2020/12/24

【塩崎悠輝】イスラーム移民問題に終わりが見えない構造的理由

静岡県立大学国際関係学部 准教授
今年10月、フランスでイスラーム教の預言者ムハンマドの風刺画を授業で見せた教師が殺害される事件が起こった。フランス政府はイスラーム過激派の取り締まりを強化するなど、イスラーム系移民と現地住民との軋轢(あつれき)が社会問題化している。

欧州をはじめ、世界の最重要課題でありながら、解決の糸口すら見つけられないイスラームと移民、入国先との関係。イスラーム移民が全世界に広まった歴史を振り返りつつ、静岡県立大学国際関係学部で准教授を務める塩崎悠輝氏が、将来の見通しを解説した。
3つのポイント
①欧州のみならず、世界各地で移民・難民は生まれ続けている
②内戦を繰り返してきたイスラームに、確固とした統一機構は存在しない
③決定的な対策がないままに問題が大きくなり、移民・難民も増え続ける見込み

移民の社会統合は失敗したのか

ヨーロッパ諸国には「イスラーム移民特殊論」というのがあります。
イスラーム移民というのは、何世代もヨーロッパに住んでいても、ヨーロッパ社会に同化しない、自分たちの共同体と価値観を維持し、ヨーロッパの多数派の価値観を受け入れない、だから特殊である、という主張です。
日本のメディアでこの問題が出てくる時は、テロであるとか、イスラーム国関連の事件として出てくる場合が多いでしょう。
例えば、フランスで『シャルリー・エブド』という風刺新聞が預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことに反発したアルジェリア系フランス人の兄弟が2015年にこの新聞社の社員など12人を射殺した事件です。
もっとも、西ヨーロッパの人々にとっては、「イスラーム移民特殊論」は、時々メディアに出てくる事件である以上に、日常の問題です。
職場では、宗教の違いが問題になることは比較的少ないといわれますが、住居が隣接していて、居住空間が近いとトラブルが増えます。これは、都市部近郊の集合住宅が多い地域で顕著です。
最も問題が意識されるのは、学校でしょう。これは、学校、特に公立学校というのが、異なる社会的背景を持つ子供たちを同じ国民として育成する機能を持つからでしょう。
「学校で子供がLGBTを肯定するように教えられた、とイスラーム移民の親たちが抗議に押し寄せた」というようなことは、ニュースにもならないくらい頻繁に起きています。
この「イスラーム移民特殊論」は、特にフランスで根強いです。
フランスには、国民の統合のために、共通の言語と価値を持つ国民の創出を進めてきた歴史があります。また、キリスト教会と対立して、宗教の政府への介入を排除しようとしてきた歴史もあります。
(写真:anouchka/ iStock)
イスラーム移民を社会に統合する、というのは、50年以上かけて西ヨーロッパの国々が莫大な予算をかけて進めてきた国家的プロジェクトです。
フランス、英国、ドイツ、オランダ、ベルギーといった国々は、労働力として必要な移民を導入する、というだけではなく、学校教育、社会保障、地域開発、広報・文化活動など、多岐にわたる継続的な措置で、イスラーム移民を社会に統合しようとしてきました。
「イスラーム移民特殊論」というのは、この長年の国家的プロジェクトが失敗しているのではないか、という疑問でもあります。