Society:声の時代のスマートスピーカー

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Deep Dive: New Consumer Society

あたらしい消費社会

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜夕方の「Deep Dive」のテーマは、「あたらしい消費のかたち」。注目集めるSNS「Clubhouse」をはじめ「音声」メディアが注目されるなか、ほんの数年前に世間を席巻したスマートスピーカーの現状はどうなっているのでしょう。 英語版はこちら(参考)。

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Image: REUTERS/PARESH DAVE

1950年初頭に紹介された「Push-button manor」(「スマートホーム」の原型ともいわれるコンセプト)や『宇宙家族ジェットソン』の豊かな生活から、1999年に公開されたディズニーチャンネルの驚くべきオリジナル映画『スマートハウス』まで。SFファンやガジェットオタク、あるいは未来主義者たちは、自動化されたスマートハウスの登場を長いあいだ待ち望んできました。

2010年代後半、大手テック企業がスマートスピーカーを量産し始めるまでは、こうした夢は空想の域を出ないものでした。しかし、いまでは音声アシスタントを備えたスマートスピーカーが、現実世界の家庭を「スマート」にする重要な役割を担っています。

いまのところ、スマートスピーカーに話しかければ、照明を点けたりサーモスタットを変えたり、コーヒーを淹れたりできます。質問すれば、音声アシスタントは優先検索エンジンを介してクエリを転送してくれるので、例えば洗濯洗剤の補充が必要なら、お気に入りのECプラットフォームに誘導してくれるので、毎日のお買い物ともうまくつながっています。

テック企業が何十億ドルも投資して、いまは確実に損をするようなデバイスを開発しているのは、決して不思議なことではありません。アマゾンもグーグルもアップルも、(中国を除いた)世界のスマートスピーカー市場の支配権をめぐって争っています。それぞれ、このガジェットが未来の家庭を動かす「支配人」になり、消費者の検索や買い物の習慣の重要な「ゲートキーパー」になると確信しているのです。

make and defend their turf

縄張りをつくり、守る

アリババ(Alibaba、阿里巴巴)、バイドゥ(Baidu、百度)、シャオミ(Xiaomi、小米科技)がシェアを競っている中国を除けば、ほぼすべての市場においてアマゾンとグーグルがトップを競い、アップルが3位につけています。

2014年、最初に市場に参入したのはアマゾンで、同社は赤字覚悟の割引BOGO(1つ購入すると1つ無料)セール無料プレゼントなどでリードしてきました。2年後にはグーグルが、品質と価格でアマゾンに匹敵するスマートスピーカーを発売。以来、グーグルは、アマゾンに追いつこうとしています。

アップルは2018年、競合他社の10倍の価格でハイエンドなモデル「HomePod」をリリースしましたが、これまで大きな話題にはなっていません。同社は2020年に安価なモデルで再挑戦しましたが、まだ消費者に浸透していないのが現状です。

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これらの企業は、多忙なユーザーがライフスタイルを管理することができるように、さまざまなガジェットと接続する「オールインワン・ツール」としてスピーカーを販売してきました。アマゾン、グーグル、アップルが提供する最新の製品の利益率は、ごくわずかだと言われていますが、各社はこれまでのところ、ほかのガジェットと連携させらえる限りにおいて、損失を受け入れる姿勢を見せています。「コアビジネスを養うために必要な、ひとつの方法です」と、市場調査会社Strategy Analyticsのアナリストであるデビッド・ワトキンス(David Watkins)は述べています。

企業は、自社の強みをもつ分野での縄張りを守るために奮闘さえしています。グーグルは、消費者がより多くのクエリを音声アシスタントに指示することで「検索」のトップでいたい。アマゾンは、自社のECプラットフォームに誘導したい。そして、アップルは、得意の「ハイエンド」な家庭用ガジェットとしての地位を維持したいと考えています。

競争を続ける各社ですが、いずれも新たな一歩を踏み出せなくなったとき、ライバル企業に追いつけなくなるでしょう。ノキアもブラックベリーも、スマートフォン黎明期にその教訓を厳しく学んだと、スマートスピーカー業界専用のウェブメディア『Voicebot.ai』のCEO、ブレット・キンセラ(Bret Kinsella)は主張します。かつて支配的だった携帯電話メーカーは、速やかにスマートフォンに乗り換えたアップルやサムスンに取って代わられました。「スマートスピーカーの台頭は、テック業界の競争環境を再定義するという(スマホのときと)同様の機会になっている」と、『Harvard Business Review』にキンセラは書いています。

My customer, my roommate

ボーダレスな市場へ

企業は、「家」の主導権を握ろうともしています。「それは、不動産をめぐる戦いです」と、Consumer Intelligence Research Partners (CIRP)の共同設立者であるジョシュ・ローウィッツ(Josh Lowitz)は述べています。「家を自動化しようと思ったとき、複数の系統のシステムをもつことはありません。“アマゾンの家”、あるいは“グーグルの家”や“アップルの家”となるのです」

すでに、独自のインターフェイスやアプリを介してコントロールできる「モノのインターネット」(IoT)の家電製品はたくさんあります。しかし、コントロールを音声コマンドで、となると、どのデバイスが音声アシスタントに対応しているか把握できずに行き詰まってしまいます。

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現在、スマートスピーカー対応機器の市場は、アマゾンの「Echo」、グーグルの「Nest」、アップルの「HomePod」のどれと連携するかで細分化されています。

「市場シェアを獲得し、(スマート製品の)完全な提供が可能になれば、競合することは難しくなるでしょう」と、2018年の音声アシスタントに関するレポートを公開したプライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers)のプリンシパル、CJ・バンガ(CJ Bangah)は述べています。

企業は、どんなデバイスやスピーカーでも動作する共有の通信プロトコル(通信規約)を開発する取り組み(アマゾンが主導)を通じてボーダレス化を進めようとしています。とはいえ、消費者にとってすれば、買い物の手間を省くために単一の企業の製品を購入するのも当然のこと。バンガは「消費者は、自分がどのガジェットを使っているかを把握するために、膨大な量の情報は必要ないと考えています」と言います。企業が新しい技術分野で優位に立とうとする一方で、顧客の動機はもう少し単純です。「多くの消費者にとって、スマートスピーカーを買い音声アシスタントを使う理由は、それがクールだと思ったからです」とバンガは述べています。

Half-baked home tech

半端なホームテック

過去6年間で世界中で何億ものスピーカーが販売されてきました。しかし最近では、その目新しさが薄れてきているようです。
「市場調査では、ここ12カ月から18カ月のあいだに、人びとは少し飽き飽きしてきてきたようです」とワトキンスは言います。「これらのデバイスなしでは生きていけないというようなユースケースは出てきていません」

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最大の問題は、「技術が完全に成熟していない」こと。スマートスピーカーを使って接続されたデバイスをコントロールするのは、いまだにバグが多く、イライラしてしまいます。インターネットと接続できなくなったりサービスが中断したりすれば、予期せず重要な家電製品を使い物にならなくしてしまう可能性もあります。

「スマートスピーカーを本格的に使えるようにするためには、家庭用ガジェットのエコシステムがより強固なものになる必要があります」と、ローウィッツのパートナーであるCIRPのマイケル・レヴィン(Michael Levin)はコメント。電球と音声アシスタントをペアリングするだけで1日の半分が終わってしまうような、2010年代半ばと比べれば、大きく進歩しました。しかし、ローウィッツとレヴィンは、消費者が複数のデバイスをスピーカーにリンクさせ、接続されたスマートハウスのメリットを最大限に享受できるようにするためには、ユーザー体験をさらにシンプルにする必要があると述べています。

さらに、セキュリティとプライバシーをめぐる長年の懸念もあります。ハッカーはベビーモニターに侵入し、何百万もの不正アクセスされたスマートガジェットを使って攻撃を仕掛け、TwitterやSpotify、その他のサービスをオフラインにしてしまいました。

また、アマゾン、グーグル、アップルはいずれも2019年に、盗聴問題を報じられています。アマゾンとグーグルは顧客のデバイスを常に監視しており、ルンバ掃除機は所有者の家の詳細な地図を作成し、第三者と共有できるようにしています。

一方で、企業間の競争が、プライバシー問題を消費者にとってより良いものにしているという限られた証拠もあります。たとえば、グーグルはカメラを内蔵していない動画対応スマートスピーカーを発売しましたが、これはアマゾンに対して、シャッターを使うユーザーがそのデバイスの上にカメラを置けるように促したのかもしれません

スマートスピーカーはオンデマンドで音楽を再生したり、基本的な質問に答えたり、天気を確認したりすることに関しては得意です。「確かにこういった機能は素晴らしいですが、技術的な側面から見ても比較的単純な機能です」とバンガは述べています。

市場の支配権を競うなかで、企業は、こうしたスピーカーやガジェットを、いかに顧客が想像しているSF的な未来に近づけられるのでしょうか。バグをつぶし、製品のラインナップを拡大し、ユーザーの信頼を得ることができれば、消費者が何十年も前から抱いていた「ジェットソン家のような生活をしたい」という夢の実現に向けて、企業は歩み進めるでしょう。


What to watch for

新しい「仕事場」

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Image: PHOTO VIA NOOKA

リモートワークに飽きていたり、同居人へのストレスを感じていたりする人も多いのでは。アイルランドのスタートアップ「ヌーカ(Nooka)」の、家の敷地内や庭に設置できる新しいリモートワークモデル「近接のオフィススペース」。『Fastcompany』によると、COVID-19のパンデミックによってこのアイデアが生まれたといい、スペースは1人用と2人用が展開され、オプションもさまざま。現在はまず、ヨーロッパで予約注文を受け付けており、来年には米国にも拡大する予定だといいます。

(翻訳・編集:福津くるみ)


🎧 月2回配信のPodcast。最新回では、編集部の2人が今話題の音声SNS「Clubhouse」などのトピックについて雑談しています。AppleSpotify

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