2021/2/22

成功率わずか「14%」のDX。成否を分ける“2つの壁”を突破せよ

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
 わずか14%──。
 これはデジタルトランスフォーメーション(DX)に成功している日本企業の割合だ。
 BCGが大企業850社(うち日本企業は79社)に実施した「デジタルトランスフォーメーションに関するグローバル調査」(2020年4月~6月実施)によると、海外平均の30%と比較して、日本企業の成功率は半分以下になる。
 こうした現状に対して、大手企業を中心にDX支援を加速させているのが、戦略系コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)だ。
 数年前から「DigitalBCG Japan」や「BCG Digital Ventures」の設立など、デジタル専門部隊を強化している動きからも、デジタル変革への本気度がうかがえる。
 BCGの戦略コンサルタントは、日本企業のDXの課題と成功への糸口をどう読み解いているのか。そして、BCGの戦略コンサルタントとして働く醍醐味とは何か。
 BCGの戦略×テクノロジー領域を担う「テクノロジーアドバンテッジグループ(TA)」でマネージング・ディレクター&パートナーを務める山形佳史氏に聞いた。
INDEX
  • DXに成功している日本企業はわずか14%
  • 着実に成功体験を積み上げる
  • 企業が変わる瞬間に出会える仕事
  • 呼吸するように経営者のことを考える
  • BCGコンサルタントのリアル

DXに成功している日本企業はわずか14%

──コロナ禍の影響もあり、あらゆる業界でDXを加速させる動きが増えました。戦略コンサルタントの立場から、まずコロナ禍によってもたらされた変化をどのように読み解いていますか。
山形 コロナ禍以降にすぐに起きた変化の一つは、「デジタル活用による短期的な利益の改善」を目指し、デジタルを活用した効率化に取り組む企業が増えたことです。
 ただ、コロナの影響は短期的なものではなく、「デジタル活用による長期的な変革」に徐々に視点が変わり、デジタルを活用した顧客体験価値やビジネスモデルの変革の機会と捉えられるようになってきています。
 しかし、DXの議論は過熱していくにもかかわらず、コロナの影響で短期的な収益は下がり、資金が十分に確保できないケースもある。
 投資余力も意識しながら、どれだけ今デジタルに本格的に舵を切るべきか、またどのようにDXを実現するか、という問題に経営者は頭を悩ませています。
 何からどう手をつければいいのか、優先順位と具体的な取り組みが分からない。しかし、デジタルを通じてビジネスモデルや顧客体験価値を再定義しない限り、企業は生き残れない、そういった局面を迎えている。
 このように、昨今のDXブームの裏で、経営者の悩みはますます深くなっていると感じています。
──BCGの調査によると、DXに成功している日本企業はわずか14%と厳しい結果が出ています。海外平均の30%と比較すると半分以下。DXが成功しない理由をどのように分析していますか。
 特に課題意識を持っているのは二つです。
 一つは、経営者の「コミットメント」。CXOクラスの意識の在り方が、DXを推進する上で極めて重要です。
 BCGの調査においても、DXを成功させた全ての企業に、リーダーのコミットメントが存在していたことが分かっています。
 特に日本の大企業は機能別に組織が分かれていることが多いので、技術的な話は情シスや開発部門に任せればいい、となってしまうケースが多くあります。
 そのため情シスや開発部門は、トップダウン式に指示されたプロダクトを実装することが仕事になり、受け身になってしまう。
 経営者や事業責任者が、テクノロジーは専門家の領域だと位置付け、これまでの習慣に従って距離を置くことで、実態として組織の分離が起きているのです。
 そのため、日本企業の経営者は技術的な側面も含めてデジタルに強く関与しなければなりません。自らが率先してリードする強い意志が必要です。
 経営者が本気でデジタル変革に取り組む意志を示さない限り、組織横断的なDXに向けて、組織や社員が動くことはないのです。

着実に成功体験を積み上げる

 もう一つの課題は、「事業運営の手法」にあります。
 トップがDXを推進しようとしても、組織が横断的に連携できない限り、成功までの道のりは遠い。
 特に日本企業は、特定の部門のリーダーがデジタルの責任者を兼ねることが多いため、グローバルと比較して「部分最適なデジタル活用」になりがちです。
 もちろん数年にわたる計画に基づき各部門に予算を割り当て、着実に計画を実行させることで、競争に勝つこともできます。こうした短期的な収益に追われることなく、中長期的な戦略に基づく考え方が、日本企業の優位性の一つであったことも確かです。
 しかし、環境変化が激しくなり、将来の予見が難しくなってくると、一度立てた中長期の計画を維持する有効性は失われてしまいます。
 例えば、部門への予算配分が年次サイクルでしか実施できないとなると、急な戦略の方向変換もできなくなってしまう。
 こうした事業運営の手法自体を見直さない限り、DXの推進は難しいのです。
 一方で、コミットメント、事業運営の手法、ITリテラシーの高い人材といった要件が全部揃っている会社はありません。
 足りない中で、何をどのように補うか、どのように成功に近づけるのかを考えることが非常に重要です。
 アプローチとしても、いきなり完璧なDXを計画して推進するのではなく、どのようにDXを段階的に進化させていくのか、そのためにいかに一つ一つの成功を着実に積み上げていくか、を日々意識しています。

企業が変わる瞬間に出会える仕事

──日々難易度の高いテーマに向き合われていると思いますが、山形さんはどこにやりがいを最も感じていますか。
 テーマが難しいこと自体にやりがいを感じていますが、それを解くことで「企業や経営者が大きく変わる瞬間」に出会えたときは、言葉には代えられないものがあります。
 私たちは最近、お客様の悩みを解消し、彼らの可能性を解放することを指して、「Unlock the potential(可能性が開花する)」という言い方をしています。
 こうした働きかけによって、お客様が実際に前進する瞬間に立ち会えるのは、やはり一番大きいです。そういうとき、同時に社会に与えているインパクトを実感できるものです。
 しかし、経営者の悩みを解消していくに当たっては、自分自身も非常にチャレンジだと感じるケースがほとんど。
 そんな時、BCGがいい環境だなと思うことの一つが、国内外を含めて知見のあるエキスパートの存在です。
 例えばBCGのデジタル領域の中に「BCG Digital Ventures」や「DigitalBCG」という組織があります。
 ここにはスタートアップを創業した経験を持つ人や、有名な会社の事業責任者を経験してきた人、アカデミアで活躍するようなデータサイエンティストもいます。
 こうした人たちと議論すると、どこからか解決の糸口が出てくるものです。その瞬間、その場にBCGならではの知恵が生まれているのを実感できます。
 自分の力だけでは越えられないかもしれない、自分の力量以上の高い壁を越える実感が味わえるのは、特にBCGらしいと思いますし、最もやりがいを感じることができますね。

呼吸するように経営者のことを考える

──山形さんがリードするTA(Technology Advantage)のミッションについて、教えいていただけますか?
 いわゆるITコンサルとは異なり、CEOやCIOなどCXOクラスのデジタル変革の悩みを解くということが、TAのコンサルタントのミッションです。
 テクノロジーがビジネスチャンスを創り出している今、確実にデジタルのテーマは経営層のトップアジェンダになっています。
 そうした中、業界・領域を超えてTAは、BCGの中でも特にデジタル案件を牽引するコンサルティングチームになります。
 また、デジタルをいかに企業変革の武器にできるのか、毎日思考し続けることが、私たちの仕事です。
 いつしか呼吸をするように、経営者の悩みや課題を考え続ける習慣がつくようになるものです。
 こうした環境では、テクノロジーが持つ企業・業界・社会への影響力を常に考えるため、技術に対する向き合い方も大きく変わってきます。
 これに戦略的な目線が加わることで、テクノロジーやデジタルといったものが、多角的なものに変わっていくのです。
 テクノロジーと戦略、この二つの橋渡しをすることの重要性は、昔から言われています。
 しかし、この二つを、多角的な観点で掛け算としてリアルに考える機会は、そうあるものではありません。BCGのTAは、こうした専門性が身につく場所です。
 またここまで経営者のコミットメントや事業運営の手法など、偉そうに課題意識を語らせていただきましたが、言葉以上に実行は難しいのが正直なところです。
 デジタルだけでなく、働き方や組織、カルチャー醸成など経営者は多くの要素で頭を悩ませています。だからこそ私たちは経営者と伴走するパートナーであり続けなければいけない。
 チャレンジングな環境の下、クライアントと共に描く戦略が、ビジネスにそして世界にインパクトを生む。こんなエキサイティングな環境は滅多にありません。
 デジタルを駆使して企業が変わる瞬間、あるいは社会が変わる瞬間と出会える仕事、それがTAコンサルタントです。
 BCG TAの環境に少しでも興味を持っていただける方がいたら、ぜひ力を貸していただけると嬉しく思います。

BCGコンサルタントのリアル

日々CXOアジェンダと対峙し、デジタルを駆使した企業変革を支援するBCGのTA。では、BCGで働くプロフェッショナルたちは、元々どのような理由で入社して、実際にどのような成長を実現できているのか。TAでプロジェクトリーダーを務める山本裕子氏に、6つの質問に答えてもらった。BCGコンサルタントの具体像をお届けする。
Q1、BCGへの入社理由は?
 前職では、今と同じでデジタルを活用して新規事業を支援する毎日でした。
 しかし、IT部門が一生懸命開発をしても、なかなか事業に結びつかないジレンマを抱えていたんです。
 やはり直接経営層にリーチできないと、本当の意味でのDXは実現できないと思い、BCGに入社しました。
Q2、実際、入社してみてどうでしたか?
 入社前に想像していた通り、CEOに直接提言できるところは、BCGの強みだと感じています。
 ビジネス、ファイナンス、組織といった各専門のプロフェッショナルに私たちのようなデジタルに強いコンサルタントが加わり、それぞれの知恵を駆使してお客様にとってのDXはどうあるべきか、という議論が日々行われています。
 議論が複雑化することもありますが、自分だけでは思いつかないアイデアや視点から新しい解決策が生まれることも多いので、毎日飽きないですね。
 第一線で活躍する一流のビジネスパーソンたちとの知的格闘を心から楽しみ、プロフェッショナルとしての価値を高められるステージが、BCGにはあると思います。
Q3、今のお仕事内容は?
 今は、成熟産業といわれるエネルギー会社を中心に、デジタル変革の支援をしています。
 インフラ産業であるエネルギー業界は、安定的に社会基盤として貢献していく使命感が強い組織文化なので、大きく変えるのは難しい。
 既存のアセットとデジタルを組み合わせ、いかに新しい事業を展開していくか、事業運営の中枢を担う組織改革をどう実現していくか、日々頭を悩ませています。
 なので、実現可能性も踏まえて、小さな新規事業を始めて成果を実感してもらいながら、「自分たちでもこんな事業ができるんだ」ということを理解いただくことで、一歩ずつ推進するアプローチをしています。
Q4、最も印象的だったプロジェクトは?
 あるBtoCの消費財メーカーの新規事業プロジェクトで、本当に何も決まっていない状態から、実際にユーザーにサービスを届けるところまでを経験したことです。
 最初は、「きっとうちに来るお客さんてこんな人だよね」と経験と勘だけでユーザー像を語っていたお客様でした。
 しかし、それをデジタルで可視化する支援をしたことで、「そもそもどのターゲットを狙うべきか」「A/Bテストをしてみよう」というような発言が自然にお客様から出るようになったんです。
 企業が変わる瞬間に立ち会えた、とても印象深いプロジェクトでした。
Q5、BCGに入社して、最も成長を実感していることは?
 やはり経営層の方に提言する機会が多いので、思考が深くなったと思います。
 お客様である経営クラスの方の発言や戦略に対して、その課題はそもそも本当に課題なのか、より価値を提供できる余白はないのか、など日々対峙することで思考が自然に深くなっていきました。
 今では、日々経営者の目線で、経営の悩みや課題を思考する癖が身についています。
Q6、ご自身のミッションは?
 今多くの日本企業が生き残りをかけた岐路に立つ中で、いかにDXを成功させるかが重要課題になっています。
 そのため、私自身もデジタルを武器に、1社でも多くの企業変革を実現させたいというのが目先のミッションです。
 そして日々の提供価値にこだわりながら、その変革の先にある社会づくりに貢献していきたい。
 社会や企業の課題が大きく変化する中で、問題の難易度も年々増していますが、だからこそやりがいがあると感じます。
 企業や社会の変化を間近に感じることができ、かつCXOクラスの方々と対等に渡り合うことができる。BCGは、デジタルを武器に企業や社会の変革を描きたいと志す人には最適な環境です。
 それに、難易度の高い問題に挑戦し続けないといけない環境に在籍することは、キャリアの糧になるはず。
 知的好奇心を持ち、難しい課題へのチャレンジを通じ、互いに切磋琢磨し、自身も成長していくことを楽しめる人が集まる場、それがBCGです。ぜひ、BCGをキャリアステップの選択肢として、候補に加えていただけると嬉しく思います。
※「BCGデジタルトランスフォーメーションに関するグローバル調査」について
・実施時期: 2020 年4月~6月
・回答数: 850社(オーストラリア、中国、インド、日本、フランス、ドイツ、イタリア、英国、カナダ、米国、ブラジル) 日本での調査:79社
・従業員1,000人以上の大企業のCEOやCDO/CIO、取締役などに、DXのトレンド、自社のDXの成否、DXを実行する体制・進め方などについて聞いた。