本株の最大の保有主体となったが、今年2月には歴史的な株高を背景に買い入れ額を減らした。

黒田総裁は、今後も弾力的な買い入れが必要だとした上で「具体的にどのようにめりはりを付けて行くかは政策点検の中で相当議論になると思う」とした。

最近の世界的な株高はバブルではないかとの質問に対しては、「(株価の)水準について高いとか低いとか中央銀行として言う立場にはない」としつつ、「内外の株価上昇は市場参加者の景気持ち直し期待などを反映している」と述べ、コロナワクチンの接種も株高を後押ししているとの見解を示した。

同時に、バブルには十分警戒して対応する必要があるとも指摘。現在は「感染症で(経済の)下振れリスクが大きく現在の金融緩和が適当と考えるが、バブル崩壊などの反省に立って金融面のリスクに十分配慮したい」と強調した。

ジャスダック市場では日銀の出資証券の価格が急伸した。黒田総裁は、出資証券と一般の株式の性質の違いを強調し、「日銀の収益やバランスシートの状況を反映しにくい特徴を有している」と指摘。「出資証券の価格が日銀の責任とは考えていない」と語った。

1-2月に実施した長期国債買い入れの日銀収益への影響については「粗い計算ながら若干プラスになる」と述べた。

<ETF購入、ESGの取り組みを弱めているとは考えず>

白井さゆり元日銀審議委員は2月配信のロイターのインタビューで、政府が脱炭素に向けた動きを強める中、日銀のETF買い入れが「ESG(環境・社会・企業統治)投資と本質的に矛盾している」と語り、環境や社会のための企業の取り組みが株価に適切に反映されにくくなっているとした。

これに対し黒田総裁は、日銀のETF買い入れが「企業のESGの取り組みを弱めているとは考えない」と述べた。

中銀によるグリーンボンドの購入について「ミクロの資源配分など考慮すべき要素が多い。さまざまな議論が行われている」と話した。環境関連ETFの買い入れについては、国際会議や各国中銀と十分意見交換しながら議論を深めていきたいとした。

<半期報告>

半期報告で黒田総裁は、現在の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和は適切に機能しており、変更は不要との見解を示した。新型コロナの影響で景気の下振れリスクは極めて大きいと指摘した。

景気の現状について「新型コロナ感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」との認識を示した。輸出や生産は、海外経済の持ち直しなどを背景に増加を続け、設備投資は全体としては下げ止まってるが、「個人消費は、感染症の影響により、飲食・宿泊などのサービス消費において下押し圧力が強まっている」と指摘した。

景気の先行きは「感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の回復や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調をたどる」との見解を示しつつ、「感染症への警戒感が続くなかで、そのペースは緩やかなものにとどまる」と慎重な見解を示した。

消費者物価の前年比は、感染症や原油価格下落の影響などで「当面、マイナスで推移する」が、「その後は、原油価格下落などの影響が剥落し、経済が改善するもとで、プラスに転じ、徐々に上昇率を高めていく」との見通しを示した。

先行きの経済・物価見通しには「下振れリスクが大きい」との認識を示した。「ワクチン接種の開始は心強い動きだが、感染症の帰趨やそれが内外経済に与える影響の不透明感は極めて強く、引き続き注意が必要」と警戒した。

「金融システムの安定性が維持されるとみているが、不確実性があり、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かう恐れがある」と指摘し、「利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もあり、先行きの動向を注視する必要がある」とした。

*内容を追加しました。

(和田崇彦、竹本能文 編集:内田慎一、田中志保、青山敦子)