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 菅義偉政権が看板政策に掲げる2021年9月のデジタル庁(仮称)の発足に伴い、政府は民間IT人材の登用戦略を全面的に再編する。民間から登用してきた政府CIO(内閣情報通信政策監)と政府CIO補佐官はともに廃止する方針だ。新たにデジタル庁で任命・採用する民間人材を質量ともに充実させることで、これらの役割に代える。

 権限を強化したデジタル庁発足に制度を合わせる狙いだが、背景にはこれまでのIT人材活用への反省がある。例えば、現在の政府CIO補佐官は1人が数多くの案件に参画して様々なスキルを要求されるなど、専門性を十分に発揮しにくかった。適切な支援ができず、政府のデジタル化が不十分だった一因と分析された。

 政府はデジタル庁の発足に向け、専門性を重視して民間人材を採用しようとしている。各分野の専門人材や官僚を交えたチームで各省庁のシステム改革に取り組む方向だ。フルタイム勤務に換算して年間1000万円を超える報酬を支払える制度も準備している。民間人材の専門性やスキルを発揮しやすい職務を用意できるかがデジタル改革の成否に関わる大きな要素となりそうだ。

Webサイトに掲載したデジタル庁のIT人材募集。クラウド技術など専門分野ごとに募集している。
Webサイトに掲載したデジタル庁のIT人材募集。クラウド技術など専門分野ごとに募集している。
出所:内閣官房
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CIO後継の「デジタル監」、権限を強化へ

 政府CIOの廃止などは2021年1~2月に閣議決定するデジタル改革関連法案に盛り込み、通常国会に提出する見通しだ。デジタル庁では新設のポスト「デジタル監」(仮称)を政府CIOの後継ポストとして設けて、民間人を任命する。

 2013年に設置された政府CIOは、政府が民間登用したIT人材の実質的なトップで、これまで民間企業のCIO(最高情報責任者)経験者を任命してきた。政府システム整備の最高責任者として、電子行政の戦略策定、政府全体のIT投資の管理、各省庁の取り組みの評価といった職務や権限を持つ。しかし各省庁に命令や是正を勧告するなどの強い権限は持たない。制度発足から8年近くが経過したが、この間の実際の役割は各省庁への緩やかな監督や助言にとどまり、様々な電子行政の目標が先送りになるなど強力なデジタル改革を進められなかった。

 デジタル庁は各府省が持っていたIT予算を一括計上し、問題があるプロジェクトに是正を勧告するなどより強い権限を持つ。新設する「デジタル監」の役割や権限は調整中だが、デジタル庁が持つ権限を背景に政府全体や各省庁のプロジェクトを監督する司令塔となる。