AI、5G時代の今、様々なシステムの頭脳として半導体チップがこれまで以上に重要になっている。この頭脳部分を自前で開発できなければ日本の産業界は競争力を失いかねない。こうした状況下、日本の半導体技術の復活に手を尽くしているのが東京大学の黒田忠広教授だ。自らも最前線で活躍してきた半導体技術者であり、2019年から東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター(d.lab)のセンター長を務める。2020年8月には産学連携で「先端システム技術研究組合(略称ラース、以下RaaS)」という半導体技術開発拠点を発足させ、以降、2つの現場を先導する。黒田教授にd.labとRaaSを核にした「日の丸半導体」復活と日本の再生戦略を聞いた。

今後は半導体の自社開発能力が不可欠

──黒田先生は2019年8月に、半導体関連技術を開発する産学連携拠点の「先端システム技術研究組合(以下RaaS)」を発足させ、関係者の間で大きな話題になりました。また、黒田先生はRaaSの理事長であると同時に、半導体設計技術を開発する東京大学 システムデザイン研究センター(d.lab)のセンター長も務めておられます。日本の半導体産業が投資競争に敗れ大きく後退した状況にある今、d.labもRaaSも日本にとって極めて重要な役割を持つ技術拠点ですが、その実態はあまり知られていません。まず最初に、d.labとRaaSとはどういう組織で、何を目指しているかについて教えてください。

黒田教授(以下、敬称略):簡単に言うと、今後のAI時代、ポスト5G時代に日本のすべての産業が世界の中で競争力を失わないという大目標のための仕組みです。日本の未来にとって不可欠となる自前の先端半導体技術を国内に保持するための拠点がd.labとRaaSになります。

1980年代から90年代前半にかけて日本の半導体産業は「日の丸半導体」として世界を席巻しました。しかし、その後、投資競争に敗れ、次々と舞台から降りたという歴史があります。しかし、AI時代にはどんなハードウエア産業もシステム産業も半導体技術が基盤となります。世界と闘える最先端の半導体技術を国内に保持しておかなければ日本の未来そのものが危ういのです。d.labとRaaSは最先端半導体に関する技術、設計と製造の技術をどうハードやシステムに使うかといったことまで含めて開発し、日本の産業が競争力を維持するための土台を作ります。

d.labとRaaSにはそれぞれ役割があって、2つの組織は表裏一体のものとして機能します。d.labは世界屈指の半導体設計技術を開発するアカデミズムの総本山であり、RaaSは、その技術を実用化し、参加企業が自分たちの事業として展開するための産学連携拠点です。そして、2つの組織のミッションは、世界最高レベルの半導体技術の開発です。具体的には、エネルギー効率を10倍にし、開発効率も10倍に高めることをターゲットにしています。

RaaSの設計ルームで戦略について語る東京大学の黒田忠広教授。東大 システムデザイン研究センター(d.lab)のセンター長と、先端システム技術研究組合(以下RaaS)の理事長を兼務する。自らも東芝、米カリフォルニア大学バークレー校で最先端の半導体デバイス開発や設計技術の開発を進めてきた(写真:高山和良)
RaaSの設計ルームで戦略について語る東京大学の黒田忠広教授。東大 システムデザイン研究センター(d.lab)のセンター長と、先端システム技術研究組合(以下RaaS)の理事長を兼務する。自らも東芝、米カリフォルニア大学バークレー校で最先端の半導体デバイス開発や設計技術の開発を進めてきた(写真:高山和良)
AIや5Gの活用が進む中で、ハードやシステムを提供する国内企業が世界との競争力を保とうとするなら、「買ってきたハード」ではもはや競争できないと黒田教授は見る。高性能半導体チップを自前で開発できることが不可欠であり、これを可能にする最先端技術と、それを作るための産業のエコシステムを国内に残さなければいけないという考えだ(ビジュアル提供:黒田忠広教授)
AIや5Gの活用が進む中で、ハードやシステムを提供する国内企業が世界との競争力を保とうとするなら、「買ってきたハード」ではもはや競争できないと黒田教授は見る。高性能半導体チップを自前で開発できることが不可欠であり、これを可能にする最先端技術と、それを作るための産業のエコシステムを国内に残さなければいけないという考えだ(ビジュアル提供:黒田忠広教授)