[ブエノスアイレス 14日 ロイター] - トランプ米大統領のこの4年間の対中南米政策は「中国とビジネスするな」という明快なものだった。しかし、中南米諸国の受け止めは冷ややかだった。

バイデン氏は来年1月20日の米大統領就任に向け準備を進めているが、かつて米国の「裏庭」と目された中南米では、中国政府が支配力を強めている。

関係者へのインタビューや貿易統計の分析などロイターの調査によると、トランプ政権期に中南米諸国のほとんどで中国の発言力や影響力が米国を追い越したことが分かった。

バイデン氏は難題を突き付けられている。「米国第一主義」を掲げたトランプ氏とは違い、世界の指導者という米国の役割を回復すると約束し、中南米における米国の影響力低下は安全保障上の脅威だと述べてきたのがバイデン氏だ。

今年3月には「中南米とカリブ海諸国に対するトランプ政権の無能力と無視は、私の政権の発足初日に終わるだろう」と述べている。

しかし、この約束を守るのは容易ではない。

中国はアンデス諸国産の銅、アルゼンチン産の穀物、ブラジル産の食肉などの輸入が急増、2018年以降はメキシコ以外の中南米諸国にとって、米国を上回る最大の貿易相手国となっている。

中国政府は中南米に対して大規模な投資や低利融資も行っており、エネルギー関連プロジェクト、太陽光発電施設、ダム、港湾、鉄道、高速道路などの建設を支援している。

元ボリビア大統領のホルヘ・キロガ氏は先のロイターとのインタビューで、中国の影響力について詳しく説明し、ボリビアにとって中南米の大国ブラジルとともに最も重要なパートナーに挙げた。「米国と欧州のどちらが好きかと尋ねられるが、私の答えはブラジルだ。その次はどこかと問われれば中国が来る。それが中南米の現実だ」と語った。

<無関心だったトランプ氏>

中南米の当局者は、中国が多くの国にとって経済面や外交面の重要なパートナーとなっており、米国が追い落とすのは難しいと警告した。負債を抱えた新興国にとって中国がもたらす巨額の資金は重要な生命線であり、新型コロナウイルス大流行でその必要性はますます高まっている。

アルゼンチンの政府当局者は「アルゼンチンに対する関心は、中国の方が米国よりも強いと思う。それが違いを生んでいる」と話した。「トランプ氏は全く関心を示さなかった。バイデン氏が関心を持ってくれることを願うばかりだ」と言う。

中国は今やブラジル、チリ、ペルー、ウルグアイなどの国にとっては最大の貿易相手国で、対アルゼンチン貿易では米国を大きく引き離している。

国連統計の分析によると、中国は2018年にメキシコを除く中南米諸国との貿易高が米国を上回った。19年には米国との差がさらに開き、中国は2230億ドル余り、米国は1980億ドルだった。メキシコを加えた結果では、米国の対中南米貿易高が依然として中国を上回っている。

トランプ政権は中国に接近し過ぎるなと警告を発するしか能がない、と一部中南米諸国は受け止めている。政権が特に警戒していたのは中国による低利融資や、次世代通信規格(5G)の覇権争いが激化する中での技術的結びつきだ。

オバマ前大統領の政策顧問を務めたマーク・フェアスタイン氏は、トランプ氏が中南米に関与せず、環太平洋連携協定(TPP)から離脱したことで空白が生じ、中国がその隙を埋めたと指摘。バイデン氏はこうした流れの反転を目指すだろうと述べた。「トランプ氏の政策のせいで、中国はより良いパートナーだと見なされるようになっている。こうした全てが変わるだろう」と話した。

<戦略的優位>

アナリストや元政策顧問によると、民主党のバイデン氏が率いる次期米政権は、対中南米政策の優先順位を大幅に引き上げる公算が大きい。しかし、新型コロナ大流行からの回復や、欧州およびアジア諸国との関係再構築という課題もあり、巧みな手綱さばきが必要になる。

オバマ政権で国土安全保障長官を務めたジャネット・ナポリターノ氏は、一緒に働いた経験から、バイデン氏は米国が中南米諸国と非常に強い結びつきを持っている点を「戦略的優位」だと見ている、と指摘した。

専門家によると、バイデン氏はトランプ氏と同様、中国に接近し過ぎないよう警告を発するが、資金的なインセンティブを増やし、トランプ氏が打ち切った人道支援を復活させ、中南米の支持を取り戻すことを目指しそうだという。

シンクタンクであるウィルソン・センターの研究院、ベンジャミン・ギダン氏は「バイデン政権は中南米諸国が中国のコモディティ市場に依存していることを認識し、より積極的かつ寛大に支援を提供しようとするだろう」と話した。

<経済外交>

中国は新型コロナ大流行を契機に中南米諸国との関係を深めており、医療機器やマスクを送った。アルゼンチン政府はこの数カ月間に新型コロナウイルスワクチンの治験や通貨スワップの拡大、宇宙分野での協力などで、中国と組んだ新たな取り組みを次々と打ち出した。

両国はフェルナンデス・アルゼンチン大統領の公式訪中や、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」へのアルゼンチンの参加なども協議している。

インターアメリカン・ダイアログのマーガレット・マイヤーズ氏によると、中国は海外へのソブリン融資(政府保証のある融資)が少し減ったが、それを銀行融資が埋めたという。中国輸出入銀行が今年、エクアドルに24億ドルを融資したことを挙げ、「通商と資金提供の両方を通じ、中国の経済外交は数々の門戸を押し開けた」と述べた。

米国は11月の大統領選に向けた数カ月間に対中南米政策を軌道修正したもようで、中国に対抗する一連の取り組みを打ち出したが、規模が小さ過ぎてタイミングも遅れ過ぎたとの見方が多い。

米政権幹部は「これは巨大な権力闘争だ。それが中南米を含む世界各地で繰り広げられている。われわれは戦略を持って張り合っている」と述べた。

米国務省エネルギー担当次官補のフランシス・ファノン氏は、新型コロナ大流行で中南米の一部の国が、中国のような国になびいていると指摘。「新型コロナ流行が、経済面の政策判断や国民の心理に影響を与えている。各国には、これまで通り改革を指向する道を歩み続けるよう促したい」と表明。「米国は最高のパートナーだ。これまでそうだったし、これからもそうあり続ける」と述べた。

(Cassandra Garrison記者)