2021/2/5

ブランドの「好き」と「欲しい」をつくる。Instagramの3つの魔法

NewsPicks Brand Design Editor
コロナ禍で日本全体の消費意欲が下がっている。企業にとって拠り所になるのは生活者との絆であり、すなわちブランドだ。生活者は無駄遣いをしない。本当に好きなもの、価値のあるものにだけ、財布を開く。

一方で、コロナ禍により企業と生活者のリアルでの接点は減少。大量の情報がせわしなく流れるオンラインで、企業はどのように生活者と絆を深めればよいのか。

Facebook Japanの執行役員 営業本部長 南勲氏いわく、その鍵を握るのはInstagramだという。2021年現在、ブランドはどのように生まれるのか。どのようにInstagramを活用すべきなのか。同氏に話を伺った。

変わる消費者と、変わらないコミュニケーションプラン

──コロナ禍でマーケターを取り巻く環境はどのように変化したのでしょうか。
 広告の予算は縮小される傾向にあり、企業は今まで以上に投資効率(ROI)に敏感になっています。一方でこれまで獲得単価(CPA)だけを追い求めてきたような企業も、そこに限界を感じはじめています。
 自社の商品を欲しいと思ってくれる、そもそもの母数を増やしていかなくてはいけない。そこで、ブランディングへのニーズが高まっています。
ノースイースタン大学卒。 1998年に外資広告代理店のJ.ウォルター・トンプソンへ入社し、広告営業を務める。フォルクスワーゲンで広告宣伝を担当した後、日産自動車に13年在籍し、国内デジタルマーケティングやグローバルマーケティング、ブランドマネジメントなど幅広い経験を積む。2018年にFacebook Japanの執行役員 営業本部長に就任。現在は自動車・消費財・テクノロジー・通信業界担当チームを統括。
 ブランディングというと、以前は企業がマスメディアを通じて一方的に発信し、コントロールを図ってきました。
 しかし、今、情報発信を行うのは企業だけでなく、インフルエンサーや専門家、ユーザーによるクチコミも大きな影響力を持ちます。そのすべてを企業がコントロールするのはどうしても難しい。
 消費者はメディアごとに使用する目的や視聴態度が異なりますから、それらにきちんとメッセージを最適化していくことが重要です。
 逆に、企業が一貫性という観点から、その時、そのメディアで利用者が求めるものと異なる情報を押しつけてしまうと、かえって好感度が下がってしまいかねません。
 柔軟な発想で、利用者に届けたいブランドの価値、あるいはブランドの約束事を定めて忠実に守っていく。そして、その表現方法や情報提供の仕方を各メディアの特性に合わせてカスタマイズしていく。
 これがオンラインにおけるブランディングの基本だと思います。
 生活者の視点から見ると、この1年でSNSを通じて人と人のつながりをより求める傾向が出てきました。当然、そこに使われる時間も増えます。
 昨年オンラインの広告出稿額がテレビを抜いて1位になりました。実際、広告費はオンラインに流れてきていますし、今後も伸びていくでしょう。
 しかし、コミュニケーションのプランニング方法においては未だに大きな変化が起きていない、というのが実感です。メディアミックスの実際の比率と施策の実行プロセスが必ずしも対応していない。
 実際、クリエイティブの制作は一番予算と時間がかかるテレビをまず考え、その素材を編集してデジタルに使うケースがまだまだ多いようです。しかし、本来はメディアによって最適なクリエイティブは異なります。
 複数のメディアでメッセージをどのように届けていくかは、多くの企業が課題に感じているところだと思います。

InstagramはバズらせなくてもいいSNS

──メディアの特性を理解してクリエイティブを最適化していくということですが、Instagramというメディアをマーケターはどう捉えればよいでしょうか。
 「Instagramって結局何ができるの?」というご質問をクライアント企業様からいただくことがあるのですが、我々の答えは、「好きと欲しいをつくるマーケティングプラットフォーム」です。
 一般的に、「SNSではバズらせることが大事」と言われることが多いですよね。他のSNSで重要なのは世の中でどれだけ話題になるか。話題になっているから気になって見たくなる。
 ですが、Instagramの場合はちょっと違います。Instagramはそもそも自分が好きなものを見つけに行く場所です。世の中で話題になっているかどうかより、自分が好きかどうかのほうが大事。
 だから、「好きになる」と同時に「欲しい」「買いたい」という気持ちになりやすいのです。
 これまで企業のマーケターは「認知」「理解」「購入」と、ファネルごとにメディアを横断してコミュニケーションプランニングしていました。各メディアの特性を把握し、コミュニケーションを設計するプロセスは、複雑かつ難易度が高いものです。
 Instagramでは、このファネルを一気に縮めることができます。近年では発見した商品の詳細をすぐに確認し、購買まで誘導するショッピング機能を拡充、Instagramでほぼすべてのマーケティングプロセスを完結することも可能になりました。

Instagramが好きと欲しいをつくる3つの理由

──なぜInstagramは「好きと欲しいをつくる」ことができるのですか。
 Instagramは単に写真を投稿するだけでなく、多彩なビジュアルツールでブランドを表現し、「私のためのブランドなんだ」と思ってもらうことができる場所です。
 プラットフォームとしての、Instagramの特徴は次の3つ。「喜びにつながる偶発的発見を創出する」「多面的なブランドストーリーを伝達する」「『欲しい』への共鳴を増幅させる」
 そして、これらのポイントをおさえることがInstagramでブランディングを成功させることにもつながります。
 Instagramでは独自のアルゴリズムで各利用者にパーソナライズされたコンテンツを表示します。そのため、常に新しいブランドの偶発的発見が生まれます。
 たとえば、フィードやストーリーズは利用者がフォローしているアカウントによる投稿の中から、本人の興味や投稿者との関係によって投稿が表示される順番が変わります。
 また、虫眼鏡アイコンの「発見タブ」は利用者の志向に合わせて完全にパーソナライズされており、フォローしていないアカウントの投稿であっても、本人の関心に合致しそうなものを表示します。こうした利用者の動向をベースに表示される通常投稿を、私たちはオーガニックコンテンツと呼んでいます。
 さらに、オーガニックコンテンツによる偶発的発見の可能性を大幅に広げるのが、広告です。Instagramでは人ベースの最適化広告配信によって、短期間で効率的に大規模なリーチを獲得することができます。
 アカウントのフォロワーだけだとリーチに限界がありますが、広告を使うことでフォロワー以外のInstagram利用者にもリーチを広げることができます。
 こうしたオーガニックコンテンツと広告、2つを組み合わせて、まだブランドを知ってもらえていない利用者にも発見してもらうことができるのです。
 偶発的発見が起きても、第一印象で興味を持ってもらえなければその先のエンゲージメントにはつながりません。偶発的発見に備えてInstagram上にブランドの世界観をしっかりと構築しておくことが必要です。
 Instagramには各アカウントにプロフィールページがあります。プロフィールはアカウントの顔となる場所であり、過去の投稿やストーリーズへの誘導などができる情報のハブとなるページです。利用者は興味を持ったアカウントのプロフィールページを見て、フォローするかどうかを決めます。
 日本ではInstagramの利用者の42%が、「興味関心を持った商品・ブランドについてもっと知りたいときにプロフィールを確認する」と回答。また、プロフィールを見た人の2/3がフォロワー以外からのアクセスです。
 つまり、プロフィールでどれだけブランドに興味を持ってもらえるかが、その後の関係を大きく左右する。プロフィールページでブランドのアイデンティティや世界観を網羅し、しっかりとストックしておくことが重要です。
 Instagramにはフィードだけでなく、ストーリーズやリール、IGTVといったさまざまなビジュアル表現のためのツールを取り揃えています。
 そういった機能を組み合わせて商品ラインナップや利用シーンを紹介したり、視点の異なるキャンペーン素材を展開したりするなど、ブランドのあらゆる側面を表現することが、より深くブランドを理解してもらうことにつながります。
 Instagramにはブランド、インフルエンサー、利用者など多様な視点を持つ情報発信者がいます。こうしたコミュニティを共鳴させて情報を拡散させ、メッセージの連鎖を生み出していくのが、3つめのポイントです。
 たとえば、ブランドからのメッセージを受け取ったインフルエンサーが、自身の言葉でブランドの魅力を語っていると説得力が増しますよね。そして、そのメッセージを受け取った利用者や、ブランドを利用している消費者のクチコミが広がっていくことで、さらに熱量の高いメッセージの連鎖が生まれていきます。
 ある企業ではインタラクティブなストーリーズのアンケート機能を使って、利用者に「AとBどちらがいい?」と問いかけ、プレゼントの商品が変わる参加型のキャンペーンを実施。リーチした利用者の多くがキャンペーンに参加し、高いエンゲージメント効果を発揮しました。
 また、インフルエンサーが発信した情報を広告のクリエイティブとして利用することで、高いコンバージョンレートを記録した事例もあります。
 このように利用者とのエンゲージメントを深め、多彩なコミュニティの視点を掛け合わせてメッセージの連鎖を生み出すことで、「好きと欲しい」につなげていくことができるのです。

企業はどうInstagramと向き合うべきか

──Instagramをベースに、その他のメディアと連動させながらマーケティング効果を高めていくためには、どのようなコミュニケーションプランが考えられるでしょうか。
 Instagramでは各ブランドのマーケティングのフェーズに応じて、ローンチ前の施策、ブランド認知拡大の施策、フォロー期間の施策を組み合わせたブランディングの“必勝パターン”を提案しています。
 たとえば、ローンチ前のタイミングでは認知拡大のためにCMと連動させた広告がいいのではとか。あるいは、商品が発売されて認知が進んでいる段階では、季節イベントの盛り上がりに乗じたメッセージを伝達しようとか。
 さまざまなマーケティング課題に対応したプランを用意しているので、企業のみなさんにはプランをうまく組み合わせて、効果的にInstagramをメディアミックスに組み込んで いただくことができます。
 また、冒頭でお伝えしたようにInstagramは「好き」から「欲しい」まで一気にファネルを絞りこめる特性があるので、Instagramの中だけで一連のファネルを完結させることも可能です。
 企業のみなさんには、ぜひこうした特性をうまく活用してブランディングにつなげていってもらえればと思います。
──大企業だといろいろな事情が絡み合って、一貫したプランニングがしにくいケースもあると思います。こうした場合、Instagramの運用の際に気をつけることはありますか?
 そういうご相談を受けたときに我々がお伝えしているのは、「Instagram上では個人の情報も、大企業の情報も、大きさや流れ方は変わらない」ということです。
 大事なのは、人と人のつながりのように、人とブランドのつながりがあるということを前提に置いて、「このアカウントは何を届けるためのものか」という目的を明確にすること。そして、その目的に合った情報だけを発信していくことだと思います。
 大企業でよくある失敗例としては、1つのアカウントでターゲットの異なるブランドの情報をバラバラと流してしまうケース。利用者は「結局、この企業は何を私に届けてくれるのか」がわからなくなり、見てもらえなくなってしまいます。
 「私はあなたに、この情報を届けます」という約束を明確にして、そこからブレない。
 これがInstagramでブランドをつくるにあたって、とても大事なことなんです。