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 2011年3月の東日本大震災から、間もなく10年が経過する。10年の間に様々な新しいテクノロジーが登場したが、防災や減災にどれくらい活用されているのだろうか。災害対応ITの最新事情を追う本特集。第1回はこの10年で普及が進んだテクノロジーの代表格、民生用ドローンの防災・減災における活用状況を取り上げよう。

 ドローンを使った災害対応に関して、自治体の中で最も洗練された仕組みを構築しているのが愛媛県だ。対象地域は瀬戸内海と宇和海を隔てる佐田岬半島。強い地震など災害が発生した際に住民が使う避難路が通行可能か確認するために、ドローンによる観測態勢を整えている。

愛媛県が実施したドローンによる被災状況把握訓練の様子
愛媛県が実施したドローンによる被災状況把握訓練の様子
(出所:NTTデータ)
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 佐田岬半島にある避難路の総延長は120キロメートル。災害発生直後の混乱した状況下で、自治体の職員がそれだけの距離を自動車で移動して道路の状況を確認するのは難しい。また佐田岬半島には四国電力の伊方原子力発電所がある。原子力災害が起こる前に、住民の避難を迅速に開始する必要がある。そこで人間の代わりにドローンが道路を空から確認し、愛媛県庁に設けた災害対策本部に映像を伝送する仕組みを構築した。

23機のドローンが自律飛行

 ポイントは23機のドローンが自動航行し、人間に頼らず120キロメートルの距離を撮影できるようにした点だ。佐田岬半島がある愛媛県伊方町の伊方町役場、瀬戸支所、三崎支所、八幡浜消防第一分署、町見出張所の5カ所に、撮影用のドローンが13機、無線中継用のドローンが10機配備してある。震度6弱以上の地震が発生して県庁がドローン発進の指示を出すと、役場や支所にいる職員がドローンを屋外に配置する。

 続いて県庁に設置したドローン運航管理システム(UTM、UAV Traffic Management)がドローンに離陸指示を出すと、ドローンはあらかじめ決められたルートを自律飛行して避難路を撮影する。1台のドローンが最大12キロメートルの避難路を撮影し、120キロメートルの避難路を1時間程度で確認できるという。

NTTデータが開発したドローン自動航行システム(UTM)
NTTデータが開発したドローン自動航行システム(UTM)
(出所:NTTデータ)
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山がちな佐田岬半島、無線中継ドローンで電波を届ける

 23機のドローンのうち10機を無線中継用としているのは、山が多い佐田岬半島において無線でドローンを制御するためだ。ドローンの制御や映像伝送に使う無線網はそれ専用のものを愛媛県が整備した。ドローンの制御には920MHz帯を、映像伝送用には5.7GHz帯を使用する。無線の基地局は支所などのドローン配備拠点に設けたが、配備拠点から10~15キロメートル離れた場所まで飛行する撮影用ドローンに電波を届けるとなると、佐田岬半島にある400メートル級の山々が障害となる。そこで山頂の上空に無線中継用のドローンを飛ばすことにより、無線を撮影用ドローンに中継できるようにした。