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「臭い物に蓋」体質のリベラル系メディアが選挙までもみ消し大成功 - バイデン息子疑惑

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
叩けば埃が出る次期大統領バイデン氏の次男、ハンター・バイデン氏。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「ついに」息子ハンターのスキャンダルが明るみに

アメリカではここ1週間ほど、今年の大統領選にも関連する議論が沸き起こっている。大統領選の投開票日から1ヵ月以上経った今になって、主要メディアが、次期大統領として確定したジョー・バイデン氏の次男、ハンター・バイデン氏のスキャンダルについて、堰を切ったように報じ始めたのだ。

事の発端は今月9日、ハンター氏が出した声明だ。その中で同氏は、自身が脱税容疑の連邦捜査対象になっていることを明かした。「デラウェア州連邦検事局から自分の弁護士に助言があり、税務関連の捜査が行われていると、私は昨日初めて聞いた」と、同氏。(ちなみに、この捜査は2018年に始まっていたと報道されている)

同氏は「この件について非常に真剣に受け止めているが、専門的、客観的に調べてもらうことで、適切かつ合法的に財務処理がなされたことが証明されると確信している」と述べた。

翌10日付のFOXニュースは「Media finally covers Hunter Biden story after avoiding controversy before election」(選挙前の論争を避け、ついにメディアはハンター・バイデンを取り上げた)、11日付で「From 'smear campaign' to 'Russian disinformation,' liberal media teamed up to dismiss Hunter Biden story」(リベラル系メディア勢は手を取り合い、中傷キャンペーンからロシアの偽情報までハンター・バイデン関連の記事をもみ消した)などと報じた。

一部メディアが「後追いせず、沈黙を貫いた」と言われている内容は、主に2つある。

  1. 10月半ば(大統領選の投開票日の2週間前)、ニューヨークポスト紙が素っ破抜いた暴露記事の内容について(ハンター氏が取締役をしていたウクライナのエネルギー会社、ブリスマの幹部に、当時のオバマ政権下で副大統領をしていた父親のバイデン氏を紹介したこと、薬物使用、裸の写真など)。これはセンセーショナルなオクトーバーサプライズの1つだったが、主要メディアがいっせいに報道規制(もしくは擁護の姿勢で報道)し、ツイッターやフェイスブックなど主要ソーシャルメディアまでもが同紙のアカウントの使用規制をするなど、疑惑の拡散の「封じ込み」をした。 
  2. バイデン氏の政権移行チームは今月9日、ハンター氏がブリスマ社時代の脱税疑惑で捜査中であることをプレスリリースで発表し、主要メディアがこの問題を報じた。(ハンター氏は、脱税疑惑に加えてマネーロンダリングや中国とのビジネスについても、FBIによる捜査対象となっている)

これらのスキャンダルが、選挙期間中は何らかの「圧力」で伏せられていた。

上記2. の税務捜査はハンター氏の問題であり父のバイデン氏にはまったく関係ない。しかし、ハンター氏の9日の告白内容は「主要メディアがこれまで沈黙するには、(疑惑として)大き過ぎるものだ」とFOXニュースは報じた。当然これらのスキャンダルを事前に知っていたら、バイデン氏に投票しなかったと答える民主党派も多い。

ハンター氏の元ビジネスパートナー、トニー・ボブリンスキー氏が10月、ハンター氏から回収された問題のメール内容について「真実を告白」した際も、米主要メディアはほとんどこの問題を取り上げなかった。

選挙まで2週間に迫った10月22日から23日までの間、ボブリンスキー氏の証言について、まったく取り上げなかった主要テレビ局が5社中3社。2社は取り上げても尺はわずか1分半だった。(キャプチャはFOXニュースから、筆者が作成)
選挙まで2週間に迫った10月22日から23日までの間、ボブリンスキー氏の証言について、まったく取り上げなかった主要テレビ局が5社中3社。2社は取り上げても尺はわずか1分半だった。(キャプチャはFOXニュースから、筆者が作成)

「一方はメディアに叩かれた上で7400万を得票。もう一方はメディアに何も聞かれないし答えもしない」

ニューヨークポスト紙コラムニストのミランダ・デヴァイン氏は、息子のさまざまな不祥事がなぜ選挙前に闇に葬られたのか、そして今になってなぜ取り上げられるようになったのかは、「(父のバイデン氏が)大選挙選で当確になったからです」と、FOX&フレンズのインタビューに答えた。

また以前、トランプ氏がCBSテレビ「60ミニッツ」で懇願した内容(「自分が受けているインタビューとまったく同じ質問を、バイデン氏にどうぞして欲しい」というリクエスト)についてFOX&フレンズは、「トランプ氏は根掘り葉掘り聞かれ、答えた内容をメディアに叩かれ、それでも7400万票を得票。もう一方は何もメディアに聞かれもしないし、答えもしません」と皮肉った。

ただし、主要メディアにも言い分はある。上記1. について、「記事にもならないようなお粗末なものに、時間を割きたくない」(ナショナル・パブリック・ラジオ)、「トランプ氏が吹聴するフェイクニュースであり、笑えるほど(主張として)弱い」(ワシントンポストのコラムニスト、グレッグ・サージェント氏)、「ロシアの偽情報である」(ポリティコ)などの理由が挙げられた。また「根も葉もない陰謀論」「ただの組織がらみの中傷」としても見られたことで、疑惑自体が「無かったこと」とされていた。

司法長官も「口封じ」に加担か

この「揉み消し」については、もう1つ関連した興味深いことがある。

それは今月23日付で退任するウィリアム・バー司法長官が、ハンター氏の税務疑惑について知っていたのに公にしなかったとして、トランプ氏に非難されていることだ。

バー氏は、ハンター氏の捜査情報が大統領選の数週間前に明るみに出ることを防ぎ、司法省が政治に介入しないよう検察らに指示していたと、関係筋が明かしている。

トランプ氏は、「ハンター氏の連邦捜査情報を、バー氏は議会に通達すべきだった」「『やましいことなど何もない』とバイデン氏は討論会で言ったが、ハンター氏が父親の選挙活動中も捜査中だったことを、国への警告としてバー氏は踏み込むべきだったのにそうしなかった」「私はハンター氏の犯罪を暴きたいわけでもないし関与もしない。しかし選挙に影響を及ぼす出来事である以上、そしてメディアが意図的に報道しない場合において、バー氏にはそうする義務があったと信じている」などと、13日放送のFOX&フレンズのインタビューで語った。

またバー氏は、大統領選で不正があったとするトランプ氏の主張に対して、「選挙結果を覆すほどの大規模な不正の証拠は見られない」とする発言をこれまでしており、トランプ氏を憤慨させたりギクシャクする場面もあったと、ホワイトハウスのスポークスパーソン、ケイリー・マケナニー氏は述べている。

ただし、トランプ氏のツイートにもあるように、辞任はバー氏からの申し出によるもので、円満な話し合いが行われたようだ。

父のバイデン氏は息子の疑惑について多くを語ってこなかったが、16日に行われた記者会見の最後で、FOXニュースの記者の投げかけに、「息子は何も悪いことをしていないし、潔白には自信を持っている。息子のことを誇りに思っている」と返答した。

メディアが、不祥事などネガティブな報道を控えること、外圧的な力で報道が止められることは報道規制や偏向報道となるためタブーとされている。しかし、損得勘定など何らかの影響が及んで「臭い物に蓋をする」体質がメディアやソーシャルメディアにあるのだとしたら、これからも同様のことは十分起こりうるだろう。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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