2021/2/26

専門家から24時間で回答が届く。「FLASH Opinion」の衝撃

NewsPicks Brand Design Editor
 データベースや書籍を用いたデスクリサーチではアクセスできない、各分野の専門家の知見が得られるエキスパートインタビューは、多くのコンサルティングファームや事業会社の新規事業プロジェクトで活用されている。
 しかし、インタビューの調整は、時に想定以上の時間と労力を要する。意思決定サイクルが飛躍的に速まっている現在のビジネスシーンにおいて、これは致命的なロスだ。
 専門家の知見を最速でキャッチアップできれば、情報活用における「速度」と「精度」のアドバンテージを最大化できる──。
 そんな発想から生まれたのが、経済情報プラットフォームSPEEDAが新たに提供する「FLASH Opinion」だ。
 これを使えば、あらゆる領域・分野に精通した専門家(エキスパート)から、24時間以内に情報提供が受けられる。
「FLASH Opinion」の活用によって、リサーチ業務はどう効率化できるのか。 サービス提供元のSPEEDA、開発パートナーのアクセンチュア、およびFLASH Opinionへ回答を提供するエキスパートの三者の視点からひもとく。
INDEX
  • 知見「獲得」から、知見「流通」の効率化へ
  • リサーチにおけるFLASH Opinionの「破壊力」
  • 国内外の事例収集もたった「数時間」で
  • 優良な「仮説」が強い提案を生む
  • FLASH Opinionは企業も個人も変えていく
  • 「専門知」の循環サイクルを作る

知見「獲得」から、知見「流通」の効率化へ

 2020年にユーザベースグループに加わったミーミルは、各領域の専門的な知見を持つエキスパートを集めた独自のネットワークを構築し、海外と比べて日本では立ち遅れていた「エキスパート・ネットワーク」をさまざまな業界に浸透させてきた。
 昨年9月、ミーミルは、同じくユーザベースが運営する経済情報プラットフォーム「SPEEDA」上にて、「FLASH Opinion」の提供を開始。
 これはSPEEDA上からあらゆる領域・分野の専門家に質問ができ、24時間以内に5人以上からテキスト回答が得られる、という国内でも類を見ない革新的なサービスだ。
 ミーミル代表取締役の川口荘史氏は、主にプロフェッショナルファームで活用されてきた「エキスパートインタビュー」の非効率を解消したいと考えていた。
「我々はエキスパート・ネットワークを通じて“知見獲得”を効率化してきました。それをもう一歩進めて、“知見流通”の効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指したのが『FLASH Opinion』です。
 FLASH Opinionを通じて、専門家の知見が企業の意思決定により生かされ、インフラとして受け入れられる世界を作りたいと考えています」(川口氏)
 知見のない市場のリサーチを進めるには、専門家へのインタビューが欠かせない。しかし、インタビュー対象の選定は時間がかかる作業だ。さらに日程調整があり、インタビュー自体にも拘束時間が発生する。
 また、従来のエキスパートインタビューでは、いつどのメンバーが誰にインタビューを実施し、どのようなインプットが得られたかを残すことが難しい。
 十分な成果が得られても、アセットとして適切に整理され、蓄積されていることは稀だ。
 独自にナレッジシェアシステムを内製する企業もあるが、多くの時間と資金の投入が必要になる。多くの企業が、得られた情報を社内でどう共有するべきか悩んでいるのだ。
「プロフェッショナルファームに勤めるコンサルタントや、事業会社での新規事業・事業開発の担当者、経営戦略を策定する経営企画部の方。
 リサーチニーズを頻度高く抱えるこういった方々の多くは、SPEEDAをすでに活用されています。
 ですから、SPEEDA上でリサーチをして、さらに突っ込んで調べたいときはエキスパートに質問を投げる、というのは自然な体験です。翌朝、SPEEDAにログインしたら、質問の回答が返ってきていて、チームでの共有も容易にできるという流れになります。
 ちなみに、回答はリアルタイムにSPEEDAへ反映されていくのですが、24時間を待たず、数時間で複数の回答が返ってくるケースもしばしば。この体験は唯一無二だと自信をもって言えます」(川口氏)

リサーチにおけるFLASH Opinionの「破壊力」

 FLASH Opinionの開発にあたっては、ユーザーの目線からアクセンチュアも開発パートナーとして参加している。
「我々コンサルティングのビジネスでは、リサーチによって深みのある情報からインサイトを導出することが使命の一つです。
 ただ、ビジネス環境の変化が激しい昨今、その作業は年々複雑さが増し、よりスピードが要求されるようになっています。
 アクセンチュア社内に在籍するエキスパートの知見やアセットの活用に加え、社外の知見も効果的に取り入れていきたい。 そう考え、FLASH Opinionのサービス開発にユーザーとして参画しました」
 こう話すのはアクセンチュアの堀口雄哉氏だ。 
 リサーチ業務やエキスパートへのインタビューも効率化が求められる。しかし、誰にでもすぐに取れるようなデータを集めても良質なインサイトは導けない。
 より効率的、効果的なインタビューを実施するうえで、FLASH Opinionは威力を発揮しているという。
「コンサルの現場では、『今日明日で資料をまとめなくてはいけない』という場面がよくあります。限られた時間の中、いかに質の高い資料を作成できるかが重要なのです。
 そうした際、クイックに仮説を立てた上でFLASH Opinionに質問を投げておくことで、取得が難しいファクトの確認でも糸口が掴めます。
 さらなる深掘りの知見獲得が必要な場合も、FLASH Opinionの過去の回答を見れば、どのエキスパートに話を聞くのがベストか、スクリーニングが可能です。
 特に『業界を横断した知見』が求められるケースにおいて、FLASH Opinionは強いですね。
 アクセンチュアでは、企業の大規模なDXをご支援するケースが多いのですが、DX戦略を立てるには、複数のインダストリーや業務領域をカバーし、インサイトを導く力が求められます。当然リサーチ範囲も多岐にわたります」(堀口氏)
 たとえば「ヘルステック領域のDX戦略」について考えるとき、最新テクノロジーの知見だけでなく、医療機関のニーズや現場課題への理解が必要となり、さらにはユーザー体験を向上させるという観点も必要になる。
iStock:LaylaBird
 法規制の存在により、海外事例がそのまま適用できないケースが多いため、中央省庁の動向チェックが必要だ。もちろん、コロナ禍の影響も無視できない。
「これまで以上に多方面の深い知見を、素早く集められるのはFLASH Opinionならではです。
 エキスパート知見の収集さえも効率化することで、先進事例の深掘りによるインサイト導出といったコアな思考プロセスに早く軸足を移せるのは、我々のクライアントにとっても有意義でしょう」(堀口氏)

国内外の事例収集もたった「数時間」で

 また、FLASH Opinionはグローバルの事例調査や国内事例との比較分析を行う際にも有効だという。
 直近では「SaaSビジネスの顧客獲得効率を高める」という案件で、FLASH Opinionが役に立ったと堀口氏は話す。
iStock:jariyawat thinsandee
「SaaSビジネスにおける『LTV(Life Time Value)』や『CAC(Customer Acquisition Cost)』といったベンチマーク指標は、特に米国投資家が重視することで日本でも知られています。
 その案件では、米国の状況を参考にしつつ、数年後のクライアントにとって最適なLTV:CAC比を導出していく必要がありました。
 しかし、当然米国と日本ではマーケットの状況もユーザー側の認識も変わってくる。そのため、まずは日本において米国の先進事例や評価指標をどう読み解くべきか、が論点になります。
 そこで、FLASH Opinionを使って日本での類似の取り組みを質問したところ、スピーディーに回答が集まってきた。そうして得た複数のファクトをベースにしつつ、我々の知見や推計を加え、想定以上に素早くクライアントに提示できました。
 このような海外マーケットが先行している分野において“日本版の指標”を作りにいくときには、非常に有用だと感じています」(堀口氏)
 さらに、「クライアントのビジネスから“遠い業界”を“複数かつ同時”に深掘りする際にもエキスパートの知見は参考になる」と堀口氏は付け加える。
 実際にそれを感じたのは、コロナ禍における「衛生管理ビジネス」の事業立案プロジェクトが始まったときだった。
「そのプロジェクトでは、IT系クライアントが保有するニッチな『衛生管理テクノロジー』が、どういった業種でニーズがあるのかについて、具体的な利用シーンを交えて提示する必要がありました。
 しかし、短期間で約20にのぼる業種をリサーチしなくてはならず、頭を悩ませていました。
 そこで、FLASH Opinionで網をかけるように情報収集し、さらにエキスパートへの深掘りのインタビューを実施。すると、農業や林業、漁業といった業界での具体的なニーズの確認ができ、クライアントのテクノロジーが競争優位を持つマーケットが明確になった。
 それらの業界への知見が浅いIT系のクライアントにも、エキスパートの知見に基づいた事例を紹介し、納得を得ることができました。
 ニーズの特定が迅速にできたことで、ビジネスケースの策定や次フェーズに控えていた実証導入も前倒しが可能になり、Time to Market(市場投入までのスピード)を重視していたクライアントからも感謝されました」(堀口氏)

優良な「仮説」が強い提案を生む

 なお、FLASH Opinionを効果的に活用する上でポイントになるのは、「仮説を持って臨むこと」だと堀口氏は語る。
「実際にエキスパートに質問する際に、例えば『コロナ禍において外食産業はどう変化していくか』のようなオープンクエスチョンを投げては、得られる回答もぼやけてしまう。
 問いが正しいことは大前提として、その問いに対する基礎データや知識をもとに、精度の高い仮説を作る。仮に定量データがなくても、可能な限り推計しておく。
  その上で、エキスパートからどんな回答を引き出したいか、そのためにはどんな質問を投げかければいいのかと思案し、『インタビューの設計』を行う。ここは、コンサルタントの腕の見せどころです。
iStock:Weedezign
 単なる情報格差で優位性が出るほど、コンサルの仕事は甘くありません。
 エキスパートの知見を活用することで、通常のリサーチでは取得できない数字も一定の根拠をもって得られるし、情報の徹底的な“微分”によって、新たなインサイトが導出できるのです」(堀口氏)
 また、複数のエキスパートから視点の異なる回答を得られるからこそ、これまで見えていなかった可能性に気づくチャンスも生まれるという。
「FLASH Opinionでストックされた知見を、ニュース記事のように読み解いていく。
  すると、自分の担当したクライアントや業界、世の中の動向にさらに敏感になり、先が見えてくるという副次的な効果も期待できます。
 コンサルタントの学習意欲が旺盛であればあるほど、ますます手放せないツールになるでしょう」(堀口氏)
iStock:Fedor Kozyr

FLASH Opinionは企業も個人も変えていく

 現在、ミーミルには多種多様な分野に知見を持つ約9,000人(海外提携先も含めると約25,000人)のエキスパートが在籍している。エキスパートはどのような条件で選ばれるのか。
「我々がエキスパートを選定する際には、『業界にリアルタイムで関わり、フレッシュな情報を得ていること』『ほどよく現場感を持ちつつも、俯瞰的な見方もできること』を重要な条件としています。
 現場感覚を持った経営者やリーダー/マネジメント層が理想。我々はヘッドハンティングという形で直接声掛けをしたり、リファラルでご紹介いただくことで、エキスパートの質を担保しています」(川口氏)
 では、実際に活躍しているエキスパートはどのような人物なのか。今回、その一人として話を聞いたのが、NTT西日本に勤務する濱村文久氏だ。
 濱村氏は、FLASH Opinionのリリースからわずか5カ月で、約40件の質問に回答。
 この回答数は、昨年にFLASH Opinionで活動したエキスパートの中で最多であり、先日開催された「ミーミル エキスパートアワード」でも表彰された実績を持つ。
 濱村氏は、NTT西日本グループ内で事業開発に10年間携わり、地方公共団体などを中心とした「地域DX」の推進に従事。
 現在は営業部門に異動しマネージャーとして3年になる。その経験を生かし、地方創生・官民連携分野のエキスパートとして活躍している。
 そんな濱村氏が、FLASH Opinion で回答した質問は、「仮説を確認したい」「事例を紹介してほしい」「今後の市場動向は」といった内容のものが多かった。
「質問者側のニーズを想像するに、今はいろいろなメディアがあり、情報をオープンにしているシンクタンクも多い。でも、質問者が知りたいのはそこに出ている情報よりも、もっと粒度が細かいものでしょう。
 事例についても情報が溢れかえっているなかで、スクリーニングの機能を期待されているように感じています」(濱村氏)
iStock:metamorworks
 他方、本業も多忙なエキスパートにとって、24時間以内に200~800文字程度のコメントを返信することは負担ではないのか。率直な疑問を投げかけた。
「もちろん、本業との両立はスケジュール調整が大変なときもあります(苦笑)。
 ただ、文字数の制約のある、テキストのみで考えを伝えるには、相手の質問を再定義し、提供する情報を構造的に整理する必要があるため、かなり刺激的な訓練でもある。
 私は今マネージャーの立場なので、組織運営やチームビルディングにも役立ち、本業に還元できる部分が多いと感じていますよ」(濱村氏)
 濱村氏はFLASH Opinionを個別指導塾にたとえる。学校の授業のように、全員が同じ情報を受け取るのではなく、個々人での人脈や、会社としての人脈だけでは解決が難しい「そのときつまずいている問題」に対して、的確なアドバイスが受けられるからだ。
様々な業界を網羅した9,000人のアドバイザーがすぐ隣にいてくれるという感覚は、私が質問者の立場であれば、『心強い』と期待を持てるでしょう。
 自己への投資も兼ねて、その一端を担わせてもらえているのは、とてもありがたいことです」(濱村氏)

「専門知」の循環サイクルを作る

 未来の不確実性は高まる一方で、専門性はより細分化されている。そんな状況で「この人に聞けば、すべて解決」ということはあり得ない。川口氏はこれからの意思決定の在り方を次のように分析する。
「誰か1人の見解ではなく、複数のエキスパートの複数の立ち位置からの見え方を通じて、企業が意思決定するのがスタンダードになっていくでしょう。
 また、エキスパートの見解が企業の意思決定により一層取り入れられていけば、個人の力が強まります。そんなとき、適切な個人に、適切な注目が集められるようにしたい。
 そして、こうした『個』の持つ『専門知』を多くの人々に還元するようなサイクルを作りたいと思っています」
 ミーミルがアンケートを行ったところ、エキスパートたちは「自分の知っていることを教えたい」という気持ちが強いことがわかった。いわば、ピュアな動機に基づいて活動しているのだ。
「そうしたエキスパートが適切な評価を受け、彼らの仕事の可能性が広がり、よりよいコミュニティにつながるようにするのも、我々の重要な仕事。
 先日のエキスパートアワードを皮切りに、今後も『エキスパートの交流の場』としての機能も拡充していきたいと考えています。
 また、FLASH Opinionはテキストコンテンツのため、インタビューと比較して評価が容易で、クイックに蓄積が可能。すでに1,000件以上の質問と1万件近い回答が記録されています(2021年2月時点)。
 今後は、こうしたデータを活用して、UberやAirbnbのような『評価・マッチングシステム』も導入していく予定です。これにより、精度の高い回答者のマッチングに役立てたり、評価内容を還元したりと、エキスパートの価値を高めていけると思います。
 人(エキスパート)とテクノロジーの力を掛け合わせることで、FLASH Opinionはエキスパートの新たなナレッジプラットフォームになっていく。企業の『マストハブ』な存在になっていきたいですね」(川口氏)