中国政府が「Clubhouse」を禁じても、活発な議論の流れは変えられない

音声SNS「Clubhouse」の中国での利用がブロックされたが、いまも一部の人々は検閲の網をかいくぐって利用を続けている。このため、ウイグル族の弾圧や天安門事件といったセンシティヴな話題に関する議論が国境を越えて交わされることで、中国の言論における重大な契機になるとの見方もある。
Clubhouse
QILAI SHEN/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

人気の音声SNSClubhouse」の中国での利用を禁止するために、このほど中国政府が国内での接続をブロックした。中国のオンライン検閲システム「グレートファイアウォール(金盾)」内外の人々がClubhouseに集結するという異例の事態が数日ほど続いたあとのことだ。

ところが、その後も一部の中国人は仮想プライヴェートネットワーク(VPN)を通じてClubhouseの利用を続けている。台湾の独立、天安門事件、ウイグル族の弾圧など、物議を醸すトピックに関する議論に参加し続けたのだ。

中国本土からVPNを使ってClubhouseにアクセスしていたというある人物は、こうしたテーマに関する議論は恐らく中国政府から監視されているが、意見を聞いてもらうことの重要性を感じたと語っている。ソーシャルメディアでの誤情報に対する米国政府の取り締まりとの類似点について発言する人もいた。

社会学の博士研究員でプリンストン大学現代中国センターの客員研究員のグレース・ティエンは、中国政府によるClubhouseの利用禁止について議論するルーム(Clubhouse上のチャットルーム)のモデレーターを務めた。ティエンは取材に対し、テクノロジーに精通した上海の友人数人が、恐らく中国政府によってClubhouseの利用が禁止されたあともClubhouseを利用できたと説明している。

ウイグル問題についても議論

Clubhouseは招待制のiPhone専用アプリで、最大5,000人のユーザーが会話を聴いたり発言したりできる「ルーム」をつくることができる。昨年、シリコンヴァレーのインフルエンサーとそのフォロワーの間で大ヒットとなった。最近はイーロン・マスクがClubhouse上で議論のホスト役を務めたことでも知られている。

最近では、中国の著名な技術者や起業家がClubhouseへの関心を高めたことで、2月に入ってユーザーが急増し、中国政府が介入することになった。ティエンによると、2月最初の週末に中国人の間でClubhouseの人気が急速に広まったようだが、政府によって利用が禁止されたあとに関心は低下したという。

また、このときは中国本土の人々と外部の人々がルームに集まり、通常なら政治色が濃く中国と西側のメディア双方において正確さに欠く報道がされるトピックについて議論する様子が興味深かったと、ティエンは振り返る。議論に参加したティエンは、米国と中国の宗教および起業家コミュニティについて、自身の研究の視点から意見を述べた。

さらにティエンは、中国の新疆ウイグル自治区におけるイスラム教徒の抑留と弾圧の問題について、「ネイティヴの中国人がウイグル人の話を聞いてどのような反応を示すのかを聴きたいと思いました」とも語っている。この弾圧は一部の米国の政治家からジェノサイド(民族大量虐殺)と呼ばれている。

ティエンは、Clubhouseのように自由だが荒れる可能性もあるデジタルな討論の場は、偶然の出会いに適しているのだと指摘する。「普段なら決して出会うことのない人々と、ある意味で親睦を深め、率直な会話を交わす機会を与えてくれるとも言えます」

つながりを求めた中国人たち

中国のインターネットエコシステムを長らく研究してきたスタンフォード大学の研究者のグラハム・ウェブスターは、この週末にClubhouseでの議論を聴いて驚いたという。「中国のソーシャルメディアでは基本的に議論できないことを、突如として実際に議論できたのです」とウェブスターは言う。「障壁が取り除かれ、多くの人々にとって爽快な体験でした」

中国でClubhouseが人気を博したのは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と旧正月も影響している可能性があると、ウェブスターは指摘する。故郷の中国で家族と会えない海外在住の中国人が、Clubhouseを通じてつながりを求めたのではないか、という推測だ。


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Clubhouseの初期ユーザーで『フォーブス』誌に寄稿しているロジャー・ホアンは、まだ多くの人がVPNを経由して中国本土からClubhouseのルームにアクセスしているようだと語る。ホアンは米中関係を専門とするClubhouseのグループ「Tianxia(天下)」を共同設立しており、グループのメンバーは20,000人を超える。

ホアンによると、すぐにClubhouseは祖国を離れて暮らす中国系の人々のハブとなり、中国本土、台湾、香港、そして欧米諸国で暮らす人々の間で活発な議論が展開されるようになった。しかし、中国政府による利用禁止が「社会的な禍根」を残し、中国本土の一部の人に参加を思いとどまらせると同時に、より強硬な親中派と反中派の声だけが残る可能性があるとホアンは考えている。

中国の言論の重大な契機に?

米中間では政治的な差異がますます明白になり、熾烈な技術競争の議論が白熱している。こうしたなか中国でのClubhouseの興亡は、米国と中国のテクノロジー産業がいかに密接に絡み合っているのかを浮き彫りにするものだ。

中国は国内で非常に高度なインターネット検閲システムの運用を達成しており、多くの欧米のウェブサイトやソーシャルプラットフォームはブロックされいる。中国のソーシャルメディアでの投稿は定期的に監視され、検索クエリやチャットアプリで特定のキーワードの使用は制限されているのが実情だ。

一方で、多くの中国人エンジニアや起業家、投資家が米国の企業や大学とつながりをもち、太平洋を越えて投資がおこなわれる。ショート動画アプリ「TikTok」のような中国発のいくつかの技術的アイデアは、米国での定着に成功している。

中国の時事問題を取り上げるポッドキャスト「Sinica」の共同ホストであるカイザー・クオ(郭怡広)は、中国のClubhouseユーザーはほぼ間違いなく人脈豊富で裕福な中国沿岸部のエリートで、グレートファイアウォールの回避策を知っている可能性が高いと指摘する。

このときの週末に無検閲で活発な議論が交わされた様子を見たクオは、これを重大な契機と考えているという。「Clubhouseの参加者が議論の流れを変える可能性があります」と、彼は言う。

シリコンヴァレーを拠点とするヴェンチャーキャピタリストのマイク・バイは、Clubhouseのユーザーはどちらかと言えば欧米と強いつながりをもつほんの一部の中国人である点に注意すべきだと指摘する。彼は北京、上海、深圳で長年暮らしてきた経験がある。彼はClubhouseで議論に参加した際に、米国では一般的な中国に関する単純化された描写に異を唱えたのだと語る。

バイによると、Clubhouseでの中国の人々の視点は必ずしも均一的なものではなかったという。ほかの国と同様に、中国では「さまざまなマイノリティ、さまざまな階級によってそれぞれ体験は異なるのです」と、バイは言う。なお、Clubhouseに取材を申し込んだが、返答はなかった。

※『WIRED』によるClubhouseの関連記事はこちら。中国の関連記事はこちら


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TEXT BY WILL KNIGHT