東京生まれの箱入り娘の華子(門脇麦)と、地方出身で苦労人の美紀(水原希子)。都会の異なる“階層”に生きる対照的な2人の女性の邂逅と成長を描いた映画、『あのこは貴族』が本日より公開される。原作は、山内マリコさん(『ここは退屈迎えに来て』)による同名タイトルの小説だ。

『あのこは貴族』より

美紀と同じく地方出身である山内さん。本作において「東京」を俯瞰した彼女に、この街はどのように映っているのか。映画公開を記念し、特別に寄稿してもらった。

※以下、山内マリコさんによる寄稿。

 

初めて見たのは、2000年代の東京

25歳で上京して、かれこれ15年、東京をぼやぼやと生きている。来たときはたしかに若かったが、去年、40歳になった。

富山で生まれ育ち、大学時代を過ごした関西から東京の中央線沿線に転居したのは、表参道ヒルズが竣工した2006年のこと。東京旅行で見た同潤会アパートの風情がたまらなく好きだったので、来てそうそうにこの街のスクラップ・アンド・ビルドの非情さを思い知らされた。噂には聞いていたが、同潤会アパートみたいな“素敵の塊”を壊すなんて、ちょっとすごいなと呆れた。

東京は、容赦のない再開発によって上書きされつづける街だった。雑誌をとおしてぼんやりあこがれていた1990年代のサブカル的なシーンはすでに終焉していて、2000年代がどういう時代になるのかを、誰もがつかみかねている、そんなタイミングだった。

シーンがあるとすれば、いまそれは秋葉原にあり、主役はオタクであると言われ、それがだんだん現実になっていく。2007年の紅白歌合戦は、AKB48としょこたんとリア・ディゾンが「アキバ枠」に乱暴にまとめられて、「日本が誇る最先端! スペシャルメドレー」を歌っている。2008年、銀座に日本初上陸したH&Mは、入店待ちの行列に並ぶ人々に日除けの傘を配った。オタクカルチャーが席巻し、ファストファッションブランドが台頭する。わたしが住みはじめたのは、そういう東京だった。