3分で読める「ゾッとする話」消えたキヨミの謎
高木敦史の「ショートミステリー」(4)1話3分で読める、大人気のミステリーシリーズの最新刊『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー 闇の中の真実』より、5日連続で中身を公開します。
働き方革命
「私はAIです」。そんなことをとある政治家が発言してから数十年後、時代が変わった。AI──人工知能が普及した時代。人間の仕事はすべて超高性能AI『東海道』により割り振られる時代。
「どうしたの? 浮かない顔して。四月から新しい仕事になったんでしょ?」
ミホの質問に、キヨミはため息をついた。
「あんまり楽しくなくて」
AIに割り振られた仕事を拒否することはできない。計算によって最も適した仕事を与えられているからだ。そして、キヨミにこの四月から割り振られた仕事は「ひたすら数字を読み続けること」だった。
机に座り、パソコンの画面にランダムに表示される数字を口頭で読み上げる。1、156、3098、42──最初は楽だと思った。しかしすぐに飽きてきた。
1万2345、7億8万26、247──。いつまでやればいいのだろう。一生続くのか?
夜、辞書で数字の単位を調べてみた。万、億、兆、京くらいまでは知っていた。しかしその上には、垓、ジョ、穣、溝、澗、正、載、極、さらには恒河沙、阿僧祇、那由多、不可思議、無量大数──数字の数は果てしない。
誰かに相談しても、みんな「やるしかないでしょ」としか言わない。しかし、このまま永遠に数字を数え続けるだけなんて、あまりにも孤独だ。そして無意味だ。
キヨミが数字を読み上げることで誰かが助かるとか、それが世界のためになるとか、そういうことが一切ない。楽をして生きたいと思っていたキヨミだが、このままでは頭がどうにかなってしまう。人生には意味が必要だと痛感した。
5098万813、1兆98万53、5京987万8136……ああもう! 何ヶ月か過ぎた頃、キヨミは我慢できず、ついに叫んでしまった。
「もうやめる! だって数字を読むことにいったいなんの意味があるの? 教えてよ!」
それ以来、誰もキヨミを見た者はいない。