2020/12/23

タクシーも自治体も味方。NY発「ライドシェアのOEM」のVia

モビリティライター
縁の下の力持ち──。
そんな日本のことわざがしっくりくるのが、今回、ご紹介する「Via Transportation」というニューヨーク発のモビリティ・スタートアップである。
スタートアップ企業といえば、GoogleやAmazonのようなB2Cの華やかな雰囲気をイメージするが、Viaには華やかさはない。というのも、主にB2BやB2Gで配車システムを提供する実直なサービスだ。
簡単にいえば、ライドシェア(相乗り)に特化したオンデマンド型のライドサービスだ。既存の交通事業者や自治体向けに最適化されたアルゴリズムを提供する、というのがViaの事業モデルだ。
既存のタクシー事業者や公共交通がライバルではなく、むしろ、顧客という点が、「Uber」や「Lyft」といった配車サービスとは似て非なるものだ。

森ビルと六本木ヒルズでも実証実験

2020年1月時点でニューヨークをはじめとした22カ国100都市以上で導入されており、日本でも2018年にVia Mobility Japanが立ち上がっている。森ビル社員を対象にした実証試験「HillsVia」を実施していた。
具体的には、ユーザーが配車を依頼すると、同じ方向に向かうユーザーを拾いながら目的地を目指す仕組みだ。
事業者によってユーザーのITリテラシーが異なることもあって、スマホのアプリはもちろん、ウェブや電話でも配車に対応しているのがユニークなところだ。
今年に入って、Viaジャパンは、日の丸リムジンや、長野県・茅野市とパートナーシップを締結している。
前者は、配車ルートの設計やドライバー向けスマホアプリの提供に加えて、効率化へのアドバイスも行う。後者は、オンデマンド相乗りタクシーサービスを実施することで、公共交通の空白地帯を解消する取り組みだ。これは、日本政府が推進するスーパーシティ構想の採択に向けての動きでもある。

運営はせずテクノロジーだけを提供

Viaが2012年に創業した当初は、B2Cのライドシェア・サービスを提供していたが、スタートアップ企業の定石として、B2B/B2G向けサービスに特化する“ピポット”を行った。
個人の移動をプランニングするサービスから、乗り合いに特化したライドシェア・サービスを民間企業、地方都市や大都市を含めた自治体、大学などに向けて提供することに切り替えた。
その結果、公共性の高いモビリティ・サービスの提供がViaのビジネスモデルとなった。つまり、Viaは顧客となる自治体や企業にアルゴリズムを始めとするテクノロジーを提供するだけで、サービスの運営自体はパートナーが実施するのだ。

公共交通と個人移動の中間サービス

もう1つ、UberやLyftとの違いは、移動プランナーとしての目的だ。
B2Cであれば、価格と移動時間がサービスを選ぶ際の重要な要素になる。しかし、B2B/B2Gとなると、がぜん、CO2排出量を始めとする地球環境問題への対応が重視される。
特に、既存の鉄道やバスやタクシーなどの交通事業者にとって、IT投資がなかなか進まないのも大きな課題だ。
Viaでは、ゼロから交通サービスを立ち上げたいという顧客はもちろん、既存の事業者が現在すでに所有する交通サービスの最適化もサポートしている。
例えば、交通事業者が鉄道やバスなどの公共交通と個人の移動であるタクシーといったサービスを事業として所有している場合、Viaのシステムを使って、その間にある「公共性の高い乗り合いサービス」という新しいモビリティサービスを構築することもできる。

子どもの送迎サービスのアルゴリズムも

日本人にとって珍しいサービスとしては、子どもたちのための送迎サービスのアルゴリズムの提供だ。
アメリカでは法律で15歳までの子どもを1人にすることが禁じられている。それもあって、大人が学校やスポーツのクラブ活動の送り迎えをする必要がある。Viaでは保護者に代わって、乗り合いの送迎サービスを行うアルゴリズムも提供している。
単に移動を効率化するだけではなく、子どもたちの健康状態や相性なども分析して、より最適なルート設計を行っているという。

ブランドを出さない「OEM」モデル

Viaのサービスは現在までに、20カ国、100以上のパートナー企業に提供しているのだが、それほどこの会社の知名度が高くないのには理由がある。いわゆる“Viaブランド”を掲げず、パートナー企業の社名でモビリティ・サービスやアプリの名前を付けているからだ。
いわゆるホワイトレーベルであり、OEM(Original Equipment Manufacturing)だ。Viaはあくまで相乗りサービスに特化したシステムを供給するプラットフォーマーであり、冒頭で触れた通り、縁の下の力持ちであり、黒子に徹するスタートアップといえる。
それこそが、ViaがUberやLyftといったライドシェアのスタートアップと違うユニークな点だ。Viaにとって従来の交通事業者は、競うべきライバルではなく、手を結ぶべきパートナーなのだ。
※本連載は今回が最終回です