2021/2/22

【視点】見落とされている「アスリート・ファースト」の価値

スポーツライター
コロナ禍による医療体制の逼迫、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長の女性蔑視発言により、開幕まで半年を切った東京五輪には否定的な声が多く寄せられている。
一方、開催を信じて準備を進めるのがアスリートたちだ。4年に1度の晴れ舞台は、大袈裟に言えば彼らにとって人生が変わる舞台である。
医療」「お金」という観点から東京オリンピック・パラリンピック(以下東京2020大会)の“リアル”を掘り下げてきた本連載の最後では、主役となる「アスリート」や「競技団体」の視点から、東京2020大会が社会にもたらす価値を改めて見直したい。

来られない国、行かせない国…

「オリンピックが予定どおりに行われることを前提にして、重要なのは本番までの数カ月。3つのシナリオをIFから伝えられています」
そう話したのは、日本トライアスロン連合の大塚眞一郎専務理事だ。
IFとは国際競技連盟のことで、ワールドトライアスロン(国際トライアスロン連合)で副会長を兼務する同氏は、IFが描く3つのシナリオをこう説明する。
(1)予選、本番とも予定どおりに行われる
(2)国内外で予選開催は難しいが、東京2020大会は行われる
(3)予選が無事に行われた後、海外から選手団を迎えるのが難しい状況となり、東京2020大会開催に支障が出る
そもそも東京2020大会開催の前提は、日本がホスト国として海外選手団を受け入れられる状況にあることだ。
そこで日本政府は「アスリートトラック」と言われる特殊措置をオリンピックとパラリンピックに出場する選手、関係者に適用し、必要な防疫措置を講じた上で入国を許可。
入国後、14日間の待機期間中の活動を許可している(※Jリーグからアジアチャンピオンズリーグ2020に出場したFC東京、横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸にも適用)。
一方、組織委員会は選手団や関係者にワクチンの接種を義務付けておらず、JOC(日本オリンピック委員会)も選手の優先的接種を求めない方針だ。
以上の状況を見た上で、大塚専務理事は五輪本番までをこうシミュレーションしている。
「日本に“来られる国”と“来られない国”、さらに“行かせない国”も出てくる。そのように参加国に影響が出ることもあると思います」
(写真:AP/アフロ)