経済学の基礎で考える日本経済 「資本論について」

 今週(2月6日号)の東洋経済に「資本論から見えてくる資本主義の欠点」というコラムが掲載されている。これにはちょっと驚いた。
  私は大学の経済学部でマルクス経済学を勉強したことがあるのだが、正直言って全く分からなかった(いわゆる「近代経済学」は非常に良く分かった)。そもそも「資本」とか「資本家」という存在が良く分からない。事業を営むための基礎的な資金が資本のようでもあるが、借り入れや社債で資金は調達できるから、どうも資本論が言う「資本」というのは、現在一般に使われる資本金とは異なるようだ。「資本家」というのも良く分からない。資本家なる人を見たいと思っても、日本人の誰が資本家なのかよく分からない。株主が企業を経営しているとは限らないから、「経営者対労働者」という時の経営者でもないようだ。そもそも私も株式を保有しているから、私も資本家なのだろうか。「資本主義」という言葉も分からない。経済活動であれば必ず資金は必要だから、わざわざ資本主義と呼ぶ必要はない。かつての計画経済に対比して「市場原理を基本とする経済体制」というならまだわかるが、そうであるなら「市場経済主義」とでも呼んだ方がいいのではないか。これらは大学時代にも分からなかったのだが、今でも全く分からない。
 さて、その後、30年以上の時は過ぎて、私は役人を辞めて法政大学で教鞭をとるようになった。そんなある日、学生が「先生、今経済学の基礎を勉強しているんですが、ここがどうしても分からないんです」と質問してきた。見ると、マルクス経済学だ。
 当然私は全く質問に答えられない。「私にもさっぱり分からない」と言うと、学生は非常に驚いて、「信じられない」という顔をした。無理もない。経済を教えている専門家であるはずの教師が、経済学の基礎が全く分からないとは信じられなかったのであろう。
 というわけで、私は「資本論」は、本は(多分)持ってはいたが、読んではいない。だから以下に述べることも、本当はもっと丁寧に調べるべきなのだが、資本論についてあまり丁寧に調べる気はないので、単なる感想程度の話にしておきたい。
 このコラムは、先日来NHKの「100分de名著」で「資本論」を取り上げたのを視聴しての感想を書いたものである。私もこの番組は見た。
 コラムの筆者は1980年代に中国に留学した時に、資本論を読むように勧められた。この時「社会主義の中国でなぜ資本論を勧めるのか」と興味を持ったが、読まなかったという。その後この番組を見て「資本論とは、資本主義の本ではなく、資本主義の末路を予言する」内容だということを知って非常に驚いた、と書いてある。
 これを見て私も非常に驚いた。おそらくコラムの筆者が驚いたよりももっと激しく驚いたと思う。資本論はまさしく、資本主義の矛盾を指摘し、来るべき社会主義または共産主義の理論的基礎となる議論を展開したものだ(読んでないので申し訳ないが、これが私の理解です)。コラムの筆者は学生時代から40年以上もの間、そのことを知らなかったのだろうか。
 コラムは、資本論には現代の日本社会が直面している課題が先見的に指摘されているという点について大いに感心している。番組でもこの点を強調していた。この点についての私の感想は、次のようなものだ。資本論は長大な本だから、探せば、現代の課題に直結するような指摘が書かれていることは確かだろう。しかし、同じようには、探せば、現在の目から見れば全く見当違いの指摘もあるはずだ。そもそも資本主義の矛盾が累積して、社会主義・共産主義に至るというビジョンが全く間違っていたわけだから、多分、見当違いの指摘の方が多いだろうと思う。
 資本論を読んでも「なるほど」と思う部分は我々がすでに気づいていることであり、「それはおかしい」と思う部分は当然参考にならない。分厚い資本論に挑戦するのは時間の無駄だと私は思う。

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