経済
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菅政権の成長戦略とワクチン普及で日経平均は3万円台を試す

野村証券 シニア・ストラテジスト / 伊藤 高志
週刊金融財政事情 2021年1月4日号

 日経平均株価は2020年12月9日、終値で2万6,817円94銭を記録し、実に29年ぶりの水準を回復した。29年前(1991年)と今の上場企業を比較してみると、この間に大きく利益シェアが上昇した業種は次の3類型に分けられる(図表)。 ①成長力+競争力のある企業…市場の成長力が高く、また企業も競争力の維持・向上に成功し、順当に利益を伸ばしたグループ。通信、自動車、ソフトウエアなどが該当する。 ②規制緩和・民営化の恩恵を受けた企業…91年は、中曽根政権が着手した規制緩和や民営化がほぼ実現した時期に当たる。通信や運輸では新規参入により競争は激化したが、企業努力により新たなサービスや需要の掘り起こしに成功した。 ③M&Aで成功した企業…91年当時、日本の産業界ではM&Aがためらわれる雰囲気があった。その後、企業経営に投下資本利益率(ROIC)や資本コストなどの概念が浸透、今では実物投資とM&Aとの垣根はほぼなくなった。商社や医薬・ヘルスケアなどの業種はM&Aを積極的に活用し成長スピードを上げている。

 逆にこの29年間で最も利益シェアを落としたのは、電機・精密だった。その理由は、第一に通信の民営化により通信各社のコスト意識が向上し、通信機器で莫大な利益を得ていた重電各社の収益が悪化したこと。第二に安価な人件費を背景に躍進する中国・韓国企業の後塵を拝する事態となったこと。第三に29年前には製品の中で一体化していたハードとソフトが分離し、付加価値の一部がソフトウエアなどの業種に流出したこと──が指摘できる。

 そのほか、利益シェアを落とした業種には、金融や建設、公益など規制・既得権益に守られてきたものの、規制緩和・競争原理の導入にうまく対応できなかった業種が目立つ。

 ただ、電機・精密の時価総額構成比は逆に増加している。事業ポートフォリオの再構築に重電各社が成功し、電子部品や半導体製造装置など世界に伍して戦える分野も育ってきたことを評価したものと考えられる。

 菅政権は、規制緩和や企業の競争力向上を重視した政策運営を表明している。企業の収益力向上のチャンスであり、その成否によっては、利益シェアが再び変動する可能性もあろう。

 21年は国内で新型コロナのワクチン接種がいよいよ開始される。日経平均株価が年内に3万円を試す可能性は十分にあるだろう。

きんざいOnline
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(提供:きんざいOnlineより)