ピコ太郎・こんまり両プロデューサーが語る「僕たちの挑戦と勝ち筋」

2020/12/29
世界190カ国で公開されているNetflixオリジナル番組『KonMari~人生がときめく片づけの魔法~』を支えるプロデューサー、そして「こんまり」こと近藤麻理恵の夫でもある川原卓⺒氏。
『PPAP』の動画再生回数がUltraやロングバージョンを含めると5億回を超え、YouTubeミュージックランキングで3週連続世界1位を獲得したピコ太郎のプロデューサーであり、自身もお笑い芸人として活躍する古坂大魔王氏。
日本人が世界でスーパースターになるー。
そんなサクセスストーリーを実現させた2人の敏腕プロデューサーは「戦略は後付け」「必死に走り続けただけ」と自身を振り返る。
日本を代表するプロデューサー2人の「必死に走り続ける」ための極意が紐解かれる。
本企画は、NewsPicks NewSchool、佐々木紀彦による「コンテンツプロデュース」一期生による実践企画です。
川原卓⺒ 1984年広島県生口島生まれ。人材コンサルティング会社を経て、2013 年から近藤麻理恵のマネジメントと「こんまりメソッド」の世界展開をプロ デュースする。2019 年に公開されたNetflixオリジナルTVシリーズ“Tidying Up with Marie Kondo” のエグゼクティブプロデューサー。同番組はエミー賞2部門ノミネート。世界で最も見られたノンフィクション番組に選ばれる。
古坂大魔王 1973年⻘森県⻘森市生まれ。お笑い芸人・プロデューサー。1992 年からお笑いユニット“底ぬけAIR-LINE”のメンバーとして活動し、バラエティ番組『ボキャブラ天国』などで人気を博す。ピコ太郎プロデューサーとしてだけでなく、文科省や総務省をはじめ5つの省庁でアンバサダーを務めるなど幅広く活躍中。

ピコ太郎は「音楽的なお笑い」

川原 ただのピコ太郎ファンとして聞いてみたかったのですが、ピコ太郎のプロデュースは最初からピンと来てやったのですか。
古坂 僕はキャリア30 年目ですが、毎ギャグ、毎コント、毎ライブ、毎曲、全部当たると思っています。結果的に当たったものは 1%も無いのですが、毎回「イケる」と。
だから「ピンと来ていたか?」という質問に答えるなら、毎回ピンと来ています。
ただ、ピコ太郎は明らかに違う感触がありました。僕のライブにゲストで来てもらった時のウケ方が明らかに違った。
彼は「音楽的なお笑い」。
ピコ太郎以前も、音楽の要素を取り入れたお笑いはありましたが、あくまで音楽要素が入っているだけで、母体は「お笑い」。
彼は、母体が「音楽」。お笑いの要素を音楽に取り入れた「音楽的なお笑い」だったのが大きな違いです。ライブでは、ミュージシャンからの反応の方が良かった。
川原 僕もお笑い好きですが、「お笑い」は文化的な背景、生活みたいな文脈があって醸成されるもの。だから国境を越えるのは難しいと感じています。
その点、音楽だと感覚的に好きか嫌いか、ときめくかどうかなので国境を越えやすいですよね。
古坂 川原さんは、音楽やお笑いではなく文化をプロデュースしていて、そこがすごい。「片づけ」なんて欧米の人は自分でやらないじゃないですか。
川原 やらないですよね。アメリカって普通に家が広いし、学校で片づけも掃除もしない。 自分で片づける文化がありません。
だから、こんなに広がるなんて思っていませんでした。

ときめいたアメリカ一号社員

川原 縁があって、2014 年にアメリカで英語版の「人生がときめく片づけの魔法」を出版しました。その時も「出版してもらえるなら、ありがたいね」程度の感覚。
けれど、実際に現地に足を運んでみたら、本を読んで実際にやってみた人の感動が日本の感動と一緒だった。「人生が変わる」「自分が、何がときめくのか分かる」 と。
そんな中、30人も入れないような小さな本屋さんのイベントで講演する機会があり、その時の反応が想像以上で。
「これ、みんなすごく喜んでくれるな」と感じて。僕は鳥肌で判断するのですが、 ぞわぞわした。
これが「アメリカでもイケる」と感じた瞬間です。この感覚は、古坂さんがピコ太郎に出会った時の感触に近いかも。
少し話はそれるかも知れませんが、アメリカで最初にイベントを開催した書店で話を聞いてくれた女の子がうちのアメリカの一号社員になりました。
講演後にサイン会の列に並んでくれて、「会社の休憩時間にここに来ているけれど、すごく感動したから今から会社辞めてくる。一緒に働きたい」と言われました。
「絶対、会社辞めちゃダメだ」とさすがに断りましたよ。「そんな衝動的に辞めちゃダメだ。ときめいても」と。
その後、「一回日本まで行くから話を聞いて欲しい」とお母さんと日本まで来てくれて、結局アメリカの一号社員に。

日本の勝ち筋は「道」

古坂 幼稚な質問かも知れませんが、「アジア人がアメリカでビジネスする場合には、ハードルが何個もある」と聞いたのですが、それは本当ですか。
川原 ここだけのぶっちゃけ話ですが、「アジア」という括りより、「日本にはある」と感じています。
中国、韓国の人は20 年前、30年前からアメリカにいて、現地で生まれ育っている人たちもいる。むしろ、サンフランシスコ、ロサンゼルスだと街中で出会う人は中国の人の方が多かったりする。
写真:vipman4/stock.adobe
日本人は、アメリカに駐在員として行くので、みんな帰ってしまう。そうなると存在感は相対的に低くなります。
古坂 そういうことか。
川原 アメリカから日本を市場として見ると、人口が減っているし、クオリティーに対して口うるさい国になってしまっている印象を持たれています。
扱いにくい顧客になっている。
そうなると、日本とビジネスをするメリットが相対的に薄い。だから難しい。
古坂 面白いね。
川原 これは、ここでしか言っていませんがあると思います。けれど僕は、そこに日本の勝ち筋もあると思っています。
クオリティーに対するこだわりは、言いかえると「道」を作りやすい精神性、国⺠性に繋がります。
「知っていることが偉い」「熟達することが強い」という「道」の精神。日本は「道」を作りやすい国⺠性がある。
写真:vipman4/stock.adobe
華道でも、本来なんでもなかったことなのに、細分化したり、ルールにしたり、上下を作ってマスターを作ったり、多分これがお笑いの世界でも起きたのではないでしょうか。
これが日本では閉塞感に繋がっているけれど、海外では「道を作れる能力」が競争力になります。
古坂 面白い。
川原 海外には「道」がありません。オープンだし、自由だし、挑戦者を受け入れてきているけれど、逆に何かについて、細分化したルールに従い、確実に一個一個身に付ける「道」がない。そこへの欲求が高まっています。
「片づけ」も「片づけ道」「生き方道」みたいな捉え方を海外ではされていて、みんな「片づけ」を「マスターしていくこと」をしたい。人として、生き方をより高めたい。そんな需要があって受け入れられた。
日本人が「道」の精神を海外に持っていくのは、勝ち筋の一つだとプロデューサーとして思っています。
古坂 日本の中では閉塞感を感じる「道」が、海外では新鮮なのですね。面白い。

「来たからジャンプ」を繰り返しているだけ

古坂 「明確な戦略や転機があった」というより、「やってみたらなんとなく売れちゃった」感じですか。売れちゃったから、次々と目の前に来るものをこなしていった。
川原 そうそう。
古坂 これ、僕も同じです。当事者には客観的に自分の状況が見えていないので、ただひたすら目の前に来る敵を叩いていくだけ。 昔、ファミリーコンピューターにハイパーオリンピックというゲームがありまし た。ボタンを連打して選手を走らせ、ハードルが近づいたらもう一つのボタンでジャンプをするだけのゲーム。
写真:Shariff Che'Lah/stock.adobe
まさにそんな感じで、「来たからジャンプ」を繰り返しているだけ。 ピコ太郎の場合、ジャスティン・ビーバーが「ヒットした転機」みたいに言われますが、その前にも、9GAG(エンターテインメント系ポータルサイト)で 4000 万回再生されていた。
ジャンプしていたら、たまたまジャスティン・ビーバーというハードルが来ちゃって、飛び越えて後ろを見たら「えー、今のジャスティン・ビーバー?」みたいな感覚。
でも、次のハードルが来てしまうから、またすぐジャンプしないといけない。今もその最中なのです。
川原 分かります。
古坂 川原さんも、いろいろなインタビューに答えているので、そこを濃縮して「転機はこれです」と答えてしまっているのではないでしょうか。正直なところ、「転機なんて分からない」と僕は思っています。「とりあえず、走ってみた」が正直な実感。
川原  スーパーリアルな言葉ですね。
走っていると、次々とすごいことが勝手に起こる。しかも毎回「ビビる量」が増える。
古坂 「ビビる量」が増えますよね。
川原 「試されているな」と。「どこで止めるか試されているけれど、もう勢いがついているし、期待されているし、行ってしまえ」みたいな感覚。
この「行けるところまで行ってみよう」のマインドセットで、日々生き抜くのがプロデュースの本質。
「こういう戦略でやっています」と格好良くも言えるのですが、実際は「足を止めない」「生き抜いている」「起こった出来事に最善を尽くして毎日生きている」が、 やっている人の本音ではないでしょうか。

トランポリンを必死に跳んでいる

川原 いろいろ話してきましたが、全部後付け論かも知れません。必死にやっていたらこうなっただけかも。
古坂 まさにその言葉だと思います。戦略は根底には考えているはず。考えてはいるけれど、やっている最中は思ってもいない。
「ジャスティン・ビーバーがなかったとして成功はありますか」と聞かれることもありますが、「分からない」としか言えない。
ただ大事なのは、やはり目の前の事を必死に処理することですよね。 けれど、これが難しい。途中で止めたくなりませんか。
川原 やっていると、いろいろなことを言われます。止めるべき理由は、いくらでもある。「疲れた」もそうだし。
古坂 いろいろ文句言われますよね。日本語だけしか読めなくて良かった。PPAPもいまだ にBadの評価がすごい。
Badは「ハーフGood」とみなしています。Bad2個で Good だと思い込むようにしています。
川原 良いですね。ハーフGood。
古坂 「必死にやっている」と言うと、泥水の中でもがいているように見えるかも知れない。イメージとしては、トランポリンを跳んでいる方が合っています。
トランポリンは跳んでいると、毎回楽しい。
一歩間違うと怪我をするし、身体も疲れる。でも、高く跳んだ瞬間はとても気持ち良い。
楽しいことを必死でやっている。「辛い」と思うことは、成功に繋がりません。だから楽しいことに「ワクワクする才能」を付けた方が良い。
毎ギャグ、毎コント、毎ライブ、毎曲、「これ、売れるぞ」「これ、ヤバイぞ」とワクワクしながらやっています。
川原 面白がる筋力ですよね。自分に起こっていることを「ヤバい。ウケる」と面白がれるかどうか。
面白がり続けるには、一人で良いので、近くで「最高だ」と言ってくれる人の存在が重要です。
僕は、これがたまたま妻である麻理恵さんとの出会いでした。お互いに、そういう関係性なのです。だから彼女がいなかったら、多分どこかでポキって折れていたかも。
古坂 僕の場合、⻘森の3歳からの幼なじみです。ずっと一緒にやっているマネジャーなのですが、本当に一番笑ってくれる。
川原  そういう人の存在ですよね。
古坂 後は、ファン。根底で、ファンに対して「味方でいてね」と。「この人たちが笑っていれば良いや」みたいな。そういう人たちに支えられながら、必死に面白いと思うことをやってきた。これが僕たちのしてきたことかも知れません。
(聞き手:渡邉健人、執筆:関戸大、デザイン:田中貴美恵)
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