[東京 2日 ロイター] - 2021年の米国経済には下振れリスクがあり、年前半にもFRB(米連邦準備理事会)が追加緩和を実施する可能性があると、三菱UFJ銀行のシニアマーケットエコノミスト、鈴木敏之氏はみる。緩和手段は資産購入拡大が最有力という。一方、経済が上振れた場合でも、バイデン政権が富裕層への増税に踏み出すようであれば、引き締めのタイミングは遅れると予想している。

──米国経済の見通しは。

「2020年の経済経路は片仮名の『レ』だった。大きく落ち込んだ後、回復したが、コロナ以前には戻らなかった。2021年は平仮名の『く』を想定している。ワクチン次第で、上下どちらかに大きく振れるとみている。中間の可能性は低いだろう」

──金融市場では景気回復を織り込みリスクオンになっている。

「ジョージア州上院選挙の結果、議会がねじれることになれば、大規模な財政政策は打ち出しにくくなる。いわゆる財政の崖に直面する可能性もある。失業者は依然多く、クレジットカードが使えなくなると消費にも影響が出る。倒産する企業も増えそうだ。来年はコロナの2次的影響が出るおそれがある」

──FRBはどう対応するとみるか。

「財務長官にイエレン氏が就任すれば、財政と金融の協調的な行動がとりやすくなる。大規模な財政政策が出ないから、金融政策は何もやらないということではなく、財政が出ないのなら、金融でカバーしようとするだろう。パウエルFRB議長も呼応するとみている」

──イエレン氏はハト派なのか。

「FRB議長になる前はハト派で、議長になった後は利上げを実施しタカ派になったと言われるが、彼女の考えは首尾一貫している。スラック(緩み)を重視するということだ。スラックが小さくなり、完全雇用が近づいたので利上げに動いた」

「足元で米経済は回復はしてきているが、失業者はいまだ1000万人もいる。米経済は年前半に下振れる可能性が大きいが、その際、FRBは追加緩和に踏み切ると予想している」

──追加緩和の手段は。

「資産購入拡大の可能性が一番高いだろう。フォワードガイダンスは強化したことをアピールするのが難しい。購入資産の年限長期化は金利曲線のフラット化要因になるため、金融機関にとっては必ずしも良い話ではない。マイナス金利は依然否定派が多い。YCC(イールドカーブ・コントロール)は効果が不透明だとみているようだ」

──米経済が急速に回復した場合、FRBは引き締めに向かうか。

「ワクチンが普及すれば経済が大きく上向く可能性も大きい。しかし、その場合、民主党は富裕層への増税を行うとみている。経済やマーケットにマイナスの影響を与える可能性があるため、FRBは引き締めに動き出すタイミングを遅らせるのではないか」

──その場合、株価がバブル化する可能性もある。

「パウエル議長の発言を聞く限り、あまり気にしていないようだ。PER(株価収益率)では割高だが、リスクプレミアムをみると割高ではない、などと発言している。米経済にとって、それがいいかどうかはともかく、積極的にバブルを潰そうという印象は受けない」

──日本との関係はどうなりそうか。

「最大のポイントは為替だろう。財務長官が変わると為替政策も変わる可能性がある。過去をみると、米国が共和党政権時代に、日本は良好な関係を築いてきた。菅義偉政権が米国の民主党政権とうまく付き合えるかが鍵だ」

「イエレン氏が財務長官就任の公聴会で、為替政策について聞かれ『強いドルは国益』と言わなかったとしたら、為替市場は大きく動揺するだろう」

(伊賀大記 編集:石田仁志)