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「愛社精神」は令和でも必要か〜会社や同僚への愛着がもたらす効用について〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
愛着がもたらす効能は大きい(写真:アフロ)

■従業員の会社への愛着を作るのも組織開発の一環

以前某社にて、組織の一体感、会社や仲間への愛着をいかに醸成するのかを考えて、いろいろ企画したことがあります。これを「コミットメント」と呼ぶのか「ロイヤルティ」と呼ぶのか、「エンゲージメント」と呼ぶのか、「愛社精神」と呼ぶのか、どちらでもよいのですが、私はこういうことも「組織開発」という仕事の一環だと思います。

■会社への愛着が必要だった理由

当時その会社は、若年層の退職率増加や、メンタルヘルスの悪化などの困ったことがありました。そして、インタビューやサーベイなどでいろいろ探っていくうちに、上記の「一体感」「愛着」が無いことが原因ではないかということになったのでした。

要は、組織に「愛」が不足しているということです。

愛があれば、お互いをケアしてサポートし合うし、ピンチでもチャンスに変えようと努力するし、欠点も「あばたもえくぼ」でポジティブに意味付けしようとするし、組織目標に自然にコミットしようとするし、自分の組織の評判を上げようと振る舞うし・・・良いことずくめで、先の「困ったこと」も解決していくのではないか、という仮説でした。

■愛着は知らぬうちに生じるもの

しかし、原因が「愛」だとしても、でもどうやって人は何かを愛するようになるのでしょう。

世の中で一番むなしい命令は「僕を愛せ」だと思います。「愛せ」と言われて、何かを愛するようには残念ながらなりません。愛は意思というよりは、自然に無意識のうちに、知らぬ間に落ち入っているものだからです。

ですから、「愛社精神を持ちましょう!」とか、「同僚愛」とかのスローガンを打っても、おそらく何も変化はないでしょう。むしろ、鼻白む思いで従業員からみられるのがオチだと思います。

知らぬ間に愛してしまっているような、そういう何かをしなければならないわけです。

■愛着を生む4つのポイント

そこで、当時の仲間といろいろ議論をして、自分たちが過去に何にどうして愛着を感じたのかを振り返り、愛着の生まれ方を類型化したものが以下の4つです。

1つ目は、「認知」です。

「知るは愛に通ずる」という言葉をリクルート時代に先輩から教えてもらったのですが、これは、知れば知るほど、対象に対しての好感が向上し、愛着を生む土壌となるということです。

不可知なことが神秘性を生み、魅力となることも多いですが、それは非日常的なものの場合が多く、日常的には、慣れ親しみ、相互理解をすることで、自然と愛着が生まれます。単純接触効果による好意向上が背景にあるかもしれません。

この効果を得るために、運動会をはじめ、社内のお笑い大会やバーベキューイベント、各事業のMVP社員同士の交流など、ことあるごとに社員同士が相互理解を進められるようなイベントやワークなどの施策を打ちました。

2つ目は、「恩義」です。

心理学の言葉で言えば「好意の返報性」とでもいうのでしょうか。一般的な言葉で言えば、「Give & Take」ということで、要は 愛してから愛されるということです。先に会社や組織の側から「あなたのことを愛していますよ」と告げることで、相手も愛し返してくれるわけです。

また、愛着とまで行かなくても、自分のことを見ていてくれる、自分にとって戻れる安全地帯である、という感覚も、その場を愛する契機となる。それで、会社が社員のことをいかに大事にしているかが分かるような施策を打ちました。

例えば、社内報奨の際の副賞として、その人の本格的なポスターを作ってあげたりしました。本物のプロのカメラマンが撮影し、本物のコピーライターがチャッチコピーをつける。どこの会社でも通用するかはわかりませんが、その会社ではもらった社員は皆喜んでくれ、家に飾ったり、親に送ったりしていました。他にも入社の際に、席の上に歓迎の垂れ幕をつけてウェルカム感を出したり、家族の記念日に何かをプレゼントするなど、様々な「重要感」を持ってもらえる工夫をしました。

3つ目は、「類似」です。

私達は自分と同じ志向や価値観、属性などがあると、その対象に愛着を感じるということです。心理学的には「類似性効果」という名前で知られた心のバイアスです。付き合い始めの恋人たちも、どれだけお互いに似通っているかを語り合うことで愛情を深めようとするように、社員同士がどれだけ共通点や共感ポイントがあるのかを知るとよいのです。

また、経歴や経験の共有なども同じような効果があります。「同じ釜の飯」を食べた仲は一生強い絆で結ばれるものです。ここでは、社内で何らかの軸で共通点を持つもの(例えば趣味のようなものでもよいと思います)同士を集めてイベントを行ったり、何でもよいので一つのプロジェクト(例えば、休憩所をどのようなインテリアにするのか等)を力を合わせてするようなことをいろいろやりました。

4つ目は、「共感」です。

組織の全員を結びつけるような共感性の高いビジョンや目標を掲げることで目指すゴールが同じであると思えることや、自分たちの組織が外部からどのように評価されているのかをフィードバックすることなどによって、その組織に所属していることに誇りを持ってもらうことも愛着に直結します。

そこで、ことあるごとに会社の事業やプロジェクトにキャッチフレーズなどを作成したり、社内外問わずPR活動などに力を入れ、自社がメディアなどで取り上げられる機会を増やしたりしました。自分の会社がニュースに載っていれば誇らしく思うものです。

このようなことをした結果、その会社は問題であった離職率を下げたり、モチベーションを上げたりすることができるようになったのでした。

■令和でもやはり「愛社精神」は必要

時代は令和に移り変わりましたが、このような会社や同僚に対して愛着を持ってもらうこと、すなわち昭和的言葉で言えば「愛社精神」は今でも必要でしょうか。

「愛社精神」という言葉こそ、古臭い気がしてあまり使われなくなりましたが、冒頭に掲げたような「エンゲージメント」のような横文字に移り変わって、結局は、皆に求められているのではないかと思います。

特に、コロナによって急速に進んだテレワークを考えると、離れていても一体感を持って、相互にサポートしながらチームで働き、長い間その組織に所属するにはどうすればよいのかが問題になっています。

そう考えると、むしろ、机を並べて長時間一緒に仕事をする機会が多かった昭和時代などよりも、今の方が意識的に積極的に会社や同僚への愛着を生み出す努力をする必要性が増しているのではないでしょうか。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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