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Illustration: Fanatic Studio / Gary Waters / Getty Images

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ガーディアン(英国)

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Text by Elle Hunt

英語でいう「コンパッション」は「思いやり」「慈悲心」などと和訳される。とすると、「セルフ・コンパッション」は「自分への思いやり」とでも訳せるだろうか。だが、「自分を思いやる」とはそもそもどういうことだろう? 英「ガーディアン」紙が専門家たちに取材してまとめた「セルフ・コンパッション」入門を全訳でお届けする。


トビン・ベルは、これまでのセルフ・コンパッションの訓練が報われたその瞬間をいまでも覚えている。

仕事から帰宅したばかりの彼は、その日、自分がしでかしたミスを思い返していた。代わりに何ができたか、何をすべきだったか──こういう類いの自己批判的な考え方に、彼は長年苦しんできた。

そのとき、不意に、別の声が返事をしたのだ。穏やかで落ち着いた声が、ベルを、子供の頃の懐かしいあだ名で呼んだ。

精神保健の看護師になる訓練をしていたとき、ベルは自分の内なる批判者に対抗し、脈絡を与える戦術を学んでいた。

彼の内なる独白で残酷さと優しさが突如出会ったその瞬間、そうした戦術は有効だったことが明らかになったのだ。

ベルは言う。

「このセルフ・コンパッションの声を実際に練習していました。それが現れて答えたというわけです。ほんとうに感動しました。ありえないと思っていたからです」

セルフ・コンパッションをマインドフルネスとか感謝に似たものと見る人は多いかもしれない──立派な目標だが、習慣化するのは難しいやつだと。


だが、ベルの例が示すように、私たちの内なる独白を変えることは可能だ。そしてそれは、個人の健康だけでなく、おそらく社会の健康にとっても利益がある。

自分のために思いやりを育むことで、ほかの人をもっと思いやれるようになるとエキスパートたちは言う。つまり、より優しく、穏やかで、共感的なアプローチは外へ放射するのだ。

コロナ禍でのロックダウンが続き、不安や不満も募るだろういま、あなたの内なる独白を変えることは、自分のメンタルヘルスに気を配るための小さな、そして重要なことに、無料の第一歩だ。

セルフ・コンパッションの目的を知る


セルフ・コンパッションは、「自分にご褒美」的な意味でのセルフケアではない。単に自分に優しくあることでもない。

「思いやりの心財団」を設立した臨床心理学者のポール・ギルバートによれば、コンパッションは「苦しみのほうへ向くこと」と理解できるという。それが自分の苦しみであれ、他者の苦しみであれだ。そして、その苦しみを和らげるために動くことでもある。
残り: 766文字 / 全文 : 1964文字

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