2021/2/12

【干場弓子】「ないない尽くし」だからオリジナリティが生まれた

ディスカヴァー・トゥエンティワン 共同創業者
取次を通さない「直取引」と独自の企画開発力で異彩を放つ出版社、ディスカヴァー・トゥエンティワン。創業社長として35年、成長を率いた干場弓子さんは、勝間和代さんなど時代を象徴するキーパーソンを発掘した功績でも知られる。

近年は、日本の出版コンテンツの世界展開にも尽力してきた。華やかで屈託のない笑顔の裏には、いくつものピンチを乗り越えた歴史がある。

社長を退任して1年。「楽しくなければ、仕事じゃない」と言い切る干場さんが指針にする哲学、そしてこれから描くセカンドキャリアとは。(全7回)
ディスカヴァー・トゥエンティワン 共同創業者、元社長、一般社団法人 日本書籍出版協会理事

愛知県立旭丘高等学校、お茶の水女子大学文教育学部卒業。世界文化社『家庭画報』編集部等を経て1985年、ディスカヴァー・トゥエンティワン設立に参画。以来、社長として経営全般に携わり、書店との直取引で業界随一の出版社に育て上げた。2011年には『超訳 ニーチェの言葉』が同社初の100万部を突破。自ら編集者としても勝間和代氏のほか、多くのビジネス系著者を発掘。グローバル展開にも積極的に取り組み、日本書籍出版協会国際委員会副委員長として、フランクフルト、ロンドンなどの国際ブックフェアへの出展を他の出版社にも働きかけ、世界の出版界における日本コンテンツのプレゼンスの向上に努める。著書『楽しくなければ仕事じゃない』

責任感に突き動かされて

私はいつも、人から頼まれて引き受けた仕事に対して燃えるタイプ。
何かを成し遂げたいという明確な熱望が内側から湧き上がるのではなく、「引き受けたからには、期待にしっかり応えて、最高の形を示したい」という責任感に突き動かされ、気づけば遠くまで来ていた。
そんな社長人生、編集者人生だったように思います。
1985年に創業したディスカヴァーの出発地点は、当時の自宅に近い骨董通りのマンションの一室、その後の原宿の片隅のアパート風木造2階建て一軒家でした。
それでも当時はバブルで地価が高騰していて、1坪当たりの賃料は平河町森タワーに構えた現在のオフィスよりもずっと高かったのです。
私を含めて5人で、企画、編集、営業、荷造り、発送、返品処理、何でも全員体制でやっていました。
1階のリビングキッチンは「倉庫」で、商品となる本を自分たちで管理して、注文をくださる書店さんに送っていました。
創業当初から、取次(出版社から書籍を仕入れて書店に卸す)を介さない「直取引」の営業スタイルをとっていたからです。

なぜ「直取引」にしたのか?

これまで何度も聞かれました。「なぜ直取引でいこうと決めたのですか?」と。あるいは、「すごいですね。大手の他社とは違う営業手法を選ぶとは」と褒めてくださる方もいました。