2021/2/1

【2021年】NewsPicks for Business 麻生要一が考える、日本企業の処方箋

NewsPicks for Business 編集長 / AlphaDrive 統括編集長
そもそも先の見えない、VUCAの時代と言われてきた。2020年、世界が新型コロナウイルスによる大混乱に陥った。武漢発のパンデミックから1年、世界的にまだまだ収束の気配がない中、年が明けた。ビジネスシーンも世界的な大激変の渦中にある。

長く続いた日本経済の低迷期を経て、国内ではここ数年、スタートアップブームとも言える起業と投資の波が来ていた。呼応するかのように、大企業側にも変革の波が迫りつつあった。だが……。

VUCA、コロナ禍を経て、2021年の日本経済、この人の目にはどう映っているのか。
新卒で入社したリクルートで新規事業統括エグゼクティブを務め、これまで総計約5000件の新規事業開発プロセスに携わってきた。
企業変革や新規事業開発のコンサルティング・ソリューションカンパニーである株式会社アルファドライブのCEOを務め、株式会社ニューズピックス執行役員として、企業変革を加速させる法人向け事業「NewsPicks for Business」を統括する。
AlphadriveとNewsPicks for Businessではこの2年あまりの間に、売上1兆円規模の大企業を中心に計60数社の変革につながる動きを支援してきた。
企業変革をリードしてきた麻生要一が語る、2021年の日本企業への処方箋。

コロナ禍で進んだ「二極化」。選ばれた会社の条件

コロナ禍の日本企業で確実に進んだのは「二極化」です。
あらゆる業界が厳しい局面に立たされている中、一方で最高益を出している会社があります。コロナ禍は全ての企業に試練を与えましたが、逆にそれをチャンスに変えられた会社と、変えられなかった会社に分かれました。
多くの会社はコロナによって売り上げが昨対比2、3割減の憂き目に遭っています。8割減っていますという飲食店もあります。一方で、オンラインストリーミングサービスやフードデリバリーが好調、といった話もよく聞きます。
ですがそれだけでなく、例えば有店舗型の業態であったとしても、コロナ禍が訪れたときに迅速に業態を変換できた会社の中には、実はコロナ禍よりも売り上げが上がったケースがある。確実に二極化が進んでいるんです。
GoToイートやGoToトラベルというカンフル剤が打たれたときに、一時的に人が外食や旅行に戻った時期がありました。それをチャンスに変えて、コロナ前よりも売り上げが上がった店や旅館もありましたが、まんべんなく人が戻ったわけではありませんでした。人が集中した宿や飲食店もあれば、全然人が来ないままだったところもあり、ここもやっぱり二極化しました。
その違いは何か。2つあります。今回ピンチをチャンスにできて、お客様に選ばれた会社は、「以前から時代の変化を読み、新しい時代のお客様のことを考えて、新しい価値をずっと作り続けてきた会社」だったように思います。もっとおいしいメニューを、と挑戦を続けたり、伝統は守りながらも革新的なことを取り入れて、今の時代にフィットさせたり。変化し続ける世の中に対し、常に新しい価値を新しい時代のお客様に届け続けられるよう頑張ってきた会社やお店がやはり選ばれました。
逆に厳しい目に遭っているのは、言葉を選ばず言うと、あぐらをかいていた会社ではないでしょうか。80年代、90年代の成功体験をもとに、かつてのお客様のイメージのまま、当時成功したやり方を何も変えずにやり続けてきた会社が、2020年代、いよいよ選ばれなくなるということが露呈してきています。

いかに迅速に、過去の成功体験を捨てられるか

もう一つ、コロナ禍が来たときに、どれだけ迅速に「過去の成功体験は通用しない」と割り切れたかどうか。これまでの常識を全て捨てて、勇気を持って、自らをトランスフォーメーションできたかどうか、そしてそれがどれだけ速かったかどうかが問われました。
私たちの例を挙げると、AlphaDriveとNewsPicks for Businessでは主にリアルのイベントでマーケティングすることが一つの成功パターンでした。しかし昨年のコロナ禍で、イベントが全くできなくなるというピンチに陥りました。
嘆いてばかりいるわけにはいかない。トランスフォーメーションの意思決定は早かったと思います。社員の提案で、はやくも昨年2月後半には1回目のオンライン配信イベントを実施しました。「いけるかもしれない」という実感があり、2月末にはリアルのイベントをやめて、全て配信に切り替える判断を下しました。
永田町のAlphaDriveの本社に配信スタジオを設けるよう投資判断をし、3月13日には設備投資を完了して「AlphaDriveStudio(アルファドライブスタジオ)」をオープンしました。4月の1度目の緊急事態宣言よりも3週間以上前のことです。
AlphaDriveStudio
コロナ禍が来た段階で、どれだけ早く「これまでの常識が通用しなくなる」という前提に立てたか。例えばそれまで対面での商談がメインの会社でも、オンライン商談ツールを入れて全ての営業プロセスを訪問から非対面営業に切り替えるなど、思いきって成功体験を捨てて、いち早く転換した会社から、新時代のお客様に選ばれているのです。

企業はもっと、社員の力を信じよう

AlphaDriveとNewsPicks for Businessの統合事業で、統合前のそれぞれの事業の立ち上げ時期から数えて約2年半で、60数社のお客様と計約3500件のイノベーションプロジェクトを一緒にやってきました。その中で痛感していることがあるんです。日本の企業、特に大企業はもっと自社の社員の力を信じましょう、と。
何が正解かわからない、変化の激しい、厳しい時代に生き残るには、社員の可能性を解放し、ちゃんと考える場や表現する場を提供する。それしかないと思います。
外部の人が作ったすごく綺麗な経営戦略や事業計画があって、そのまま経営会議で議論してトップダウンで動かしていくのではもう立ち行かない。その前提となる環境が明日変わってしまうかもしれないのです。
「どうせできないだろう」とか「うちにはイノベーション人材がいない」と言うリーダーもいますが、私がこれまでに接してきた多くの日本企業で働く現場社員は一人ひとり持っている能力も高いし、視座も高い。
社員たちは世の中がどちらに向かうのかを真剣に考えているし、自社の向かうべき方向性や、自分の担当事業や商品はどう変わっていかなきゃいけないのか、そのためにはどういうことを実験したらいいのかというプランを実はたくさん持っているのです。
最前線で働いている社員が日々持っている現場感や肌感こそ実はすごく筋が良くて、革新的なんです。もしそれが封じ込められている環境だとしたら、解き放つようなことをしていただきたい。これこそが2020年以降、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の企業変革の要諦です。これができない会社は徐々に衰退していくのではないか。

社員起点で小さく実験し、経営側が大きく舵を切る

ドラスティックな意思決定には勇気が必要です。AlphaDriveでのスピーディーな意思決定を後押ししてくれたのは、小さな1度の実験でした。いきなり過剰投資して全部オンラインに切り替える判断はできませんでしたが、試しに1度フルオンラインでイベントをやってみた手応えから、意思決定することができました。
新しいことをやり続ける会社が変化や転換に強い会社になる。そんなに簡単なことではないかと思いますが、多くの会社が試すことすらできていないのではないでしょうか。どちらの方向に世界が向くかわからない中で、いろんな可能性を探りながらシミュレーションをし、小さく実験し、大きく舵を切る。それは誰起点かといったら、現場で働く一人ひとりの社員起点でしかないと感じます。
AlphaDriveでも「オンラインイベントをやってみましょう」と言い始めたのは社員です。NewsPicksで番組を手掛けている「NewsPicks Studios」が横にいたことも大きかったですが、どのようにやっているか話を聞いて、実証実験をし、成果を上げた。その後、可能性を信じて「全振り」するのは経営判断です。
オンラインへの切り替えが奏功したこともあり、結果的に2020年のAlphaDriveとNewsPicks for Businessを合わせた統合事業の業績は、コロナ前の計画を上方修正して達成することができました。

社員の可能性を解き放つ、たった2つのこと

それでは、どうしたら社員の可能性を解き放つことができるのでしょうか。経営陣の皆さんだけでなく、大企業で働く全ての皆さんに、以下の2点が大事なんだと認識していただけたら、日本企業は変わると思っています。
まず、社員が考えていることをちゃんと社内で発信できるようにする。そうすると具体的なプロジェクトや事業案がたくさん出てくるので、それをやらせてあげる仕組みを作る。すごく簡単なこの二つのことをちゃんとやれば、驚くほど革新的な取り組みがいっぱい生まれてくるんです。
社員に「考えさせる」「発信させる」仕組みとしては、私たちが手掛けている「NewsPicks Enterprise」というサービスがあります。
企業ごとにカスタマイズしたNewsPicksアプリを一部の社員または全社員向けに導入していただき、社員の人たちだけで使えるクローズドな議論の空間をつくります。NewsPicksの記事を中心とした社内外のニュースを話題にして、社員同士で議論してもらう。これが驚くほど盛り上がるんです。
法人向け「学び」と「つながり」のプラットフォーム「NewsPicks Enterprise」。リモート時代に社員同士の学びを加速させ、社内報や社内SNSの役割も担う。
「あの部署にはこんなに面白いことを考えている人がいたんですね。なんで今まで話したことがなかったのだろう、同じフロアにいたじゃん」みたいなことがよく起きています。もう何十年とピラミッド型の組織が固定化されていて、実は近くに座っている人同士で生まれていたかもしれないイノベーションが、全く生まれない組織構造になっていたことに気づくんです。
何か難しいことをする必要はなくて、私たちのサービスでいうと、NewsPicksという、社内外のニュースという話題のキッカケに溢れた、話しやすい空間を社内に提供するだけで、驚くほど活発な議論が生まれるんです。
NewsPicks Enterpriseを使っても使わなくてもいいのですが、社員同士をつないで、部署や役職を超えてフラットに会話が生まれる空間を作ること。リモートシフトで特にその点、困っている会社は多いのではないでしょうか。

現場の力を信じて、社員を伸ばす、話を聞く、現場同士を盛り上げる

今、「社員のエンゲージメントを高めよう」とか「タレントマネジメントをしよう」と言われますが、そういった言説自体、やはり経営陣や人事が上にいて、現場社員は下という上下関係から抜けられていないのでは、と思います。
もちろんコーポレートガバナンスは維持しなければいけないので、発信のルールは重要ですが、そもそも社員一人ひとりが考えていることは革新的であり、社員たちがお客様にとっての価値を一番つくっている人たちなんです。統制をするということと、上下関係を作るということが、同じ話になってしまってはいけません。
私自身が経営するAlphaDriveとNewsPicks for Businessの統合事業においても、その点は強く意識しています。私は強いビジョンや大きな方向性は示しますが、個別のプロジェクトや施策、個別のコンテンツについては私のところに「やっていいですか」という「いわゆるお伺い」は上がってこない。「やるんです」「やりました」がほとんどだけれど、それがよいと思っています。なぜならば、顧客価値を創造する最前線にいるのは経営者ではなく、一人ひとりの社員なのだから。
コロナによってより複雑になりましたが、大きなトレンドとしてAIやIoT分野などテクノロジーの進化が年々加速していて、バイオテクノロジーとITが融合していくような時代がきます。この後どういう世界が待っているかなんて全くわからないというのが、今です。
やはり現場の力を信じて、社員を伸ばす、話を聞く、現場同士を盛り上げる雰囲気作りの方がずっと大事です。

「制度・仕組み」と「コンテンツ」両輪で企業変革を

NewsPicks Enterpriseなどの場を通じて出てきたアイデアやプロジェクトの実現プロセスの設計について。AlphaDriveでは、企業の新規事業開発プログラムや、経営戦略の改善・既存事業の改善も含めたイノベーションプログラムを運営しているほか、新規事業開発特化型の総合支援ツール「Incubation Suite」も提供しはじめました。
新規事業開発特化型の総合支援ツール「Incubation Suite」。新規事業開発に取り組む企業様の様々な業務課題の解決と、導入企業様における新事業の創出に繋がる各種機能を搭載。
ただ、企業変革につなげるには制度や仕組みづくりだけでは十分だけではありません。作った制度や仕組みの上で、働いている一人ひとりの社員の心に火が付き、やる気になり、楽しいと思うかどうか。そういう観点で、制度や仕組みと両輪でもう一つ重要なのが、コンテンツです。
コンテンツに関しては、日本の経済においてNewsPicksよりコンテンツ力のあるところを私は知りません。NewsPicksよりも経済情報や経済活動を面白く伝え、ビジネスパーソンをモチベートできるプレーヤーはないと思っています。
記事コンテンツもあれば、インフォグラフィックもあれば、映像もあれば、オンライン・オフラインのイベントもある。私たちは、あらゆるクリエイティブの力を使って、人の心に刺さるコンテンツを生み出していくコンテンツプロデュース集団でもあります。
法人向けのNewsPicks for Businessでもそこは同じです。ビジネスパーソンの知をアップデートする法人向け動画学習サービス「MOOC Enterprise」も提供し、多くの大企業に導入いただいています。NewsPicks Enterpriseではそこに掲載する社内向けのコンテンツも数多く手掛けていますし、社内変革につながるイベントやカンファレンスもオンライン配信・リアル問わずにプロデュースしています。
最前線で活躍する有識者が経験した実践知、最先端のテーマを「いつでも・どこでも」学べる法人向け動画学習サービス「MOOC Enterprise」。
昨今、企業文化の重要性が見直されていますが、企業文化を変革する専門組織「NextCulture Studio」も昨年立ち上げました。
さらにNewsPicksを活用してユーザーと企業が共創する新商品開発支援サービス「NewsPicks Creations」も手掛けています。企業がお客様とコミュニティを作り、新しい商品やサービスを一緒に手掛けながら、どのように世に出していくかを考えていきます。
世の中の変化に合わせて企業を変える、もしくは新しく生み出すという領域に特化して事業を展開しています。

「イノベーションマネジメント」を切り開く

NewsPicks for Businessは経済メディアが手がける新しいビジネスモデルの一つです。経済情報をビジネスパーソンに届ける、伝えるだけでなく、企業活動や組織運営、人材育成にも携わっています。
ユーザベースのミッションは「経済情報で、世界を変える」。経済メディアなので、世の中がどちらに向かっていくかはいち早く理解しています。だから、情報を届けて終わりではなく、向き合ってくださる企業や読者の方々を実際に良い方向に導いていくこと自体にコミットすることに価値があると思っています。
事業を通じて、私たちは「イノベーションマネジメント」という分野を切り開いていきます。まだ体系化されておらず、ある意味まだ職人的とも言える分野かもしれませんが、かつての「クオリティマネジメント」や「プロジェクトマネジメント」と同様、今後体系化が必至の領域です。
2020年以降に本格化する「イノベーションマネジメント」の体系化をリードするリーディングカンパニーでありたい。どうしたら現場から新しいアイデアが生まれて、実現して、世の中に実装されていくのか。そのプロセスについて、どうやって再現性を持たせるのか、まさにここから10年ぐらいで体系化が進んでいきます。実践的に向き合いながら、同時に体系化しているのが我々の仕事です。

求む、トップレベルの人材。ともに企業変革を手掛けよう

日本経済をリードするような大企業のイノベーションマネジメントに本気で取り組んでいくうえで、AlphaDriveとNewsPicks for Businessでは幅広く、トップレベルの人材を求めています。ビジネス、クリエイティブ、エディター、エンジニア、いずれも必要です。
何よりも大事にしているのは、スキルやスペックではなく、私たちのカルチャーとビジョンへの共感です。私たちは少しでも産業界を、そしてそこで働く人たちを元気にしたい。そこにコミットしていきたい。そのためにいちばん大切なことは、それを生み出す「私たち自身」が、誰よりも「仕事に熱狂する」ことだと考えています。
私たちの事業の話にテンションが上がる人、日本中の企業をイノベーティブな姿に変革することで日本経済を再興させたい。人生をかけてもいい。そんなふうに共感してくれる人がいれば、ぜひ一緒に働きたいと思っています。

【実施終了】2月16日、オンライン事業説明会開催

ユーザベースグループの株式会社アルファドライブと、株式会社ニューズピックスが手がける法人向けビジネス「NewsPicks for Business」では事業拡大に伴い、ともに働く仲間を求めています。
2月16日19時から、私たちの事業にご興味をお持ちいただける方を対象にオンラインイベントを開催します。
麻生要一のほか、NewsPicks for Business / AlphaDrive HRマネージャーの新井麻衣子と、NewsPicks for Business編集長 / AlphaDrive統括編集長の林亜季も登壇。私たちが手がける事業や募集中のポジションを説明し、本記事では描ききれなかった麻生要一の「頭の中」により迫るトークをお届けします。
私たちの事業やビジョン、募集中のポジションにご興味をお持ちいただける方を対象に、2月16日、オンラインでの事業説明会を開催しました。