平田紀之 白木真紀

[東京 18日 ロイター] - 新型コロナウイルスで落ち込んだ自動車市場が想定外に急回復し、主要部品である半導体の供給が追いつけずにいる。半導体メーカーの生産ラインは第5世代(5G)通信網向けなどの需要で余力が乏しく、マイコンから汎用品まで足りない品目は多岐にわたる。自動車メーカーは減産を余儀なくされており、生産の正常化は春以降になるとの見方もある。

<想定外の急回復> 「コロナで沈んだ需要がせっかく回復してきている。半導体不足で腰折れさせるわけにはいかない」と、自動車メーカー関係者は苦悩を打ち明ける。

3万点以上の部品で構成される自動車は、ネジ1つ欠けても生産ができないといわれる。特に高度に電子制御された今の車に半導体は欠かせず、過去には東日本大震災などで半導体工場が止まり、自動車生産が影響を受けたこともある。 足元で起きている半導体不足はコロナ禍からの新車需要の回復が想定を超える急ピッチだったことが底流にある。一時的に抑制された生産と販売がロックダウン(都市封鎖)の解除で一気に息を吹き返した。自動車メーカー関係者は「需要がこれほど急回復するとは思わなかった。感染防止の点からマイカー需要が伸びることも想定していなかった」と話す。

自動車の国内生産は、4─5月の急減速を底に夏場には持ち直し始め、10月からは前年比増に転じて回復が鮮明になった。海外ではいち早く経済が回復した中国での生産が先行。米国での生産も回復軌道をたどった。

一方、半導体は自動車向け受注がコロナで急減する中で、5G関連システムやデータセンター向けの需要が高まった。受託製造するファウンドリーを中心に、生産能力をデジタル関連向けに振り向けた。そこに急回復した自動車向け需要が秋口から押し寄せた。対応に追われた半導体メーカーの関係者は「これほどの急回復は想定できなかった」と話す。

複数の業界関係者によると、自動車向けで供給が不足しているのは先進運転支援システム(ADAS)で用いるマイコンが中心だが、ローエンド品へも波及してきているという。

自動車向け半導体を手掛けるルネサスエレクトロニクスは「供給はタイトだと認識している。アウトソース先から当社工場に生産を移管するなど供給継続に向けた努力を続けている」(広報)としている。

<2月以降もくすぶる減産リスク>

国内ではホンダや日産自動車が1月に減産を決めており、海外ではホンダが北米や中国の工場で減産を検討。トヨタ自動車は米国でピックアップトラックを減産し、中国の合弁会社では一部ラインを11日から一時停止した。独フォルクスワーゲン(VW)や米フォードなど海外勢も生産調整に動いている。

自動車各社は極力減産しないよう知恵を絞っており、生産計画もめまぐるしく変化している。トヨタは中国での一部ラインの停止期間を取引先に4日間と伝えたと一部で報じられたが、半導体調達にめどが立ち、12日夕には再開にこぎつけた。トヨタは半導体不足を受け、「グローバルでの生産への影響を引き続き精査している」(広報)という。

日本の自動車メーカー関係者は「黄信号は常に点灯しており、赤信号がチラつく回数は増えてきている」と話しており、2月以降も綱渡りの状況が続く可能性がある。

ホンダ系部品大手3社と日立オートモティブシステムズが統合して誕生した日立アステモのブリス・コッホCEO(最高経営責任者)は18日の事業説明会で、現時点で大きな影響は受けておらず、今後も大きな影響にはならないとの見解を示しつつ、「まだ不確実。どの程度のインパクトになるのかこれから精査したい」と語った。

半導体メーカー関係者によると、いちど切り替えたラインを自動車向けに戻すのは簡単ではない。切り替え自体はプログラム上で進め、装置の入れ替えなどの大掛かりな手間はかからないが、自動車向けは人の命を預かるだけに、部品の品質管理がより厳しい。そのチェックに数カ月を要することもある。そもそも半導体メーカーのラインが5Gやデータセンター向けの受注ですでにフル稼働状態という事情もある。

増産に向けた動きも一部で見られ始めたが、「体制が整うまでには半年程度はかかる」と、英調査会社オムディアの南川明シニアディレクターは言う。

SBI証券の遠藤功治企業調査部長は「減産のリスクはこの3月までで、世界的にも4月以降は徐々に正常化するだろう」とみる。国内で1ー3月は年度末に向けた在庫積み増しの繁忙期で、この間の減産が計画に比べて5ー10%にとどまる場合、「半年や1年でみれば、挽回生産の対応次第で、影響はほぼ無かったとなる可能性もある」と話す。ただ、半導体の使用量が多い電動車の需要拡大次第では、ひっ迫感が残る恐れもあるとも指摘している。

(平田紀之、白木真紀 取材協力:清水律子)