2020/12/28

【Instagram】商品が顧客を見つける、発見型コマースとは何か

NewsPicks BrandDesign Editor
Withコロナの時代となり、消費活動のオンラインシフトが加速。非接触型の購入体験が当たり前となった今、ソーシャル上での出会いの重要性がますます増している。一方で消費者がスマホの画面から受け取る情報量は加速度的に増え、どのように自社の商品が「ほしい」人との出会いを作り出すか、最終的な購買のスイッチをどう押すのかはマーケターにとっての悩みのタネだろう。

Facebook社が提唱する「発見型コマース」では、世界32億人のビッグデータをもとに需要の表出から先回りし、消費者の真のニーズにアプローチ。発見から意欲、購買までの行動をシームレスに引き起こすことを可能にした。

多くの人がSNSでものを買う時代に沿った、商品と消費者の新しい出会いの生み出し方とは。Facebookコマース事業部にて、インダストリーマネージャを務める丸山祐子氏とともに、Instagramを使った発見型コマースの成功事例を見ながら、効果的な最新のSNSマーケティングを考える。

拡大するInstagramコミュニティ

──Facebook社のサービス、とくにInstagramの最新動向について教えてください。
丸山 Facebook社全体の話から入りますと、2020年9月時点で、Facebook、Instagram、WhatsApp、 Messengerをすべて合わせた月間アクティブ利用者数は32億1000万人。前年比14%増の拡大を続けています。
 そのうちInstagramの月間アクティブカウント数は、グローバルで10億以上。日本国内では2019年3月時点で3300万に到達し、それ以降の数値は非公表ですが順調に伸長しています。
──コロナ禍によって、SNSの利用時間も増加していそうですね。
 個別サービスの利用時間は公表していませんが、外出自粛やソーシャルディスタンスを余儀なくされたことで、離れていても人と人をつなげる弊社ファミリーアプリの役割が拡大したと感じています。
 たとえば、Instagramライブの利用について、2020年3月のある週の数値を見ると、前週と比較して全世界で50%も利用が伸びていました。
──コロナ禍で、多くの方がSNSでのつながりを求めたのですね。グローバルと比較したときに、日本国内でのInstagramの使われ方に特徴はありますか。
 「インスタ映え」という言葉から、食や人物、景色などの映え写真を発信し合う“若者×女性向けメディア”というイメージを持っている方もまだまだ多いかもしれません。
 しかし、国内利用者の内訳は「女性57:男性43」と男女差はほとんどありません。
 男性からも、車や時計の商品情報、スポーツのハイライト動画、マンガやアート作品鑑賞など、さまざまな分野の情報収集に活用されており、世代も若年層に限らず幅広い層へと拡がっています。

Instagramで「好き」を見つける

 なかでも日本は、Instagramのコマース機能が盛んに活用されている国の一つです。
 調査によると、利用者の8割が新しい商品やサービスの購入検討にInstagramを使っており、内部データを見ても90%以上の方がなんらかの商品やサービス、店舗、企業のビジネスアカウントをフォローしています。
 好きな商品やビジネスを見つけるためのプラットフォームとして、Instagramを活用いただいているのだと思います。
 他国と比較しても、日本の利用者はInstagramの使い方がユニークで、機能開発にあたって学ぶところが多いという認識はFacebook社内でも拡がっています。
 また、Instagramでショッピングを楽しみたいというニーズの高まりは、数字にも明確に出ています。
 利用者がショッピングタグのついている投稿などから商品詳細を見る割合が、日本では他国平均の3倍。
 さらにコロナの影響も受けてか、その数値が2020年には前年対比で65%増加しています。

コロナ禍で買い物のオンラインシフトが加速

──2020年には、6月にFacebookとInstagramに単一のオンラインショップを無料で開設することができる新しい機能「Facebookショップ」、7月には利用者ごとにパーソナライズした商品やブランドを表示する「Instagramショップ」機能がスタートしました。SNS上で買い物ができる世界を進化させている理由は何ですか。
 社会の変化の流れにInstagramの強みを掛け合わせて、企業のデジタル化をサポートしていきたいと考えています。
 2020年はコロナの影響で、ビジネスのEC化、デジタル化ニーズが一気に高まりました。
 アメリカでは小売業におけるEC比率が、2019年は16%だったところから、2020年の3~4月で27%まで急伸。2009年に5.6%だった点を見れば、たった2カ月で過去10年に匹敵するデジタル化が進んだということになります。
 日本でも、緊急事態宣言下の4月中旬には、従来実店舗で購入していたものをオンラインで購入した方が1.6倍になりました。
 先の調査にもあったとおり、もともと利用者にとってInstagramが “ほしいものを発見する & 探す”プラットフォームだったところに、実店舗に訪れにくいという要因が加わり、SNSでレビューやオススメを見る人が非常に多くなったのだと思います。
 オフラインの行動が制限された分、オンラインショッピングへの抵抗が大きく下がりましたが、今後、この流れが後戻りすることはないでしょう。
 変化する購買ニーズのサポートは、Instagramの強みを存分に生かせるフィールドだと捉えています。

発見型コマースで実現する、リアル店舗のような「商品との出会い」

──コロナによって、オンラインで「足りないものを買う」体験は必然的に増えた一方で、ウィンドウショッピングをするような漠然とした「買い物をしたい」ニーズが満たされない感覚が続いています。Instagramが、その突破口になってくれそうです。
 まさにそれが、我々の「発見型コマース」の考え方です。
 ECサイトでの買い物は検索によって最短時間で目的にたどり着ける、「買いたいものがすでに決まっている」人にとってはとても便利です。
 一方、Instagramは、そこにいることでほしいものが見つかる、商品やサービス情報との出会いを生み出すプラットフォームとして成長してきました。
 商品側が顧客を“発見する”わけです。
 もともと、Instagramの利用者は好きなものに関する情報を得たいというマインドセットでいるので、「フィードに流れてきたから購入した」というアクションも起こりやすいと考えています。
これまでのテレビ世代の購買過程は、テレビCMによる商品の認知から始まり、興味喚起、商品の検討、購買という流れを辿っていました。
 Instagramでは、商品を認知したと同時に「これがほしい」という興味が生まれ自分ごと化される。
 商品の発見を促すだけでなく、プラットフォーム上で商品の詳細を検索したり、ブランドのプロフィールページや他の方のコメントを見たりするなどの比較検討も行われ、従来のファネル(商品の購買行動をフェーズ分け、モデル化したもの)は、短期間にぎゅっと凝縮されます。
──商品やサービス側から顧客を見つけるという発見型コマースでは、世界32億人という膨大なビッグデータを持つFacebook社ならではの強みが発揮されますね。
 そうですね。Instagramでも、利用者の皆様がどんな広告やコンテンツに対してどれくらい興味を示しているのか、あらゆるアクションデータを活用し、一人ひとりに細分化したコンテンツが表示される仕組みになっています。
 どんな利用者にどの情報を伝えたいかという企業が自社で所有するデータと、Instagramが持つ行動データ。その掛け合わせにより、「自分がほしいものに出合える」最適な発見型コマースの実現を目指しています。

ショップ機能の充実で、よりリッチな世界観の発信が可能に

──ECプラットフォームが多数ある中で、企業側がInstagramを通じて発信するメリットはどこにありますか。
 利用者とコミュニケーションをとりながら、日常的に商品ブランドやサービスの世界観、魅力を発信できるのは大きなメリットだと思います。
 リアル店舗の魅力は、商品を手に取り、店員さんと話ができるところにあります。でもいまや、それをオンラインでできる時代になりました。
 たとえば、ファッションブランドが新商品発売に合わせてライブ配信を行う場合、身長や体格の異なる人が同じブランドの服を着比べたり、利用者からの質問に応じて着こなしを変えてみたり。
 事前にストーリーズのアンケートスタンプを使って「ライブ配信で聞きたいこと」を募集し配信時に答えるなど、インタラクティブな試みも盛んです。
──活用のポイントは、普段から利用者の方とコミュニケーションをとるインタラクティブな状態を保ち続けるところにありますか。
 コミュニケーションももちろん大切ですし、Instagramページではブランドの世界観をしっかり伝えていただくことが重要だと思います。
 2020年7月にローンチしたショップ機能によって、FacebookとInstagramのそれぞれのショップ機能が一つのUIになりました。
 ショップを管理されているブランドの皆様には一元管理でご利用いただきやすく、またご利用いただいている皆様にも、いずれのプラットフォームでもどこのブランドかがわかりやすく進化しています。
 ショップ機能で加わった大きな変化は、「コレクション」です。一つのブランド内に複数のラインがある場合や新商品をまとめて見せたいとき、それらをカテゴリー別に表示させることができます。
 利用者にとっては、自分に当てはまるカテゴリーの商品だけ見に行けるようになり、企業側も多面的なブランドの世界観をストックし、表現できるようになりました。

世界観の発信と相互コミュニケーションが成功のカギ

──Instagramで買い物をすることが当たり前の社会がすぐ近くまで来ていますね。企業側としては、いかにこれらの機能を使いこなせるかが、新たなマーケティングのミッションとなりそうです。発見型コマースの考え方を、うまく購買につなげている事例はありますか。
 たとえば、日本の美容家電ブランドのSALONIAさんは、グローバルのベストプラクティスを国内でいち早く取り入れていらっしゃいます。
 SALONIAさんのInstagram上のショップは、世界観や利用シーンなど、ブランドイメージを伝えるビジュアル写真と、商品紹介ページの商品フォーカス写真との使い分けがとてもわかりやすい。
 ヘアレングスによってカテゴリー分けがされているなど、利用者が自分にとって必要な情報をキャッチしやすい導線が、きちんと設計されています。
 グローバルでは、アメリカのインフルエンサー、ニキータ・ドラゴンさんが立ち上げたブランド「ドラゴンビューティー」のコミュニケーション事例が顕著です。
 新商品のローンチに向けて、ニキータさん自身のファンと化粧品ファンの両者にリーチするよう、本人のアカウントとブランドアカウントの双方で告知。
 発売当日にはライブ配信で、写真では伝わり切らない商品の魅力をPRされ、結果、ライブ配信の視聴者数は4万3000、商品詳細ページのインプレッションも3万3000まで伸ばしています。
 この事例で学ぶべきところは、発売当日に盛り上がりの山が来るように情報発信を設計されている点です。
 1週間前、3日前、いよいよ明日……というように、定期的なポストで利用者のエンゲージメントを高めていった良い事例だと思います。
 SNSでは、先行優位性が高い企業様が存在感を示している面があります。
 ライブ配信をやるとどういう反応があるのか、パフォーマンスを最大化するためにはどんなやり方が効果的なのか。まずは試していただきながら、自社にとって最適な解を見つけてほしいと思います。

よりシームレスな購買体験の実現に向けて

──発見型コマースの進化で、Facebook社が目指す世界観、ビジョンとは何ですか。
 弊社はこれまでも、InstagramやFacebookなど弊社のファミリーアプリを通じて利用者がビジネスや商品とつながる場を提供してきましたが、今後はさらに、物を購入するという作業ではなく、ショッピングの楽しさを体験できる場を提供したいと考えています。
 その一環として、現在アメリカでは、購買意欲が固まったらカートに入れて直接決済手続きに進めるチェックアウトという機能もテスト中です。
 興味を持ったり、ほしいと思ったりした商品の購入までの導線がよりシンプルになり、ライブ配信によるショッピング体験から購入までがよりシームレスになっていくでしょう。
 チェックアウトなどの一部機能については日本での導入は未定ですが、現在でも利用可能なライブ機能や、インタラクションが可能なアンケートスタンプなどの機能をご利用いただくことで、今後のさらなるコマース機能の拡充に備えていただければと思います。
 今後も開発を重ね、ビジネスにとっても、消費者にとってもメリットのあるプラットフォームへと進化させていきますので、ぜひご期待ください。