[東京 24日 ロイター] - 日銀元副総裁の山口広秀・日興リサーチセンター理事長は、ロイターのインタビューで、日銀の金融政策がさらなる株価の押し上げのために運営されかねないと警戒感を示し、上場投資信託(ETF)の保有残高がどんどん膨らむ状態からできるだけ早期に脱却すべきだと語った。

政策点検について「率直に言って日銀が今回の点検で何を狙っているのかはよく分からない。日銀が実体経済や市場に対し、インパクトのある点検結果を打ち出せる可能性は乏しい」と指摘。「様々な人々の考えの最大公約数を見つけ出し、『やっている形』を見せるだけの点検になるのではないか」と述べた。

<ETF買い入れ、やめる覚悟が必要>

山口理事長は「日経平均が3万円台に達している現在のようなときに、ETFを買う必要はないだろう」と指摘した。「このままでは日銀の金融政策は株価のさらなる押し上げのために運営されることになりかねない」と警鐘を鳴らし、「むしろこの機会にETFの買い入れをやめる覚悟が必要だが、実際にはやめることはできないだろう」とした。

また「直ちに保有しているETFを売ることはできないだろうが、長い目では売却すべきだ」と述べ、「ETFの保有残高がどんどん膨らんでいく状態からはできるだけ早く脱出すべきだ」と語った。

<導入時と黒田日銀は思想が全く違う>

山口氏が副総裁在任中の10年10月、日銀は「包括緩和」としてETFを買い入れることを決めた。当初、日銀はバランスシートの中に別枠として基金を作り、買い入れた資産の残高を市場がチェックできる仕組みにした。山口理事長はこうした制度設計が「出口を模索できるプロセスにもなると考えた」と振り返った。

当初の構想とは対照的に「黒田日銀はそういう形の中途半端な政策運営が、市場などの将来期待をかえって不安定化してしまったという評価だった。2年で2%のインフレを達成するためには旧来の日銀的発想を捨てて、やれることは何でもやるということだった」と述べ、「ETFの買い入れ自体はわれわれの時代の延長線上の政策だが、思想は全く違う」と強調した。

山口理事長は日本や米国の株高基調について「基本的には資産バブルだと思っている。米国の資産市場や実体経済の動きを見る限り、資産価格の上昇がいよいよ資産効果を通じて実体経済を大きく水膨れさせる効果を持つようになっている」と指摘。「もはや日銀にはグローバルなバブルがはじけたときの対応力がほとんどなくなっていることも心配だ」と述べた。

<長期金利のコントロールは難しい>

政策点検は、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運営手法の見直しも柱の1つとなる。日銀が長期金利の許容変動幅を拡大するとの観測が足元の長期金利上昇の一因になっている。山口理事長は、日銀はイールドカーブをコントロールできると言っているものの、「長期金利をある程度の期間狭いレンジの中でコントロールするのは難しいし、長期金利とは本来そういうものだ」と説明した。

円高が急速に進んだ場合、マイナス金利の深掘りが選択肢になり得るが「(マイナス金利を深掘りした場合)長期金利が上振れし、イールドカーブがスティープ化するなら、金融機関収益への影響もミニマイズできるかもしれない。しかし、そうなる保証はない」と指摘。「政策手段がほぼ枯渇している中で景気の下振れリスクにどう対応するつもりなのか。副作用はあっても腹をくくって対応するしかないだろう」と語った。

<日銀は「自らを追い込んでいる」>

山口理事長は「日銀はいつも何かをしなければならないという思いに駆られているようにみえる。何かをすることで『やっている形』を作り、常に政策の正当性・妥当性を世の中に示していかなければならないという状況に自らを追い込んでいる」と語る。

「日銀としては考えられることはほとんどすべてやった」(山口理事長)にもかかわらず、物価は2%目標からは程遠い。山口理事長は「そろそろ『真の政策点検』を行い、それを踏まえて政策の枠組みの見直しを進めていければよいと思う。しかし、そういった意味での真の点検をやろうとすれば、直ちに引き締め感が出てしまい、それもできない」と話した。

このインタビューは22日に実施しました。

(和田崇彦、木原麗花 編集:内田慎一)