菅義偉内閣が発足するやいなや、政府は「デジタル庁」の設立を発表し、国を挙げてIT活用を進める方針を打ち出している。その中でも、河野太郎行政改革相は「ハンコ文化」を見直す必要性を訴え、行政手続きにおける脱ハンコを精力的に推進している。しかし、現時点ではハンコが必要な行政手続きは多く残されている。
民間でも、不動産取引や住宅ローンの契約など、厳格な本人確認と印影の真正性が求められる場面では、相変わらず実印と印鑑証明が必須なのが現状だ。政府はこうした本人確認の仕組みをマイナンバーカードを使ったものに置き換えたいようだが、その普及率を考えると、早々に“脱ハンコ”が進むとは考えにくい。
一部でデジタル化が進みつつも、ハンコ文化が依然として残っている状況を踏まえ、Webマーケティング企業のCryptoPie(東京都渋谷区)と創業98年のハンコメーカー・松島清光堂(東京都千代田区)が手を組み、実際の印鑑とブロックチェーンを組み合わせた押印記録システム「Iohan」を開発した。
リアルなハンコによる押印情報をデジタル化し、実印・公印級の印鑑にも対応できるという、そのシステムはどんなものか。開発元であるCryptoPieのブロックチェーン事業部部長、峨家(がけ)望氏に詳しい仕組みを聞いた。
峨家氏によると、Iohanの仕組みはこうだ。まず既存の実印を、「印章デバイス」と呼ばれる専用のケースに格納する。次に、印章デバイスに付属するUSBケーブルをスマートフォンに接続する。さらに、スマートフォン上で専用アプリケーションを立ち上げる。この手順を経た上でハンコを押すと、印章デバイスに内蔵されているセンサーが各種データを取得し、スマートフォン経由でブロックチェーンに記録する。
取得・送信するデータは、押印者の情報、押印回数、押印時の時刻、位置情報だ。これにより、「いつ」「誰が」「どこで」「何回」実印を押印したのかという情報を、改ざん・削除が理論上不可能な形で記録できる。しかも、押印行為があった事実は、紙の印影とデジタルデータという2段構えで残り続ける。まさにリアルとデジタルが融合した“次世代ハンコ”というわけだ。
峨家氏は「既存の印鑑証明では、印影が持ち主によって残されたことを証明できますが、Iohanは押印という行為そのもののを印影にひもづけられます。これにより、印影が持ち主の意思で押印されたという事実を補強できます」と強調する。
スマートフォンアプリとの連携も、印鑑が持ち主のものであると証明するための工夫だ。峨家氏は「専用アプリを操作し、ブロックチェーンに情報を記録するためには、パスコード入力や生体認証などでスマートフォンの画面ロックを解除しなければなりません。(第三者による解除が難しいので)本人性を担保できます」という。
押印の記録をスマートフォンアプリで管理できるため、この仕組みを発展させれば、犯罪被害の防止などにも応用できるだろう。離れて暮らす家族などにIohanを使ってもらえば、家族が悪徳業者や詐欺師にだまされて契約書にハンコを押した際に、アプリの通知ですぐに気づいて通報できそうだ。
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