オランダのスーパーマーケットにはオレンジを搾る機械が設置されており、その場で自分でフレッシュ・オレンジジュースを作ることができる。この機械はさまざまな種類のスーパーに置かれており、オランダでよく見かける光景だ。

搾りたてのジュースはもちろん新鮮で美味しく、地元の人びとは普段から愛用。ヨーロッパ外からの観光客からも、その珍しさで人気の存在だ。ちなみに、フランスなどの周辺国で見かけることもある。

ただ、その人気ゆえに問題もある。搾った後に残るオレンジの皮の廃棄だ。オランダだけでも毎年、約2億5,000万キロの皮が廃棄されるのだが、この皮は通常、コンポストや発酵に適さないため焼却処分されている。

この問題に焦点を当て、ユニークなアイデアでオレンジの皮を「再生」させようと、この10月、1,000万ユーロ(約12億6,500万円)もの資金調達に成功したベンチャー企業が「PeelPioneers(ピール・パイオニアーズ)」だ。

今、循環型(サーキュラー・エコノミー)企業を支援するヨーロッパの投資家から熱烈な支持を受けている。

創業からわずか2年で1,000万ユーロの資金を調達

同社は2018年の創業時にも100万ユーロを調達し、世界初のオレンジピール加工工場をオープンしたことでも話題になった。今回の調達額はその10倍にあたる1,000万ユーロ。大手金融機関のRabobank(ラボバンク)や経済省、欧州循環型バイオ経済基金(ECBF)からも資金が集まった。

ECBFは循環型経済(サーキュラー・エコノミー)企業の支援を主な目的として設立されたファンドで、2億5,000万ユーロの規模を目指している。このファンドから資金調達を受けたことで、PeelPioneersの注目度は一気に高まった。オランダの経済紙最大手『Het Financieele Dagblad』によると、多くの投資家が興味を持ち投資の機会を待っているという。

創業者のBas van Wieringen、Lindy Hensen、Sytze van Stempvoort
(画像の出典:PeelPioneers公式サイト

同社は1日に4万キロものオレンジの皮を回収し、成分を抽出。それをもとに、主に以下のプロダクトを作っている。

  • コールドプレスオイル
  • 高濃度オイル
  • ディーリモネン
  • 機能性繊維
  • オレンジ繊維
  • 家畜の飼料

オイルは石鹸や化粧品、香水などの日用品、洗剤や石鹸の製造に使われる。オレンジの皮から得られる精油を蒸留精製したディーリモネンは、通常、芳香性溶剤や香料原料として使用されるが、同社ではこれを洗浄剤などに活用している。

繊維もオレンジの皮から生成可能だ。その繊維には、オレンジの香りを持つものとほぼ無色・無臭のものがあり、主にヨーロッパで人気のベジタリアン食品に役立てられている。パサパサしがちなベジタリアン食品に弾力やフレッシュさを与えるという。その他、ビールやリキュール、マフィン、クッキーなどさまざまな食品にも使われている。

今回調達した資金は、主に設備投資に使われる。工場を拡大し、オフィスや研究室も新設。今後数年で5つの新しい工場を新設し、オランダだけでなくヨーロッパの他国にも進出を予定している。処理能力も現在の4万キロから12万キロに拡大予定で、それに伴う製品の販路拡大の目処も2021年まで立っているという。

公式サイトには、オレンジの皮から抽出された繊維についての解説が掲載
(画像の出典:PeelPioneers公式サイト

「焼却」よりも「再生」するほうが企業にとっては割安

PeelPioneersはオレンジの皮を回収するため、廃棄物回収を専門とする「Renewi(リニュイ)」と協業しているが、実はオレンジの皮は焼却するより回収し、再生にお金を払ったほうが安く済むという。

その背景として、冒頭でも紹介したオレンジジュースの機械で発生する廃棄物の焼却にかかる税金が2019年に増税になったことが挙げられる。

さらに近年、環境問題や循環型社会への関心の高まりから、CO2排出量に対する企業の責任がますます問われている。焼却せずにアップサイクルすることで、オレンジの皮1トンあたり280キロのCO2相当量を節約することができる。

結果、企業にとってはPeelPioneersが有力な選択肢の一つとなり、オランダ国内では大手企業からも続々と声がかかっている。

その一つ、オランダのスーパーマーケットチェーン最大手「Albert Heijn(アルバート・ハイン)」は国営放送NOSのインタビューで、「オレンジの皮のリサイクルに関連したあらゆる取り組みに協力する」と語っている。

PeelPioneersが協業する企業。大手スーパーマーケットや百貨店などが並ぶ
(画像の出典:ピール・パイオニアーズ公式サイト トップページ

目指すは「Closing the loop(輪を閉じること)」

このように、オランダでサーキュラー・エコノミービジネスが成長する背景には、政府が策定する力強いポリシーが挙げられる。

政府のWebサイトからダウンロードできるPDF。2050年までに移行する循環型社会について記されている
A Circular Economy in the Netherlands by 2050

オランダ政府が作成した「A Circular Economy in the Netherlands by 2050」には、2050年までに達成する計画である、オランダでの循環型経済の発展について詳しく記されている。

その目的は、環境に有害な排出物を出すことなく、原材料を効率的に使用し、再利用すること。「廃棄物から資源へ」を掲げたグリーン成長プログラムも盛り込まれている。

ちなみに欧州レベルでは、欧州委員会が2015年12月2日に、循環型経済を推進するための行動計画と立法案パッケージを発表した。こうした背景もあり、廃棄食品を有効活用し、新たな商品を生み出す企業が注目を集め、成長している。

PeelPioneersのように、廃棄物から新たな商品を作り出し、店頭で再度販売することを、オランダ政府や欧州委員会は「Closing the loop(輪を閉じる)」と表現している。いまある資源やこれまで廃棄物とされてきたモノの価値の見直しが求められている。

文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit

参考URL:
Groeigeld voor de schillenboer van de 21ste eeuw
Start-up begint recycling van sinaasappelschillen
Overschot aan sinaasappelschillen door verse jus; recyclingfabriek in aanbouw
Bij de schillenboer van de 21ste eeuw verwerken ze 1,2 miljoen sinaasappels per dag
Dリモネン
A Circular Economy in the Netherlands by 2050