2021/3/5
【大盛況】新規事業に挑むカルチャーをどう育むか
NTTコミュニケーションズ | NewsPicks Brand Design
新規事業の創出の重要性が加速度的に増している。コロナ禍を機に、日本企業を取り巻く変化の潮目が露わになってきた。
変化に対応するには事業創出が何よりも必要となる。しかし、うまくいかない事例も多い。
そこには大企業特有の「イナーシャ(組織慣性の法則)」が働いていると新規事業開発支援のスペシャリスト・フィラメント代表の角勝氏は言う。
そんな角勝氏が、アドバイザリーを務めるNTTコミュニケーションズの新規事業創出コンテスト「DigiCom」と、新規事業創出支援プログラム「BI Challenge」が活況だという。
社員のアイデアが続々と湧くコンテストはいかに生まれたのか?
イナーシャを中和して、ビジネスを創出する秘訣とはいったい何か?
角氏と共に、「DigiCom」を支えるNTTコミュニケーションズイノベーションセンターの斉藤久美子氏、「BI Challenge」プロデューサー兼事務局のテ ナイン トン氏に話を訊いた。
INDEX
- 新規事業創出のリアルな課題とは何か?
- 現場がやる気になる経営層のコミットの仕方
- 大きな転機になった命名
- 社員のパッションに火をつけるには
- アイデアを次の柱となる事業に育てるためには
- 本当のイントラプレナーシップを育てるには?
新規事業創出のリアルな課題とは何か?
──まず、大企業で新規事業が大事だと言われて久しいですが、うまくいく事例が少ないのはなぜでしょうか?
角 新規事業の創出がうまくいかないのは、「大企業であること」自体が大きな課題だと考えています。
まず短期的には既存事業のほうが売上を伸ばせます。5000億円の売上がある事業があれば、それを5050億にするのはイメージしやすい。
一方で、新規事業で1年目から50億円の売上を作るのは相当ハードルが高くなりますよね。新規事業は失敗する可能性も高いので、どうしても及び腰になる。
既存事業で稼げている組織にとって新規事業を作ろうとする取り組みはノイズに見えてしまいます。だから、新しいことはやりにくい。組織が大きくなればなるほど、その傾向が強まっていきます。
新規事業創出に関して、オープンイノベーションという方法が使われるようになりましたが、これもうまくいっていない企業が多いと感じています。
──オープンイノベーションがうまくいかない理由は何でしょう?
角 たとえば、多くの会社がオープンイノベーションのための施設を作っていますよね。でも、自社の関係者以外は誰も来ないような不便な場所に作ってしまう。これでは外部の人間が来てくれません。オープンイノベーションにはならないわけです。
──それはアクセスの悪い場所そのものというより、オープンイノベーションの姿勢が顕著に表れているということでしょうか。
角 まさにそう。「内向き」な姿勢の表れです。
──では、新規事業の創出がうまくいくためのポイントは何だとお考えでしょうか?
角 大組織の「イナーシャ(組織慣性の法則)」を中和することです。
「イナーシャ」とは経営学の用語で、慣性の法則のように元に戻ろうとする力、つまり新しいことをやろうとするといつの間にか潰されるような力のことをいいます。大きな企業はこのイナーシャがすごく発生しやすい。
イナーシャを中和するためには、新規事業を育成するための社内の制度や、新規事業を大事にしていこうというカルチャーを作ることです。
そこで大事になるのが、経営トップの意志です。
ただ、トップがメッセージを出しても、中間管理職の人たちなどに響かない。なぜなら、彼らには売上など達成しなければいけない数字があり、それに全精力を傾けなければいけません。新しいことをしている余裕がない。
だから、経営トップが自分のメッセージを会社の中にどう織り込んでいくかが重要になります。
──経営トップは具体的にどのようなアクションを起こせばいいのでしょうか?
角 たとえば、インキュベーションプログラムを作るとき、経営トップもそこにコミットして新規事業の大事さを常にアピールし続けること。つまり、言葉以外のメッセージの出し方が非常に重要になります。
もちろん新規事業の創出に対して、何らかのインセンティブや評価制度を作ることも必要です。
現場がやる気になる経営層のコミットの仕方
──たしかに経営トップがそこまでコミットしてくれたら、社内の雰囲気も変わりそうですね。
まず、社員に「新規事業の創出をやっていいんだ」ということを認識させるのが大事なんです。その後、成功事例が出れば、みなが大企業にある「イナーシャ」を振り切って、「あんな風になりたい」と願うようになる。その願いを生み出すための仕組みを作らなければいけないんですよね。
──角さんが2018年から参加されているNTTコミュニケーションズの新規事業創出コンテスト、DigiComはいかがでしょうか?
角 DigiComがまさに経営層のコミットの仕方が素晴らしい現場でした。
DigiComはNTTコミュニケーションズあげての一大フェスなんです。参加チームがすごく多くて、決勝戦のDemodayだけでも丸一日かかる。そこに社長以下、幹部の方が全員来ている。
NTTコミュニケーションズ規模の社長なんて激務の中から1時間捻出するだけでも大変なはずなのに、昼から夜まで一緒にいるんです。そうすると本部長とか部長クラスの人たちも全員行かなくちゃならない空気になる。
結果、DigiComには経営幹部が居並ぶことになるので、自分の部下がその決勝に残ることが、とんでもない誉れになるんです。
だから部下に「どんどん行け」ということになる。めちゃくちゃうまいメッセージだと思いました。
──それはとても雄弁な行動ですね。
その上、社長が発するコメントもすべて愛情に満ちているんです。ネガティブなことは決して言わない。社員が新しいアイデアを出してプレゼンしていることがうれしくて仕方がない感じなんですね。
DigiComにはみなが楽しんでいるような祝祭感がある。「こんなの見たことない!」と思いました。あそこまでやったら、イナーシャも中和されるはずです。
経営トップのコミットメントの強さは、危機感の表れでもあると思います。大きな時代の変わり目にあって、変化に対応していかなければいけないという危機感ですね。
でも、そこに悲壮感とかネガティブな感じがない。ポジティブな姿勢で、新しいものが生まれることを奨励し、新しいことを生むことができる人が育っていくことと成長を楽しんでいる。僕にはそういう風に見えました。
大きな転機になった命名
──DigiComが一大フェスというのは驚きました。どのような道のりで今のような形になったのでしょうか?
斉藤 DigiComは2016年7月から始まりましたが、たしかに最初から社長にお声がけをしたんです。
最初は人が集まらないかと思いましたが、最初から40チーム182人も集まってくださって本当に驚きました。しかも、若手の方から中堅の方、部長クラスの方も参加してくれたんです。
コンテストの発表日には、当時の社長で今は相談役の庄司(哲也)にお願いしたところ、コンテスト終了後の表彰式で40チーム全部を表彰してくれたです。
コンテストのことを社内に報告しましたら、すごく評判を呼んで、同じ年度に2回目を開催しました。その頃からDigiComの良さはあった気がします。
角 最初から庄司さんが来ていたんですね。庄司さんも純粋にうれしかったと思いますよ。
斉藤 ひとつお話ししたかったエピソードがありまして。2018年度にコンテストの名称をちゃんとつけようとなった時に、私たちは最初、コンテストの名前を「DigiCon」にしようと考えていたんです。それが稲葉(現在のイノベーションセンター長)のアイデアでNTT Comの名前とかけて「DigiCom」になりました。
そこで「DigiCom」という名前を社長の庄司にお伝えしたところ、「Mの端をスクラムみたいに人の形にすれば良いんじゃない?」とのアドバイスとともに、紙を取り出して、これを書いてくれたんです。
NTTコミュニケーションズにはラグビーチームがあるので、スクラムと言われるとピンと来るんですね。みなで肩を組み、協力しあって前に進んでいくイメージです。
社長の大きな期待がわかって、ますます頑張らないといけないと思いました。ここからDigiComがコンテストとしても、イベントとしてもうまく成立するようになりました。大きく流れが変わったポイントでしたね。
社員のパッションに火をつけるには
──斉藤さんは事務局として、どのように運営に臨まれているのでしょう?
斉藤 コンテスト開催を社内に告知してからDemodayまでの期間は、本当に毎日一瞬たりとも気が抜けない状態で過ごしています。DigiComの期間中は出場者のみなさんと一緒にDigiComというコンテストを作っていく意識です。
というのも、やっぱり多くの方が業務時間を割いて参加してくれるので、絶対に失敗できませんし、みなさんにはエントリーしてからイベントまでの間にいろいろな経験をしていただきたいと思っていますので。
角 斉藤さんは出場者に対する想いがすごく深いんです。謂わば「DigiComの母」ですよ。650人の参加者全員の名前だけでなく、部署も前回のエントリーのことも覚えている。
──それはすごいですね。
角 もはや愛と言える。斉藤さんが愛をすごく注がれているからこそ、DigiComが大きく育っていったんだと思います。
──斉藤さんは出場者のみなさんのやる気をモチベートするために、どういうことに心を砕かれていますか?
斉藤 やっぱり「ユーザー視点に立つ」ということだと思います。出場者の状況を把握して一つひとつ対応していくことですね。
その上で、みなさんからいつでも相談や要望を言ってもらえるような事務局でありたい。そんな信頼関係を作っていけるように気をつけています。
角 DigiComには部課長クラスの方たちも参加されていますが、本当に嬉々として取り組まれている。DigiComが彼らのパッションに火をつけているんです。
NTTコミュニケーションズという会社は、インターネットの黎明期から新規事業をたくさん作り出してきました。当時、その最前線にいた方たちが今、部長などになられていて、本業ではマネージメントなどをされているのですが、でもやっぱり新しいことをやりたいと思っている。そこに火をつけているんですね。
これがNTTコミュニケーションズという会社のオリジナルなところでもあるし、DigiComという取り組みとものすごくマッチしているということだと思っています。
経営トップのコミットがあって、斉藤さんのように愛を注いで運営にあたる人もいる。このカルチャーは他の会社で真似をしようとしても、簡単には成功しないんじゃないかなという気がします。
アイデアを次の柱となる事業に育てるためには
──社内起業家育成プログラムである「BI Challenge」についても教えてください。DigiComから生まれたアイデアをビジネスとして育てる育成プログラムという理解でよろしいでしょうか?
テ 社員のアイデアを形にして、将来的にはNTTコミュニケーションズの柱となる事業を創出するための支援プログラムです。僕らがよく言っているのは「社内起業家育成プログラム」ですね。
──具体的にどのようなことを行うのでしょうか?
テ 事業化まで5つのステップがあります。
DigiComは社内のビジネスコンテストですが、BI Challengeはコンテストではなくて通年で募集しています。ここが大きな違いですね。DigiComはステージ1「ファウンダーマインド醸成」とステージ2「ユーザーの課題検証」にあたります。
角 BI Challengeは誰でもエントリーできるインキュベーションプログラムですが、そのための導線の一つがDigiComなんです。
──どのような新規事業が生まれたのでしょうか?
テ では、一番新しいところでSpace Techからご紹介します。
SpaceTechのチームはメンバー全員が新卒2年目の社員なんです。入社2年目なのに2020年度のDigiComで優勝したんですね。しかもジャンルは宇宙。正直、僕も驚きました。発案者でキャプテンの井上(大夢)は営業の人間です。
角 僕のほうからも大企業やスタートアップを紹介していますが、紹介先のみんなが共感していて、社外の方々とアライアンスを組むのがものすごくスムーズに進んでいます。やっぱり井上さんたちの宇宙ビジネスへの情熱と理解がすごいのでしょうね。その一方で、テさんをはじめとする社内のみなさんがうまくサポートをしていると感じます。
テ 今、僕が手伝っているdropinはちょっと特殊で、イノベーションセンター、つまり僕らの部署で作ったアイデアなんです。基本的にイノベーションセンターの人間が開発やデザインなどを行っています。
我々は事務局をやりながら新規事業を開発する“両利き”です。プロジェクトチームの伴走支援やdropinを進めながらBI Challengeの制度を見直したことが何度もあります。
事務局が自ら新規事業をやりつつ先頭を走って、実態に合わせて制度に反映させているのです。
本当のイントラプレナーシップを育てるには?
──DigiComというコンテストに出場するマインドと実際に事業を立ち上げるマインドは、厳しさが違うと思うのですが、これについてはどのようにお考えでしょうか?
テ どうやってイントレプレナー(社内起業家)を育てるかについては、いろいろな方法がありますが、その中の一つの施策が、BI Academyという社内セミナーです。
社外の新規事業に関する有識者やイノベーターを呼んで、社内で講演してもらいます。外から起業家の声を経由して火をつけさせる。あなたも会社を変えられるんだ、世界を変えられるんだというマインドセットをするためのセミナーですね。
角 今年からDigiComの参加はビジネス化が前提であるということを広くアピールしています。まず本当に事業化するためにエネルギーを注ぐマインドがあるのかどうかが最初の大きなハードルになります。
なので、今年は参加者が減ると思っていましたが、思いのほか減らなかったんです。オンラインでの学習プログラムにも大勢の方が参加してくれました。DigiComに携わっていく中で、ポジティブな驚きがたくさんありました。
会社全体がイナーシャを振り切ろうとしている。慣性の法則を振り切って飛ぼうとしているんだな、と僕は思いました。
──最後にあらためて、DigiComならびにBI ChallengeはNTTコミュニケーションズにどのような価値をもたらしているとお考えでしょうか?
斉藤 DigiCom自体が会社内部への刺激になっていると感じます。DigiComの出場者の中には、BI Challengeで新規事業のほうに行く方もいますが、コンテストが終わった後は自分の組織に戻っていく方のほうが多い。そのとき、DigiComでの経験が何かしら作用していると思っています。
たとえば、新しいチャレンジを部署の中でするときにDigiComで学んだことを生かすとか、新しい気づきに取り組んでいくとか、他の出場者のアイデアに刺激を受けたりとか、DigiComを通して会社としての一体感を覚えたりとか。
DigiComに参加した人がアップデートされて、その人がまた組織をアップデートしていく。そういう循環がうまく回るようになったのではないかと思っています。
テ 僕たちはDigiCom事務局、BI Challenge事務局という名前ですが、別に制度を作るためにここにアサインされたわけではなく、ここにいるメンバーはみんな自分で手を挙げて自分で新規事業を作ろうとしている人たちです。
これからのNTTは「NTTらしくないこと」をやったほうがいいと僕は思っています。NTTらしくないことをやることを賞賛してほしい。「NTTらしくないこと」というのは、もっと言えば「失敗を恐れないこと」、そして「ビジネスのプロセス、やり方をこれまでの常識、成功体験、固定観念にとらわれず、時代に合わせて自らチェンジするのを恐れないこと」です。
角 DigiComとBI Challengeは会社をまとめて組織を強くする役割があると思います。大きな組織ほど、どんどん自分たちの仕事の範囲を決めてしまって、他の人の領域を侵すことはなくなります。でも、そういう人たちが一気に集まって、一つの価値観を共有する場所、制度があることによって、会社に横串が通っていく。
そしてもう一つは、事業を作るという営みを通じて人を作る仕組みになっています。
新しい事業は誰が何をやるか決まっていません。想定外のことが起きますし、誰の守備範囲でもないところにボールが落ちることもよくあります。そのときにみんなが率先してボールを拾いにいく。これはあらゆる事業活動の中で必ず生きてきます。
そして、挑戦です。テさんがおっしゃったように、失敗を恐れずに挑戦する。予想外の出来事に対応して、困難を乗り越えて事業を作っていく。VUCAという言葉が象徴するように、コロナのような予期できないことがどんどん起きていく時代の中で、挑戦を肯定できる社内風土こそが変化に対応するための一番の資源になっていきます。
新しい事業を作ることができる人が、変化に対応することができる人です。そういう人を作っていく営みこそがDigiComでありBI Challengeなんだと思います。
構成:大山くまお
デザイン:田中貴美恵
編集:中島洋一
デザイン:田中貴美恵
編集:中島洋一
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