進むVR空間での交流 正確な身体の動き、機器で再現
先読みウェブワールド (山田剛良氏)
VR(仮想現実)空間で自分の身体を自在に動かしたい――。そんなニーズに応える「フルトラ機器」の開発をパナソニックの子会社が発表した。従来品より安価な製品を夏までに発売する。ブレイク前夜の兆しがあるVRに、なぜ今参入するのか。
「今後勃興する『VRメタバース』市場をいち早く知りたい。それには製品を売ってみるのが手っ取り早い」と話すのはパナソニックの戦略子会社であるシフトール(東京・中央)の岩佐琢磨社長だ。
シフトールは2月19日、VR用周辺機器「ハリトラックス」を開発すると発表した。今年夏までに3万円を切る価格で発売する。
ハリトラックスは両足それぞれのももとすね、腰の5カ所に取り付けたセンサーで足腰の動きを正確にデータ化する機器。米フェイスブックの「オキュラスクエスト2」のようなVRヘッドマウントディスプレー(HMD)と組み合わせて使うと、全身の動きを仮想空間で正確に再現する「フルトラッキング(フルトラ)」を実現できる。
フルトラ用のセンサー機器はこれまでもあったが、検知精度は高いものの、天井などに専用機器を設置したりする必要がある上、10万円近い追加費用が必要だった。ハリトラックスは加速度と角速度、地磁気の「9軸センサー」だけで四肢の動きを検出する。センサーがシンプルな分、価格を安くできるわけだ。
実はハリトラックスには元となった製品がある。技術者のizm氏が開発し、個人で販売する「ハリトラ」だ。シフトールはizm氏と組み、得意のハードウエア技術を生かしてセンサー部分を安価に量産。ソフトウエアもizm氏と共同開発して提供する。
岩佐氏は2020年の秋頃から本格的にVR空間を探索し始め、仮想空間内で交流を深めるSNSなどに参加してVRメタバースの面白さを体感してきた。フェイスブックのようなテキストや画像が中心のSNSとは異なる魅力があると話す。
VR空間では誰もがCGの身体「アバター」を身にまとって交流する。装着したVRHMDが検出した身体の動きが、VR空間内に再現されるわけだ。だが通常のVRHMDは上半身の動きだけしか検出できない。このためVR空間内の振る舞いもぎこちなくなる。VR空間で他のユーザーと交流を深めていくと「フルトラの表現力が必ずほしくなる」(岩佐氏)という。
シフトールは今回、VR空間で使えるデータの販売も始めている。第1弾はパナソニックのデジタル一眼レフカメラの3Dデータで、VR空間内でアバターがパナソニックのロゴ付きのリアルなカメラを持てるようになる。
価格をつけて販売したのにも理由がある。無料配布ではダウンロードした人が本当に使っているかがわかりにくい。「有料販売ならどんな層のユーザーにどれくらいニーズがあるかなどを的確につかめる」(岩佐氏)
シフトールにとってパナソニックがまだ手を出せない市場に、いち早くチャレンジするのも重要な役目。勃興しつつつあるように思えるVRメタバース市場は、大手各社が虎視眈々(こしたんたん)と狙う「次の市場」なのだ。
[日経MJ2021年3月1日付]
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