©「痛くない死に方」製作委員会

(髙山 亜紀:映画ライター)

 2008年の12月23日に父を、6年後の2014年の同じく12月23日に母を亡くした。

 息を引き取る瞬間こそ、父の時には母が、母の時は私と妹一家が一緒にいることができたけれど、よくある映画みたいに「ありがとう」「いい人生だった」とかそんな言葉どころか、二人とも意識すらなかった。真っ白い病院の個室でただ亡くなる日を待ち続けた両親はどんな思いだったのだろう。

 遺体になって、やっと自宅に戻れた父と母。いまでも、「ああすればよかったのかな。どうすればよかったのだろう」と自分の無知さを後悔することがある。

「在宅で平穏死」の高い壁

『痛くない死に方』は在宅医と患者と家族の物語。人はどう死ぬべきなのか。病院か、在宅か。死に方が選択できてもいいのではないかと教えてくれる。

 在宅医療のスペシャリストで、実際に尼崎市で在宅医として活躍している長尾和宏のベストセラー「痛くない死に方」「痛い在宅医」がモチーフとなっており、長尾氏は本作で医療監修も担っている。同時期に公開される長尾氏に密着したドキュメンタリー映画『けったいな町医者』のナレーションを務めた柄本佑がここでは主人公の在宅医を演じている。

 末期の肺がん患者の父親が手術や抗がん剤治療といった延命の標準治療を拒否したため、どこの病院でも受け入れ拒否された娘(坂井真紀)。「苦しまずに逝かせてあげたい」と在宅医療で最善を尽くそうとする。在宅医師の河田(柄本佑)はマニュアル通りの対応で、時には患者をビデオ撮影で診察することもあった。

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 娘は献身的に世話をするが、父は苦しみ続け、最後には「殺してほしい」と懇願する。頼りない看護師と一向に姿を見せない在宅医。苦しみ続ける父親の前に娘はなす術がなく、河田医師が現れた頃には亡くなっていた。「在宅で平穏死なんて嘘ばっかり」。病院にいさせた方が良かったのか。自宅に連れ戻した自分が父を殺したのではないかと娘は呆然とする・・・。

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