2020/12/23

【革新】オリンピックだけに頼らない、新アスリート論

 アマチュアスポーツの雄が、ついにプロ化に踏み出した。
 2012年のロンドン五輪で視聴率者数ナンバーワン、2015年世界選手権の視聴数は6.8億人。
 競泳のデータだ。
 ただ、競技人口が多く五輪の花形種目と言える人気の一方で、マネタイズできていない側面があるのも競泳の特徴だった。
 声を挙げたのが、ハンガリーの競泳選手カティンカ・ホッスー。
 子供たちが競泳選手を続けない理由は、「世界トップ5に入らないと、収益より投資額の方が大きくなるから」と訴え、「私たちのリーダーが「競泳はアマチュアスポーツだ」と考えているから、私たちはアマチュアの扱いを受けている」と、アマチュアから脱却できない理由は国際水泳連盟(以下、FINA)にあると批判。
「今こそ私たちスイマーが私たちのスポーツの未来について行動を起こす時だ」と、同年7月4日には世界プロスイマー協会と称する選手会を発足させた。
 これに賛同した水泳を愛するウクライナの大富豪コンスタンティン・グリゴリシンが、FINAから完全に独立した、国際水泳リーグ(以下、ISL)を設立。
 このISLが、水泳界を大きく変えようとしているのだ。
 今季から東京代表のISLチーム・東京フロッグキングスが誕生。アメリカ、ロシア、日本など競泳強豪国の五輪メダリストが複数所属するドリームチームだ。
 今回は水泳界が抱える課題、ISLが描く未来を聞くため、同クラブのゼネラルマネージャー(以下、GM)を務める北島康介氏にインタビューを実施した。
北島康介(きたじま・こうすけ)
「TOKYO FROG KINGS」ゼネラルマネージャー
04年アテネ五輪、08年北京五輪の100m・200m平泳ぎで金メダルを獲得し、オリンピック史上初の平泳ぎ2大会連続2種目制覇を達成。現役引退後はアスリートのマネジメントや代理人、スイミングスクールなどを営む「IMPRINT」の代表取締役社長、東京都水泳協会会長を務めるなど、活動は多岐にわたる。

胸打たれ参戦「水泳界を変えたかった」

──ISLに北島さん率いる東京チームが参戦しました。結果は惜しくも準決勝敗退となりましたが、初の大会を終えて、率直な感想を教えてください。
北島康介(以下、北島) 結果については満足していませんが、個人的にはやり切った感覚が強いです。
 1年前に東京フロッグキングスのGMに就任した当初は、東京五輪の熱狂をそのまま持ち込むプランでした。それが五輪延期で大幅に変更になったんです。
 ビジネスサイドでは一から盛り上げる仕組みを考えて、チームづくりはゼロベース、むしろコロナ禍を考えるとマイナスベースから始まりました。
 僕自身、やるからには当然、強いチームを作りたいという思いがあったんです。なので有力選手たちとZoomで話したり、直接会いに行けるところはタイミングをみて会いに行きました。
 ただ、コロナ禍で海外渡航が難しくなったので、選手だけじゃなくて選手の所属先の企業に納得してもらわないといけなかった。正直しんどいことも多かったです。
 そんな中、チームは充実した戦力を揃えることができて、こういった社会の状況下でも1カ月間無事に大会を戦えたことは大きな意義があると思っています。
──大会はチームがある各都市でのホームアンドアウェー形式で行われる予定でしたが、今回はバブル(隔離空間)を作っての集中開催でした。
北島 バブル形式は非常にポジティブな発見がありました。4週間の隔離プログラムをやることによって、商業面ではコストを削減できたし、マーケティングの観点からはより集中的に発信できた。
 選手にとっても、トレーニングができて毎週試合もできるバブル形式は、メリットが大きかったと思います。
 当初はF1レースのように、いろんな国を回りながらリーグ戦を行なう予定でしたが、おそらく来シーズンも同じような形で開催すると思います。来年の東京オリンピックへのモデルケースになり得ると感じています
──ISLの情報で一番に目に入ってくるのが、605万ドル(約6億6550万円)の賞金総額です。これをウクライナの大富豪が私財で賄っている、というのは驚きです。
北島 そうですよね。ISLの創設者であり投資家のコンスタンティン・グリゴリシンという人物がいて、初めて会ったのは1年前。いきなり日本にやってきて、「チームを作ってほしい」と僕をスカウトしてきたんです。
 そこで彼の熱に胸を打たれました。彼はすごく熱意があって、ただ投資するだけではなく、ISL期間中は自ら選手一人ひとりとも対話するような人物です。
 彼のためだったら、自分の身を削ってでもこのリーグに貢献したいと思えた。そして、何より水泳界を変えたかったんです。
 ISLで結果を残せば、競技力がお金に変わって、選手として食べていける。これが本当に重要だと考えています。