日常を「何言うてんねん」の笑いに 「Aマッソ」加納愛子が初エッセー集を語る
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ページの上を言葉たちが自由にはねる。お笑いコンビ「Aマッソ」の加納愛子が11月に出した初のエッセー集『イルカも泳ぐわい。』(筑摩書房)。日常のもっともらしい話は一転、妄想が音を立てて暴走し、気づけば「何言うてんねん」の笑いの渦に転げ落ちている。「エッセー本をあんま読んでこなかったので、ルール分からんまま、好きなことを好きなように書きました」と語る。
行き着く先は非日常
コンビのネタ作り担当。一癖も二癖もある言葉を繰り出し、どこかねじれた世界を生み出す。そのワードセンスには定評があり、2018年春から出版社のサイト「webちくま」で連載が始まった。「絶対に自分からエッセーを書くタイプではなかったので、アンテナ張ってないことをやらせてもらってうれしかった」。同時に、自分をさらけだすようで「最初は恥ずかしかった」と照れたように笑う。
本書はその連載に、書き下ろしを加えて再構成したもの。表紙は鮮やかな黄色。自分の出演したテレビは恥ずかしくて見られないというが、初めての自著は「モノとして本棚に並ぶのが新鮮」だった。
日常をつづるエッセーとはいえ、一編一編の行き着く先は多くが非日常だ。洗濯物がバンドに化けたり、謎の野球実況が始まったり。「はしゃぎすぎて、編集者に『どういう意味ですか』と言われ、お蔵入りになりかけたものもありました。ネタの脳の配分を大きくしすぎた感覚ですかね」。コントで考えていた設定を使い、短編小説にも挑戦した。「小説ってコントほど『オチ決まった!』とかいらんし、投げっぱなしやし……難しいです」と苦笑いする。
書名「イルカも泳ぐわい。」は1999年に解散したお笑いコンビ「高僧・野々村」の漫才の一言。脈絡無く発せられたこの言葉に「漫才の色気を感じた」という。「良い意味での抜け感というか、気持ちのいい距離感がある」。まさに「何言うてんねん」の境地だ。「マスメディアでは○○芸人みたいにキャッチコピーのつけやすいお笑いが好まれるけど、何言うてるか分からへん、まだ素材のままいるような何かにその芸人の根幹が集約されている気がする。そういう笑いが垣間見えると、お笑い好きで良かったって思える」
「女芸人」とジェンダー
読み進めると時折、芸人としての本音がちらりとのぞく。男社会のお笑い界で「女性」をネタにせず、独創的なボケとツッコミで勝負するAマッソのスタイルは「とがっている」「シュール」などと評されてきた。「女芸人」をめぐるジェンダーについてはこんなふうにつづる。
<コントで迷うことがある。医者を演じることはつまり、女医を演じることになっ…
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