世界中からいい人に来てもらうためにやってきたこと

尊敬する同僚のTakaoが書いたBlogがとても素晴らしかったので、触発されて書いている(あとで英文もアップする予定)。

まだ五常本体(各国の金融機関のホールディングス会社)の日本人比率はようやく50%を切ったところだし、女性:男性比率も7:13という状態で道は遠い。それでも、グローバルでマイクロファイナンスをやっているどの事業者たちよりも優れたチームがつくれたとは思う。いる人たちの国籍は13種類、最終学歴も高卒からPh.D保有者まで様々。

世界中からいい人が会社に来てくれる状態をつくりたいという思いはずっと強かった。それは、マイノリティである僕がモルスタで働き始めたときのチームが、アメリカ人、中国人、ロシア人、インド人、韓国人、アイスランド人、日本人でとても居心地が良かったことに起因しているんだと思う。

それに、五常は民間セクターの世界銀行をつくることを目指しているので、ゴールから考えたら、世界中から一番いい人たちが集まっている状態以外には想像がつかない。加えて、フィンテックやAIで世界に通用する日本のスタートアップが極めて少ないことから考えれば、採用を日本ですることは極めて非効率だ。世界的なマイクロファイナンスの専門家の日本人もいない。

でも、僕には留学経験も海外就労経験もない。五常も日本に登記されているスタートアップだ。だけど、いくつかの点で気をつけてきたことがあるので、それについて現時点で考えていることを書いておきたい。

一番大切なのは初期で、次の2つには気をつけてきた。

1. 日本語ができない人と創業する

これをしないで、かつ日本国内で創業すると、その会社がグローバルでいい人を採用できる確率は相当に下がると思う。なぜかというと、日本語話者だけで日本で創業すると、会社の根幹を成すような思想、文化や資料が全部日本語だけになるからだ。英語がメインになっていて魅力的な会社は他にもいっぱいあるのに、わざわざ日本語がメインの会社に入る理由はほとんどない。

五常は長島さん、Sanjay、僕の三人で創業したので(その後半年で採用した人はカンボジア人、スリランカ人、インド人)、創業時の事業計画やGuiding Principles、創業者間契約なども全部英語でできている。資金調達用に日本語訳もつくっているけれど、みんなが内容をレビューする資料は常に英語だ。五常のウェブサイトも創業時からずっと日本語は申し訳程度につくっていて、メインのコンテンツのほとんどは英語だ。それも同様の趣旨でやっている。

(それでも、時々面接のときに「五常って、典型的な日本の会社とは違うと感じるのだけれども、間違いじゃないよね?」とよく念押しされるので、まだ道は遠い)

2. どの時点においてもある国の人が大多数にならないようにする

創業時から数字目標を設定して(創業時の事業計画にすでに書いている)、短期的には達成できないとしても維持するように努力してきた。

後から考えても、これはとても大切なことだったと思う。というのも、僕は日本でずっと働いてきたので、ある程度スキルがあり、気心も知れた人の多くは日本人だ。だから、いい人を探そうとすると、どうしても日本人になってしまうのだけど、可能な限りそうしないように努力してきた。

なんでこだわったかというと、ある集団の比率が一定水準(たぶん4分の3以上)を超えてしまうと、その集団の均衡はもう多様性には戻りにくくなることが多いからだ。具体的には、スーパーマジョリティ集団が徒党を組み始め、マイノリティをやんわりと排除しはじめる。例えば、ミーティング中はさておき、食事の席で自国語で話し始めたりする。

(上記の傾向は、特に一度もマイノリティ経験をしたことがない人に顕著だ。なので、日本国籍保有者に来てもらうとしても、上記のような行動が嫌いな人に来てもらうことが多かった)

違う言い方をすると、「周囲にいる、いい感じの日本人」だけでチームを固めるのは、短期的には最適解なのだけど、長期的には詰むと僕は思っていた。登山のルートと同じく、ちょっと高くに登るだけならさておき、最終ゴールに辿り着くためには絶対に通ってはいけないルートというのがある。

「今は生き残るためにスキルのある人材を採用しないといけないのに、なんでそうするんだ」という反対意見も強かったのだけど、僕は結構頑固だったと思う。五常のフルタイム日本人比率が6割を超えることは、どの時点においてもなかった。

  

上記が世界中で採用するために、ということについて気にしていたことで、ここから先はいい人に来てもらうために、ということで大切にしていること。

3. 自分の無能を認めて、人に任せる

起業家の多くはなんだかんだ強烈な性格を持っていて自惚れが強くなりがちで、野球でいうと「ピッチャー自分、4番自分、監督も自分」ができると思っている人が特に初期は多いかもしれない。少なくとも、愚かな僕はそうだった。

起業家がそのマインドセットである限り、その起業家より優れた人は決して来てくれない。腕のいい人は、専制君主に仕えたいとは思わない。

起業家のビジョンに共感した人が参画してくれるのは素晴らしいことだけど、起業家のファンが参画するという状態はたぶん間違っている。キラキラ経営者とそのファンクラブみたいなスタートアップは結構多いけど、その会社は経営者個人の力量に依存してしまう。プロダクトの会社ならそれも良いのかもしれないけど、五常のような事業だと強い会社をつくれない。

五常に良い人が来てくれるようになったターニングポイントは、僕が自分の無能を自覚して、心から自分より優れた人に来てもらいたいと願い始めてからだと思う。僕は愚かなので、それまでに4年かかった。

4. 掲げているビジョンに対して真摯にあり続ける

これはあくまで持論だから共感してもらう必要はないけど、起業は世界を自分の願う場所に変えるためにするのであって、お金儲けや名声のためにするものではないと僕は思っている。僕はまだヒヨッコだけど、その点を明確にしたいと思っている。

最近噂になっている、突如解散した会社の関係者に僕は一人も会ったことがないし、関心もない(知るだけ時間の無駄だから、なるべくSNSには近寄らないでいるのだけど、友人が話してきたから知った)。だけど、赤字を出しているスタートアップの社長の家賃が何十万円もするのは論外だと僕は思う。他にも、赤字続きのスタートアップで社長給与だけ極端に高いのも論外だと思う。

ピーター・ティールは、スタートアップの創業経営者の報酬と会社のパフォーマンスは反比例すると言っている。なぜなら、創業経営者の給与を低くすることで、全体の人件費高は抑制されるし、かつ創業者自身が常に「なんで自分はこの仕事をしているのか」と自問自答することで、会社の成長が続くからだ。

僕の報酬は五常メンバー(途上国ベースの人も含め)では下から数えた方が早いし、会社外部からの報酬(noteのマガジンなども含め)やクレジットカードの明細はメンバー全員が見られる場所に置いている。自分の株の持ち分から得られるお金も全て、自分ではなく社会に使うと決めている。

僕たちの仕事はマイクロファイナンスであって、お客さんは一日を100円〜1000円くらいで過ごしている人たちだ。そういう人たちから利息をもらって働いているということに自覚的でありたいと僕は思っている。

「社長にはなにかとお金が必要」とかいうのは、贅沢をしたい人の言い訳だと思う。仕事に必要なお金なら堂々と経費精算すればいい。「今すぐ役立たないかもしれないけど、いつか効いてくる人間関係のための投資だ」と主張する人もいるけど、僕はそういう遊びの関係性が真面目な仕事につながったことを経験したことがほとんどない(僕だけかもしれない)。

本当に気持ちが通じているのであれば、定期的にお茶をしたり、一緒に運動したりするだけで十分に仲良くなれるのではないだろうか。お金をかけて一緒に遊ばないと仲良くなれないような人は、結局はそういう人なんだと思う。

そうやって社長が豪遊している一方で、他の社員たちが低い給料で生活しながら、社長が「社員は家族だ」とか言うのも論外だと思う。そんなことを言うのなら、社員に対して自分より高い報酬を払うべきじゃないだろうか。なお、僕は仕事の関係と家族の関係は根本原理が違うので一緒になれないと思っている。仕事の関係で大切なのは理屈や付加価値だけど、家族の関係で大切なのは義理人情だからだ。

誰が言ったか分からないけど、「下の者は上のもののすべての過失を知っている」という諺があるらしい。社長のそういうカッコ悪い行動や言行不一致は決して隠すことはできないし、本人が知らないうちに皆に拡がるものだ。

そして、そういう噂は社外にもすぐに拡がり、会社に来ることを検討している人の耳にも届く。結果として、そういう会社に来てくれる人は、そういう社長と同類の人か、そういうのをあまり気にしない人の二種類になる。いずれにせよ、いい採用はできない。

5. 価値観・原理原則軸の採用

スキルは大切だけど、僕たちは価値観や原理原則軸で一致していない人の採用はずっと避けてきた。採用のときにメンバーが一番気にすることの一つが価値観の一致だと思う。

僕の場合、面接時はスキルのことは何も聞かず、その人がどんな人で何を大切にしているのかだけを聴くようにしている。定形の質問項目を準備していて、それをずっとアップデートし続けている。

事業運営では多様なスキルは不可欠だけど、メンバーそれぞれが大切にしたいと思っていることは大枠では同じでないといけないと思う。スタートアップはいろんな困難に直面するけど、それを乗り越えるためには、組織は意志の集結体でないといけないと思う。

それが会社の文化をつくるし、強い組織文化は何にも代えがたい組織の強みにもなる。そして、そういう優れた文化があるところに、いい人たちがやってくる。

6. 辛抱強く続ける

いい人であるほど、すぐには動かないことが多いように思う。だから、そういう人に来てもらうためにずっと声をかけ続ける、ずっと待ち続けるということも大切だと思う。一度断られても関係を切らず、ずっとコミュニケーションを取り続けていれば、どこかのタイミングでその人は来てくれるかもしれない。

資金調達も同じで、人の心を動かすというのには、ときに時間がかかる。だからこそ、辛抱強く続けるのが大切だと思う。

 

と、書いてきたものの、改めて振り返ってみると、いくつかは単純なラッキーもあったと思う。すごい人が入ってくると、会社の採用活動のレベルが一気に違う次元に入るのだけど、その人たちがそのタイミングで来てくれたのは幸運としかいえない。それでも努力を続けてきたからこその幸運だとは思うけれども。


上記はあくまで現時点での考えであって、僕たちは目指す目標に対してまだ到達度が0.65%にしかなっていない。これから先も難しいことは続くのだろうし、それに直面しながら自分の考え方も修正しつつ、前に進むんだろうと思う。

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