[23日 ロイター] - 米短期国債(Tビル)利回りは、発行抑制が原因でマイナス圏まで低下する恐れが出てきた。しかし米議会で追加経済対策法案の審議が進展している状況を目にしている市場関係者の間では、利回りがマイナス化しても一時的にとどまる可能性があるとの見方が出ている。

直近でTビル利回りがマイナスとなったのは2020年3月。当時は米国内で新型コロナウイルスの感染拡大が始まったことに起因する市場の混乱が鮮明だった。利回りのマイナス化によって各種借り入れ金利が下がり過ぎた場合、重要な資金調達市場が機能不全を起こすとともに、約5兆ドル規模のマネー・マーケット・ファンド(MMF)業界が打撃を受け、MMFが新規投資受け入れを渋るといった弊害が生じかねない。

米財務省は今月、連邦準備理事会(FRB)の政府預金口座にある現金残高を20年末時点の1兆7000億ドルから今年6月に5000億ドルまで圧縮する計画を表明。これに伴ってTビルの発行が減り、需給の引き締まりによって利回りがマイナスに沈む可能性がある。

ただこうした見通しには、追加経済対策が織り込まれていない。もしバイデン政権の下でさらに想定以上の規模の新たな経済対策法案が成立し、それが特に迅速な多額の予算執行を必要とする内容であれば、Tビル発行の圧縮と利回りのマイナス化は長続きしないかもしれない。

ウェルズ・ファーゴのマクロ・ストラテジスト、ザカリー・グリフィス氏は「例えば来月にも大規模対策が実現すれば、少なくとも当面のTビル供給を増やす必要がある。財務省はなお頼りにできる膨大な現金を保有しているとはいえ、短期的にTビルの供給を増やし続けて資金繰りの一助にすることが不可欠になる」と述べた。

23日のTビル利回りは1カ月―6カ月物まで2-5ベーシスポイント(bp)で推移した。

グリフィス氏は、Tビル利回りが相当な期間マイナスとなった場合、FRBが乗り出して銀行の超過準備に適用する付利(IOER)を引き上げなければならなくなるのではないかとみている。

FRBはこれまで、政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートを誘導目標内に収める金融調節手段としてIOERと翌日物レポファシリティーを活用してきた。これらの金利を引き上げれば、他の貸出市場からより多くの現金を吸収し、短期金利の低下圧力を和らげる効果がある。

財務省はマイナス利回りでTビルを発行できないが、市場情勢が緊迫し、安全資産需要が供給規模を圧倒してしまう局面になれば流通利回りはマイナスに転じる。

ナットウエスト・マーケッツの金利ストラテジスト、ブレーク・グウィン氏は、Tビル利回りがマイナスになってもそれが長期化しない限り、FRBが対応に動く公算は乏しいと話す。同氏がより大きなリスクとして挙げるのは、足元7bpのFFレートが5bpあたりを下回るところまで下がり、FRBの介入を呼び込む可能性が高まる事態だ。

FF市場で主な資金の出し手になっているのは、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)やフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)、FHLB(連邦住宅貸付銀行)といったGSE(政府系住宅金融機関)。グウィン氏によると、彼らはFFレートが2-3bpまで低下すると、市場で資金を運用する代わりにFRBに預金する方を選び、それが市場の流動性を枯渇させて借り入れ金利の大幅な変動をもたらす傾向があるという。

もちろんIOERの引き上げは単なる金融調節上の措置で、FRBが超低金利をしばらく続けるという約束を放棄するわけではない。

またIOERを引き上げる可能性がどれぐらいあるかは、GSEの毎月の資金フロー次第という面も出てくる。GSEは各月とも住宅ローン担保証券(MBS)の元利金を一時的にレポ市場で運用した後、MBSの所有者に支払う。この元利金運用時にレポ金利が低下し、FFレートが一段と下がってもおかしくない。

翌日物レポ金利は18日に一時ゼロまで下がり、23日は5bpだった。

(Karen Brettell記者)