2021/2/28

日本企業はホモソーシャル社会から抜け出せるのか?

NewsPicks アナウンサー/キャスター
毎週火曜夜10時からNewsPicksとTwitterで配信中の「The UPDATE」。

2月24日のテーマは「【女性蔑視発言】沈黙を破るためにどう行動すべきか?
豊田 真由子氏(元厚労省)、大室 正志氏(産業医)、秋田 夏実氏(アドビ マーケティング本部 バイスプレジデント)、寺田 学氏(衆議院議員)、浜田 敬子氏(ジャーナリスト)とともに、議論しました。
森喜朗前会長の女性蔑視発言はさまざまな波紋を呼んだ。
政界のみならず日本社会全体に、未だジェンダーギャップの課題が残っていると叫ばれ、現に日本国内の企業における女性管理職の割合は諸外国と比べてかなり低いままだ。
しかし、近年は「なでしこ銘柄」と呼ばれる女性活躍推進に優れた企業が公表されると、株価指数はTOPIX平均を上回り、営業利益率も市場平均値よりも高い傾向にある。
つまり女性登用推進は、企業価値を高めるという一面がある。
なでしこ銘柄の選定基準も、女性登用を義務化しているような欧州諸国と比べると高い水準とはいえないものの、国内では要件を満たす企業は多くない。
ESG(環境・社会・企業統治)の観点からも、外国人投資家が日本企業に女性登用を促しており、女性役員がいない会社の最高経営責任者に再任反対を突きつける事例もある。
このまま本気で女性登用に取り組まない場合、投資家からの反発を買い、資金が集まらず経営リスクに繋がると警鐘を鳴らす識者も。
企業の存続に女性登用は必要不可欠であるが、ジェンダー後進国日本の課題を解消するために、企業と私たち個人はどうアクションを取ればいいのか?徹底討論。
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まずは「数」から

大室 まずは数値目標。ただし内訳も見るべき。
例えば数値=テスト科目だと思えば、学問の本質はテストでいい点を取ることではないが、テストにでるから勉強するのと同じで、まずは数の目標を決めて、それから実数が追いついてくる方が現実的。
ただし、名ばかり管理職は危険。
ダイバーシティの名の下にとってつけたような部署を置くのではなく、業務権限を有する管理職にすべきである。会社のラインに置くべきだ。
寺田 今回の森騒動を受けて政府はかなり反省した。その後の対応として政府も半分女性にするということをすぐに反映するべきだった。
豊田 一部の特権的な女性だけが輝く数値目標になってしまっていることで、女性の中でも分断を生んでしまっている。
数値目標は手段であって目的ではない。企業も数値目標の本質的意味を見出せていない。
数値を設定、達成することは、異質な意見や価値観を巻き込むこと。
結果、個人も企業も国も良くなるというフローを経営トップ層が把握すべき。
浜田 人の意識は簡単には変わらない。森さんのような人も変わらない。
じゃあどうするのか。
まずは形から、制度を作る。
第一歩として数の目標を決めて実行する。
例えば採用の数を、まずは男女半々にしてみると、働きたいという意欲を持った女性が集まる。女性採用を増やすことで管理職候補も増える。また管理職の男女比率を一定割合に決めると、女性を管理職候補として育成するという流れが生まれる。
しかし現実は、男性が重要なポジションを任されていることが多い。
女性登用の数値を達成するためには、企業のどこに問題があるのかを再検証し、現状を見つめ直さなければいけない。
秋田 トップのコミットメントが必要。
経営トップが本気で解決しようと動いているのか、ただ世間の空気でギャップ解消と言っいてるだけなのかはすぐ見透かされる。
その点、アドビは女性の人権があることが普通。ジェンダー問題は既に通過して乗り越えている。
浜田 3割を超えるとマイノリティーではなくなる。
AERA時代、女性がマジョリティーの会議では意見が建設的に飛び交い、議論が活発に行われていた。女性がマイノリティーでなくなると意見が出てくるし、議論が活性化したというのを経験してきた。
だからまずは数だけでもいいから女性を増やして、風景がどう変わるのかを見てみるべき。

「ホモソーシャル」の解体

奥井 「女性の8割は管理職になりたくない」という調査もあるが・・・
大室 今の現行ルールではそうなる。ホモソーシャル社会がこの問題の根底にある。
ホモソーシャル=同質性の高い組織
森前会長は何故ああいう発言をしたのか。それはその場にいたおじさんたちを笑わせて連帯させたかったのだからだと思う。
同質性の高い集団が連帯してしまっている現行ルールの中で、女性が入っていってもそれは損しかしない。まずはホモソーシャル社会を解体しなければダメ。
豊田 女性がチャレンジ精神がないのではなく、できない、失敗したくないという論理を変えないと。
ジェンダー解消には段階がある。排除→順応→対等→ダイバーシティ。
日本は今、順応→対等の間にいる。
浜田 部下へのフォローアップが足りないと言われた経験がある。
男性は飲み会やゴルフなどで親分子分の関係が築きやすいので、所作を学ぶ機会が多い。これもまさにホモソーシャルの典型。
一方、女性(特に管理職)はマイノリティーなので孤独を感じやすい。長時間労働だと特にそこで躊躇してしまう。
上司がバックアップを保障した上で管理職にオファーするべき。
女性が権限を持って仕事ができ、人を育てることができるという実感が、さらに女性の自信につながる。
大室 ホモソーシャルと権力を分離させるべき。
仲間内でのサウナや女子会の楽しさはあっていい。ただし、同属意識の中で楽しむのはあくまで嗜好品。そこに権力を結びつけるべきではない。

企業における「ダイバーシティ」の本質

大室 本当のダイバーシティとは会社に強烈な価値観があるということ。
うちの会社のビジョンはこう、というある種の宗教を共有すること。日本企業はこの価値観を打ち出してこなかった。
浜田 「世間の感覚とズレているよね」と違和感を言えるような空気がホモソーシャルの中だとない。
「これっておかしいよね」と言える人がいないのは炎上リスクにつながる。
寺田 国会の問題は、子育ても介護も家のことは全て奥さんに任せてきたこと。
自由に時間を使える人たちだけが集まって社会の仕組みを設計してきたことが、世間との「ズレ」になってしまった。
特に政界の人は既得権益を女性に割り当てることをやりたがらないのだが、そこは数値目標を設定し、柔軟に物事を変えていける組織に変えないといけない。
豊田 総論賛成、各論反対が政治の世界。
なぜ政治の世界は何十年も遅れていると言われているのかというと、世襲文化が続いてしまっているから。
そんな人たちの集合体では価値観は変わらない。
女性が入ってきても「余計なことはしないでね」と言われてしまう。わきまえろという無言のバイアスが流れている。
寺田 人が変わっても同じ価値観が引き継がれると変わったとは言えない。
同質の人間だけで組織が形成され続けてきたら、それは誰もおかしいと思っていても忖度して言えない。今回の森発言を生み出したひとつの原因だ。
浜田 企業でも同じ。結局、席を空けられるか。
政治も企業も、既得権益を渡せるかどうか。
自発的に手放すことができないのであれば、欧州諸国のように義務化してルールにすべき。

明日からできるアクションは?

大室 女性が多い企業では、社員の方が仕事を休むと「昨日はすみません」という意味を込めて菓子折りを持ってくる文化がある。
女性は過剰に謝る傾向にある。育休も当然の権利なのに、みんな過剰に「すみません、すみません」と言って謝る。
「すみません」と言うことで自己肯定感も下がるし、謝るものだというカルチャーが強固なものに。
感謝はいいけど、謝罪は止めた方がいい。育休をとることは悪だ、謝罪しないといけないといった罪悪感が消えない文化を放置してしまう。
「すみません」から「ありがとう」へ。
謝罪禁止!とまで言ってしまってもいいかも。
寺田 「自分たちの感覚がズレているかもしれない」という心構えを忘れずに、何かあったときに咀嚼して、受け入れて、柔軟に自分たちの考え方を変えていく。
私の事務所で時短労働で事務職をしていた女性の方がおり、私はその方がそういう働き方を望んでいるものと思っていたが、ある日その方が私の妻に「営業をしてみたい」と打ち明けたことがあった。
それを聞いた時、私の思い込みによって彼女の声を聞こうとしていなかったことを痛感した。
浜田 まずは聞いてあげて。
管理職にチャレンジしたい人もいれば、そうでない人もいる。まずは個別にキャリアをどう進めたいのかという願望を聞いて、本人に選ばせてあげる。
しかし今多いのは、ヒアリングする前に過剰に遠慮をして、仕事や役割を任せられないでいること。
過剰な配慮は不信感をうむ。
まずは何をしたいのか、どこまでやりたいのかを聞いてあげよう。
秋田 アメリカの伸びている会社は1on1ミーティングを設けている。
あなたはどうしたい?そのために私はどんなことがしてあげられるか、ということをじっくり話す時間を取らないといけない。
大室 「聞く」=コンサルティングではないので要注意。
話を聞くのはカウンセリング。
今まで上司は部下の話は大体聞いてこなかった。「つべこべ言わず働け」という現行のルールだから。
上司にとって聞くっていうのは意外と難しい。この苦手意識を変えないといけない。

今回のキングオブコメント

数が本質ではないし、属性で振り分けるのはどうかという異論もある。
しかし、本件がここまで大きな騒動となったことで改めて、女性活躍推進が脚光を浴びるようになった。森前会長の辞任はジェンダー問題の前進だ。
その一歩として企業ができること。
まずはフェアな数値目標を掲げ、同質性の高い組織を権力の中から解体し、ひとりひとりの描きたいキャリアデザインを対話する。さらに男性、女性両方が働きやすい制度や環境をサポートするべきだろう。
そして、私たち個人ができること。
私はある人から「沈黙は差別に加担しているのと同じ」と言われてハッと気付いた。
発言権を認められず、違和感を口に出せずに、上の顔色を伺う忖度。それが日常化してしまっているとしたら、今まで「わきまえて」きた慣習を反省すべきだろう。
おかしいと思うことには声をあげよう。わきまえることはその妙な文化を加担することにつながるのだから。
後半では、女性活躍推進によりどのようなイノベーションが生まれるか?について議論した。
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