ヘルスケア

薬不要で「がん細胞を兵糧攻め」 東工大発ベンチャーが新治療法確立へ

 東京工業大発バイオベンチャー、メディギア・インターナショナル(横浜市緑区)は2021年、薬を使わず「がん細胞を兵糧攻めにする」という新たながん治療法の確立に向け、臨床試験(治験)の前段階(非臨床試験)に移行する。社内ラボでの実験で安全性や有効性などを確認、第三者による外部委託試験に乗り出す。そのために必要な資金の一部を株式投資型クラウドファンディング(CF)で調達。医療機器として早期承認を目指し、26年にもがん患者への提供を始める予定。

 腫瘍封止剤を投与

 「極小化したカプセルに医者を入れて体内に投入し患者を治すSF映画『ミクロの決死圏』を実現する」。メディギアの田中武雄代表取締役は、独自のがん治療法を端的にこう表現する。

 紙おむつなどで使われる高吸水性樹脂「SAP」を独自技術でナノ(10億分の1)サイズに極小化した腫瘍封止剤「nanoSAPP(ナノサップ)」を、カテーテルを使ってがん細胞にピンポイント投与。がん細胞を包み込むことで、酸素と栄養の供給を遮断し死滅させる。まさに兵糧攻めだ。しかも正常細胞を傷つけることなく、がん細胞だけを無力化する。

 手術や放射線治療、抗がん剤治療に比べ、患者へのダメージが少なく、医師の技量に左右されることもない。副作用や薬剤耐性(薬が効きにくくなる)も少ない。実証済みの理論と技術、材料を組み合わせており、開発費や原材料費を抑え低価格で提供できる。このため身体的・精神的・経済的負担から治療を諦める患者を救えるという。

 20年末までに社内でのマウス実験で安全性、抗腫瘍効果、酸素遮断効果を確認。21年は治験に進むために必要な第三者による安全性と性能などについてデータ収集に入る。CRO(開発業務受託機関)と呼ばれる専門機関と交渉中で、近く決定する見込みだ。

 まずは国の医薬品審査を担う厚生労働省の認定機関、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から要求されている大型動物(ラット・ブタ)での薬物動態試験を開始。投与したナノサップが体内のどこに集積し、どのくらいの時間で排泄(はいせつ)されるかを調べる。

 CROへの委託費と研究開発費などを賄うため、日本クラウドキャピタル(東京都品川区)が運営する株投型CFサービス「ファンディーノ」で6日から募集したところ、初日で上限額6993万円を達成した。不足分の約2億5000万円は今夏にも第三者割当増資により調達する考え。

 22年に治験開始

 22年には治験を開始、ナノサップを使った腫瘍封止療法がヒトで安全かつ有効であることを確認する。24年の承認審査を経て、26年の製造・販売を目指す。

 治験とその後のナノサップの量産を見据え、資本業務提携先である第一工業製薬に技術移転を進めており、スケールアップした装置でラボ環境の再現に取り組んでいる。

 ナノサップは当初、肝臓がんを対象にするが、多血性固定がんなら作用原理的に近いと判断。5年生存率が低いとされる肺がん、膵臓(すいぞう)がんに、乳がんを加えた4種類のがんをターゲットにする。これにより1兆2000億円といわれる巨大海外市場へ進出する計画だ。

 販売はグローバルチャンネルを持つ製薬企業や医療機器メーカーなどに任せる考え。田中氏は「われわれは生産も販売もしない。開発に専念し、既存治療に見放された“がん難民”を救う」と話している。(松岡健夫)

【用語解説】メディギア・インターナショナル 2013年4月設立の東京工業大発ベンチャー。既存治療で見放されたがん患者の負担軽減とQOL(生活の質)向上を目的に、薬依存からの脱却と医師の技量に左右されない「腫瘍封止療法」の開発に取り組む。代表取締役の田中武雄氏は1975年に神戸製鋼所入社。鉄鋼プロセスや産業用ロボットの開発に携わった後、新規事業や海外事業などを担当。ITベンチャーの設立・経営も経験するという異色の経歴を持つ。エムスリー、大日本住友製薬、第一工業製薬などから出資を受けている。

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