[ワシントン 6日 ロイター] - 米ジョージア州で5日に実施された連邦議会上院2議席の決選投票は、いずれも民主党候補が勝利を確実にした。バイデン次期大統領にとっては、上下両院で与党が優勢になる念願がかなうことになる。だが同氏が掲げる医療や気候変動など盛りだくさんの法案は、だからといって簡単に成立しそうにはない。

ジョージア州で民主党候補2人が当選すれば、定数100人の上院は民主党と共和党がちょうど50ずつ議席を分け合うが、採決で同数となった場合は議長を兼務するハリス次期副大統領が決裁票を投じるため、事実上は民主党が多数派になる。

とはいえこれだけ勢力がまさに伯仲する以上、バイデン氏が重要法案を通すためには共和党との妥協は不可欠だ。また最も野心的な内容の法案は、民主党内の左派からプレッシャーをかけられたとしても、しばらくは審議を見合わせなければならなくなるかもしれない。

目先の話で言えば、バイデン氏が指名した行政・司法分野の幹部人事はすんなり承認されるだろう。これには単純過半数の賛成しか必要としないからだ。上院主要委員会の委員長ポストが共和党から民主党に交代するので、指名人事への嫌がらせのような「身上調査」などもかわせるようになるのではないか。

より重要なのは、民主党と、同党の上院院内総務となるチャック・シューマー氏が、審議日程やどの法案を採決に回すかを自由に決められるようになることだ。恐らくシューマー氏はバイデン氏やペロシ下院議長と連携し、共和党穏健派の支持が得られそうな法案を先に審議するかもしれない。

上下両院の多数派とはいえ、シューマー氏とペロシ氏に票固めでの取りこぼしが許されるほど余裕があるわけではなく、共和党が勢い付いて、民主党が推進する法案を可能な限り阻止しようとしてもおかしくない。それでもシューマー氏は6日、「大胆な改革」をすると約束。「上院民主党は米国が傷ついているのを承知している。今、助けに向かうところだ」と表明した。

<鍵は穏健派取り込み>

バイデン氏のアドバイザーは、政権移行チームが与野党双方の穏健派を味方に付けられる政策案を取りまとめることに注力していると明かした。特に念頭に置いているのが、ジョー・マンチン議員のような民主党内の保守派を押さえることや、スーザン・コリンズ議員、ミット・ロムニー議員のような共和党穏健派を取り込むことだ。ほとんどの法案は上院で60票の賛成が必要だからだ。バイデン氏の盟友の民主党クリス・クーンズ上院議員などが共和党との折衝窓口役だ。

上下両院を制する形になっても、バイデン氏は慎重な態度で政権運営を始めるだろう。まず目指すのは、景気刺激策や州政府や自治体政府支援、学校再開や新型コロナウイルスワクチン配布にかかる資金拠出などを盛り込んだ総額1兆ドル弱の追加経済対策の実現になる見通し。

バイデン氏の側近の1人によると、比較的コストがかさばらないワクチン配布、学校再開などへの予算配分に加えてコロナ諸対策に反対したら、共和党にとって政治的にマイナスになると政権移行チームは考えている。

シューマー氏は6日、マコネル共和党上院院内総務が採決を拒否し、つぶした国民の大半向けの現金1人当たり2000ドル給付法案が、新議会で復活し最優先の審議対象になるとの見方を示した。

一方、ややこしい税制改正が必要であったり、政治的な緊張がさらに高まったりするような法案は後回しになるだろう。

複数の民主党議員やバイデン氏のアドバイザーによると、バイデン氏がまず手を付けるのは、富裕層や法人向けの減税撤回といった大規模な税制改革よりも、富裕層の課税逃れを取り締まるための内国歳入庁(IRS)のてこ入れになる可能性がある。

ジョージ・ワシントン大学のサラ・バインダー教授(政治学)は、民主党が幾つかの予算関連法案について「財政調整制度」を利用して、単純過半数の賛成で成立させるケースもあり得るとみている。

直近で上院議席が50対50に割れたのは2001年だ。当時与党だった共和党は財政調整制度を使い、チェイニー副大統領の決裁票を加えた単純過半数で減税案を通過させた。

そのころの上院では、共和党のトレント・ロット院内総務が民主党のトム・ダシュル院内総務と交渉し、両党の利害を調整して結果的に上院委員会の人数が両党同数配分になるようにし、どちらかの一方的な優位を作り出さないように均衡させる「パワーシェアリング協定」を結んだ。

今回、マコネル氏は新議会に際してシューマー氏に似たような取り決めを迫り、聞き入れられなければ徹底的に民主党を妨害すると脅すかもしれない。もっとも目下、両党の関係は非常にこじれているので、そうした協定は無理かもしれないが。

ロット氏はマコネル氏について、上院議員仲間として何年もともに過ごしたバイデン氏と協力できる可能性はあるとしながらも、上院運営で何らかの合意ができない場合に、今でさえ遅々として進まない審議が完全に止まってしまう事態に警鐘を鳴らした。

<オバマ政権の教訓>

昨年の大統領選でバイデン氏は、世界大恐慌を克服するためにニューディール政策を進めたフランクリン・ルーズベルト大統領をほうふつさせるかのように、移民から気候変動、医療、経済格差まで実に幅広い問題を解決するために動くと表明した。

こうしたせっかくの野心的な政策は、いくら議会勢力上、実現が難しそうでも、不可能でないならば後退・撤回すべきでないとの声も民主党内から聞こえてくる。

リベラル派の市民権団体プログレッシブ・チェンジ・キャンペーン・コミッティーの共同創設者アダム・グリーン氏は、例えばバイデン氏が打ち出した2兆ドル規模のクリーンエネルギー推進計画などの大規模な政策案でも、シューマー氏が民主党と共和党の穏健派に採決を強いることができると述べた。

バイデン氏は、移民問題などでは大統領令を多く活用し、幼少期に親に連れられて米国に不法な形で入国した若者(ドリーマー)の米国在留を認める措置(DACA)を復活させるとともに、強制送還に歯止めをかける考えだ。気候変動については、パリ協定に復帰するほか、トランプ政権が導入した環境政策の多くを撤回するつもりだ。

それでもバイデン氏には、長期的な視点も必要になる。オバマ前政権の副大統領として同氏が目にしたのは、オバマ氏が医療や環境で政権発足早々に踏み込んだ政策を実行した結果、2010年の中間選挙で共和党に下院の奪還を許したという光景だった。共和党は、賛否が分かれたオバマ氏の政策を批判して勢力を盛り返した。

民主党上院院内総務時代のハリー・リード氏の側近筆頭だったジム・マンリー氏によれば、今回も、共和党はバイデン氏との協調に関心を示さず、22年の中間選挙まで辛抱強くバ待った上で上下両院の多数派の地位を取り戻そうとするかもしれない。マンリー氏は「これから厳しい2年間になると思う」と警戒を示した。

(Susan Cornwell記者、Trevor Hunnicutt記者、James Oliphant記者)