二酸化炭素をジェット燃料に変換、新たな研究結果が示す「炭素循環型経済」の可能性

二酸化炭素をジェット燃料に変換する新たな手法を、このほど英国の研究チームが公表した。まだ量産に向けた課題はあるが、既存の手法より消費電力もコストも少なくて済むことが特徴という。量産が実現すれば「炭素循環型経済」の実現に向けた重要な技術になる可能性がありそうだ。
jet engine
KEHAN CHEN/GETTY IMAGES

航空業界はこの10年、空高く飛ぶジェット機が吐き出す二酸化炭素(CO2)を相殺するために、業界全体のカーボンフットプリントを世界的に減らす方法を模索してきた。植林プロジェクトや風力発電所など、いわゆるカーボンオフセットのプログラムの導入も、そのひとつだ。これと同時にサンフランシスコやシカゴ、ロサンジェルスの空港は、欧州にある十数カ所の空港とともに環境に優しい代替燃料へ切り替え、CO2削減目標の達成を支援してきた。

こうしたなか英国のオックスフォード大学の研究チームが、あらゆるガス燃焼エンジンから排出される温室効果ガスであるCO2をジェット燃料に変えられる可能性のある実験的プロセスを考案した。鉄をベースにした化学反応を利用するこのプロセスがうまく作用すれば、航空機からのCO2排出が「実質ゼロ」になるかもしれない。

12月22日付の学術誌『『Nature Communications』』に報告されたこの実験は、あくまで研究室で実施されたものであり、大規模なレヴェルでの再現が必要になる。だが、プロセスを設計・実行した化学エンジニアたちは、気候危機の問題を一変させる可能性があると期待している。

「気候変動は加速しており、大量のCO2が排出されています」と、今回の論文を執筆したシャオ・ティアンツン(肖天存)は言う。シャオはオックスフォード大学化学科のシニアリサーチフェローである。「炭化水素燃料のインフラはすでに実現しています。このプロセスによって気候変動の影響が軽減され、現在あるCO2インフラを持続可能な発展のために利用できるようになる可能性があります」

CO2を燃料に戻すプロセスを開発

石油や天然ガスなどの化石燃料を燃やすと、含有される炭化水素がCO2になり、水やエネルギーが生み出される。今回の実験はそのプロセスを逆転させ、「有機的燃焼法(organic combustion method:OCM)」という方法でCO2を燃料に戻す。

研究チームは、クエン酸と水素に熱(350℃)を加え、鉄・マンガン・カリウムでできた触媒をCO2に加えることで、ジェットエンジンで使える液体燃料を生み出すことに成功した。実験はステンレススティールの反応炉で実行されたが、生成された燃料は数グラムのみだった。

実験室において、CO2は小型の容器から取り出された。しかし、今回のコンセプトを現実世界に適用する場合、大量の温室効果ガスを工場もしくは空気中からじかに取り込み、それを環境から取り除くことになるだろう。CO2は温室効果ガスのなかで最も一般的なもので、工場やクルマのほか、森林火災や焼き畑農業の際に燃える木からも生み出される。

大気中からCO2を取り除けば、温暖化の抑制に効果があるだろう。しかし、世界のCO2排出はここ数十年間で増え続けており、このままいけば今世紀末には地球の温度が2℃上昇してしまう。

課題は大量生産

シャオと研究チームはまた、今回の新たな手法は水素と水を燃料に変える「水素化」と呼ばれる既存の方法よりコストが安くなると説明している。その主な理由は消費電力が少ないことだ。

シャオは製鉄所やセメント工場、石炭燃焼式の発電所の隣にジェット燃料プラントを設置し、余分なCO2を回収して燃料を製造することを想定している。大気からCO2を吸い取る「直接空気回収」と呼ばれる方法も使える可能性がある。利用できる触媒は地球上にふんだんにあり、また高付加価値の化学物質を合成するほかの方法よりも手間が少なくて済むと、シャオらは論文で説明している。


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実験に参加していない専門家のひとりは、今回のコンセプトが有望である可能性があると指摘する。だがそれは、研究チームが研究室でのごく少量のジェット燃料の生成から、試験プラントでの大量生産へと移行する方法を発見できればの話だ。

「ほかの方法とは明確に違いますし、実用性があるように見えます」と、デイトン大学で機械・化学エンジニアリングを研究する准教授のジョシュア・ヘインは言う。「大規模化は常に問題になります。そして大規模化した際には想定外の事態が新たに生じるものです。それでも長期的な解決策という観点では、炭素循環型経済は間違いなく未来の選択肢のひとつでしょう」

求められる持続可能な電力の使用

こうした炭素循環型経済(サーキュラー・カーボン・エコノミー)においてCO2は、廃棄物の発生源であると同時に、燃料源にもなるだろう。代替施設としてのジェット燃料プラントを、風力や太陽エネルギーから生み出されたグリーンな電力で稼働できるなら、より効率的にCO2を再利用できる。

オランダ企業のSkyNRGで未来の燃料部門のプロジェクトリードを務めるオスカル・メイジャリンクによると、ジェット燃料とCO2の発生源が、両方とも持続可能な方法で生み出されることになるという。SkyNRGは、多くの空港向けに持続可能な航空燃料を生産・売買している。

「持続可能な電力の使用が求められています」とメイジャリンクは言う。「製鉄所から排出されたCO2を使う場合、その製鉄所自体をカーボンニュートラルにするにはどうしたらいいのかという課題があります。理想的な解決策は、あらゆる産業の持続可能性を高め、それを利用して直接空気回収を実施することです」

従来のジェット燃料の代替手段として、現在さまざまな代替燃料の検証が進んでいる。オックスフォード大学の実験や、CO2ベースの新たなジェット燃料については、こうしたほかの多数の候補との競争になるだろう。それらの代替燃料は、都市のごみやわら、木質バイオマスなどの原料から製造される。廃棄された食用油も研究対象となっており、エネルギー大手のBPがその可能性を模索している。

「十分に実現可能」

オックスフォード大学のシャオは、それらの代替燃料と競合できるチャンスが、この新たなCO2燃料にあると考えている。シャオは2006年に、グリーンな燃料の企業としてOxford Catalysts(現在はVelocysに改名)を創業した。Velocysは、都市ごみを原料として使う英国の施設において、シェルやブリティッシュ・エアウェイズ向けの代替航空燃料を開発している。またミシシッピ州のプラントでは、古紙や木材からトラック用のディーゼル燃料を生成している。

今回の新たなCO2変換技術について、業界大手のパートナー数社と交渉中だとシャオは語る。「十分に実現可能なものです。しかし、プロセスを最適化して効率を改善する必要はあります」

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TEXT BY ERIC NIILER