ターボの仕組み
過給機の一種であるターボチャージャーを短縮した「ターボ」の呼称が高性能の代名詞になったのは、1970年代だった。1973年、BMWは基幹車種の「2002」にターボモデルを追加。ポルシェは1975年に「911ターボ」(コードネーム930)を発表した。どちらも、レースで培った技術がベースにあった。見方を変えれば、レースで勝つためにターボ技術を磨いたのだ。エンジンの出力を高め、車両のパフォーマンスを引き上げるためである。
排気を受けて回転する羽根車(タービンホイール)と、その羽根車と同軸につながった羽根車(コンプレッサーホイール)が、ターボチャージャーの中心になる部品だ。親指と人差し指を軽く開いた長さを持つシャフトの両端に、タービンホイールとコンプレッサーホイールが背中合わせの格好でつながっている。そしてそれが、軸受で支えられてハウジングに収まり、固定されている。
タービンホイールは排気を受けると回転を始める(逆にいえば、排気がないと機能しない)。すると、同軸上のコンプレッサーホイールが回転し、空気を高速で吹き出して、加圧する。加圧された空気の密度は高くなり、そこに含まれる酸素分子は多くなる。空気が濃くなるということだ。エンジンは排気量を大きくするほど、出力を高くするポテンシャルが高まる。排気量が2リッターなら、1サイクルで2.0リッターの空気を取り込んで燃焼に使うことができる。
ガソリンと空気中の酸素が過不足なく結びついて燃焼する量は決まっており、空気14.7gに対してガソリン1gだ。排気量が2.0リッターなら、その空気量に見合ったガソリンの量はおのずと決まってしまう。
ところが、ターボで過給して空気を濃くしてやれば、ガソリンの量も増やすことができる。過給して空気の密度を2倍にすれば、投入できる燃料も2倍になり、パワーも2倍になる。これこそターボエンジンが高出力を発生させる原理だ。
燃費が悪かった理由と改善策
昔のターボエンジンは燃費が悪くて当然だった。なぜなら、排気量以上の仕事をしていたからだ。排気量2.0リッターのエンジンがターボの助けを借りて空気の密度を2倍にしていた場合、排気量4.0リッターのエンジンと同等の仕事をしていたことになる。実質的に4.0リッターエンジンとおなじ仕事をしているのに、2.0リッターエンジンと思って評価するから、“燃費は悪い”と、感じたのだ。
たしかに、かつてのターボエンジンの効率は悪かった。気体全般にいえるが、空気は圧縮すると温度は上昇し、急激な圧力上昇にともなってピストンなどの破壊につながることもあるノッキングを誘発する。それを避けるために圧縮比を極端に下げていたのが、初期のターボエンジンだった。圧縮比はエンジンの熱効率に直結するため、初期のターボエンジンは低い圧縮比ゆえに、大きなパワーと引き換えに燃費の悪さを覚悟しなければならなかった。
高い温度が悪さをするなら、冷やせばいい。圧縮して温度が上昇した空気を冷やす役割を担うのが「インタークーラー」だ。インタークーラーは早い時期から採用されていたが、かつては自然吸気エンジンを前提としたエンジンルームに無理矢理場所を見つけて押し込んだようなところもあったので、充分な冷却性能が確保できなかった。ターボエンジンの搭載を前提にエンジンルームを設計し、走行風があたりやすいフロントグリルの背後にインタークーラーを置くことができるようになって充分な冷却性能が得られるようになっている。
直噴(筒内直接噴射)による混合気の冷却効果も大きい。初期のターボエンジンは吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射が採用されていたが(それが一般的だった)、2000年代半ば頃から直噴が一般化した。直噴は燃焼室内に直接、小さな孔から高圧で燃料を噴射するため、気化潜熱によって混合気の温度が下がり、ノッキング限界が上がる。
ほかにも、可変バルブタイミング機構の採用で吸排気バルブの開閉タイミングを制御し、残留ガスを上手に掃気することでシリンダー内の温度低下につなげたり、クールドEGR(排ガス還流)の導入によって燃焼速度を緩慢にすることでノッキング限界を引き上げたりする方向もある。これらの複合技でノッキングの抑制に、そして燃費悪化の抑制につなげている。
ターボラグの解決策
ターボラグ(応答遅れ)は、ターボ過給エンジンとは切っても切り離せない永遠の課題だ。ターボが排気のエネルギーを利用する以上、いかんともしがたい。
ドライバーが「もっと力が欲しい」と、アクセルペダルの踏み込み量を増やすと、それに反応してスロットルバルブが開き、シリンダーに入る空気の量が増え、増えた空気量に見合った燃料が噴射されて燃焼し、排気となり、その排気がタービンホイールにあたって回転が増し、同軸にあるコンプレッサーの回転が高まって空気をより強く圧縮。その圧縮された空気がインタークーラーで冷やされて吸気ポートを経てシリンダーに取り込まれ、多くなった酸素分子に合わせて多量の燃料を噴き、燃焼。その結果、大きな燃焼圧が発生してピストンを押し下げることで、ようやくドライバーが期待した力が生まれることになる。
このように、ターボエンジンは多くのプロセスを順に踏まないと大きな力を発生しない。ところが、ドライバーは思ったように加速しないからとアクセルをさらに強く踏んでしまう。そのため、ワンテンポ置いて突然強大なトルクが立ち上がり、ドッカンと衝撃を感じるのだ。これが、かつてあった“ドッカンターボ”の正体である。
さまざまな技術の投入によって、ターボラグの解消が図られてきた。王道は、小さなエネルギーでタービン/コンプレッサーホイールが応答性高く回転するようにすることである。そこで、タービン/コンプレッサーホイールのサイズを小さくし、かつ軽量化した。
羽根の形状も変更された。タービン側は、排気が持つ熱エネルギーを効率良く運動エネルギーに変換し、コンプレッサー側は、運動エネルギーを効率良く圧力に変換できるようになった。これらは解析技術進歩の賜物で、燃費性能の向上に結びついた。
4気筒エンジンでは、排気干渉によるロスを抑えるため、タービンハウジングを2分割し、1番&4番と2番&3番の排気で通り道をわけたツインスクロールターボの出現もターボラグの解消に役立っている。
パワーではなくトルク重視
昔のターボエンジンは高回転域のパワーを求めていたので燃料消費も多く、圧縮比も低くて燃費が悪かった。それに、高出力を狙うために大きなターボを採用していたので、ターボラグも大きかった。
現代のターボエンジンはピークパワーよりもむしろ、低中回転域のトルクを重視する傾向が強い。例えていうなら、かつてのように2.0リッターの排気量で4.0リッターの出力を目指すのではなく、出力は2.5リッターで充分。そのかわり、大きなトルクを低い回転で出す方向だ。