[21日 ロイター] - トランプ前米大統領は任期最終日に多数の恩赦を与えたが、自身や子供たち、私的な顧問弁護士のジュリアーニ元ニューヨーク市長は含めなかった。トランプ氏の側近らは、トランプ氏が自分に恩赦を与えるという異例の措置について、密かに議論したと話していた。

今回の最終的な決断が、退任して一般人に戻ったトランプ氏に今後、問われる可能性のある民事的、刑事的責任に対し、どのように影響し得るのかまとめた。

<トランプ氏決断の理由、考えられる事柄>

大統領恩赦で可能になることは、とても多いわけではない。連邦機関である司法省の訴追は停止され得るが、州レベルの訴追は可能だ。ニューヨーク州マンハッタン地区検察のサイラス・バンス検事が手掛けているトランプ氏の事業に関する脱税疑惑などへの刑事捜査は、なお続く。

バンス氏は、今のところだれも刑事訴追していない。トランプ氏は、この捜査が政治的動機によると主張してきた。

法律事務所バックリーの弁護士で、以前、マンハッタン地区検察でバンス氏の補佐だったダニエル・アロンソ氏の見立てでは、トランプ氏が自己恩赦していたら、州レベルでの訴追を求める声が高まるだけだったという。

ロヨラ・ロー・スクールのジェシカ・レビンソン教授によると、自己恩赦していたら、トランプ氏の支持者たちによる今月6日の連邦議事堂襲撃での死者遺族などが、民事訴訟を起こす動きに油を注いでいた可能性もある。事件の直前にトランプ氏はホワイトハウス近くでの集会で群衆を繰り返しあおっていた。

レビンソン氏は、少なくとも罪を認めるかという意味で、トランプ氏の自分や家族への恩赦は、ほとんど「挑発」行為になると指摘。「来て捕まえてみろ」と言っていることになり、その通りに訴訟と捜査を加速させていたとみる。

自己恩赦が裁判所で審理された場合、法廷が支持するかについては、学者たちはかなり懐疑的だ。「だれも自分の件を自分で裁いてはならない」との基本原則に背くとみる専門家は多い。

自己恩赦していたら、上院の共和党議員も怒っていたかもしれない。下院はトランプ氏の演説が議事堂襲撃をあおったとして弾劾訴追を可決しており、上院では間もなく弾劾裁判が開かれるからだ。弾劾裁判の結果によっては、トランプ氏は将来公職に就けなくなる。

<ジュリアーニ氏の恩赦なら、トランプ氏の助けになっていたか>

法律専門家によると、助けになっていた可能性も高いが、判断は難しい。

ジュリアーニ氏はトランプ氏のために大統領選の有力候補だったバイデン氏やその子息のスキャンダルを探し、トランプ氏の代理人としてウクライナ疑惑に関わった。トランプ氏のこうした対応は、2019年12月の下院での弾劾訴追につながった。だが、20年2月に共和党が多数派だった上院で開かれた弾劾裁判では、無罪とされた。

ロイターが入手した大陪審召喚状によると、ニューヨークの連邦検察は19年11月、犯罪捜査の一環としてジュリアーニ氏への支払い記録の提出を求めていた。召喚状によると、検察が捜査の対象としたのは資金洗浄、通信不正行為、選挙資金の法規違反、偽証、司法妨害、外国代理人登録法の違反だった。

ジュリアーニ氏は、全て否定している。

ジュリアーニ氏への捜査の範囲や程度は不明で、現状で同氏は訴追されていない。同氏がトランプ氏について、検察にとって価値があると思うようなことを知っているのかも明らかにされていない。

ただ、元連邦検事で現在はベンジャミン・N・カードーゾ・ロースクールの教授であるジェシカ・ロス氏によると、ジュリアーニ氏に恩赦が与えられなかったことで、同氏は訴追された場合には検察に協力し、トランプ氏の行為をほのめかす可能性が高くなっているという。「恩赦の可能性がなければ、有罪と服役の可能性は現実味を増すわけで、これが『良きに計らってもらう』ために検察に協力する動機になる」としている。

ロヨラのレビンソン氏は、バイデン氏の大統領選勝利を無効にするためにジュリアーニ氏がトランプ氏の代理で起こした数多くの訴訟がことごとく負けたことで、同氏は恩赦を与えないことを決めた可能性もあるとみている。

<密かに自己恩赦することも可能だったか>

元検事のアロンソ氏によると、密かに自己恩赦することは可能だ。大統領恩赦は通常、公表される。しかし、合衆国憲法が公表を義務づけているわけではなく、トランプ氏がやろうと思えば、家族や側近、自身に対してさえも予備的な恩赦を密かに出せていたという。

一方で、大統領記録法は大統領決定の文書化を定めているが、実際にそれを強制する仕組みは同法には定められていない。アロンソ氏によると、恩赦が密かに行われていた場合、それが明らかになるのは、恩赦の対象になった人物が最終的に連邦犯罪で訴追され、その弁護のために恩赦されていることを申し出る以外にないかもしれないという。