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経営の神様・松下幸之助 その「奥の手」は謝罪だった

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日経ビジネス電子版

「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏が、岐路に立たされていた松下電器産業(現パナソニック)を救ったきっかけも「謝罪」だった。過去の謝罪を振り返りながら、「謝罪の心得」を解き明かす。

1964年。前回の東京五輪があったこの年は、創業102年のパナソニックの歴史でも特別な意味を持つ。静岡県の熱海温泉に全国170社の販売会社、代理店の社長を招いて開催した「熱海会談」。3日に及ぶ激論の末、松下電器産業創業者の松下幸之助氏が行った謝罪が、集まった「世間」の空気を一変させた。

まずは、当時の時代背景について説明しよう。時は高度経済成長期。白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機が「三種の神器」と呼ばれた50年代後半を経て、カラーテレビ、クーラー、自動車の頭文字を取った「3C」が豊かさの象徴となりつつあった。

だが、消費者の憧れが実現していくと電化製品の売れ行きは踊り場に入り、松下電器の販売網にはダブつきが生じていた。その結果、多くの販売店の経営が苦しくなっていた。実際にどこまで深刻な状況なのか。それを知ることが、幸之助氏が熱海に「全関係者」を集めた理由だった。

いざ会議が始まると、議論はもめた。販売側は「松下の社員は相手の立場になって考えることを忘れている」などと批判を重ね、松下側も「売る方の経営姿勢に甘えがないのか」と迫る。幸之助氏は事前に「共存共栄」と書いた色紙を参加人数分用意していたが、対話はお互いの主張をぶつけ合う形で平行線をたどった。

そして、最終日に飛び出したのが、幸之助氏の謝罪だった。「原因は私どもにある。松下電器の体たらくは申し訳ない不始末だ。報恩の念に燃えて、経営の一切の立て直しをしなくてはならない」。時折ハンカチで目頭を拭い、途切れ途切れに語る「経営の神様」の姿。会場が粛然とした空気に包まれた、と参加者らの声も集めて作成した同社の百年史は伝えている。

「当初、謝罪するという筋書きはなかった」(パナソニック)。ではなぜ、幸之助氏は頭を下げたのか。「会議の目的は製販が心を一つにすることで、幸之助の決意にはその力があった」と資料づくりを統括するパナソニック歴史文化マネジメント室の中西雅子氏は考える。本気の謝罪が結果として両者のわだかまりを消し、「連帯感のようなものが生まれた」(『パナソニック百年史』)というわけだ。

松下電器はその後、「1地域1販社制」や月賦払いの限度を決める「新月販制度」など販売改革を相次いで実行する。自由が制限されるルールの導入には一部の販社が反対したが、熱海で回復した「信頼」は揺るがなかったそうだ。今もパナソニックの経営理念を支える「共存共栄」の精神。経営の岐路にあった同社がその原点に立ち返るきっかけが謝罪だったと言っていいだろう。

トヨタの原点回帰も謝罪から始まった

トヨタ自動車も、基本理念に「共存共栄」を掲げる企業だ。同社は毎年2月24日を「トヨタ再出発の日」と定めている。2010年のこの日、豊田章男社長は大規模リコール問題で米国公聴会の証言台に立ち、世界に向かって謝罪した。

後に豊田氏はこう記している。「日本を出発する時は、ある種の孤独感のようなものを感じていた。自分がトヨタに関わるすべての人を守らなければならない。そう思って米国に向かったが、会場には目を疑う光景があった」。そこにいたのは、全米各地から駆けつけた関係者や従業員。「トヨタを、私を応援してくれている人がたくさんいる。(自分が)みんなに守られていた」

問題が発覚した当初は対応のまずさが目立ったトヨタ。必要に迫られた上での謝罪だったが、ここでトップが示した覚悟は世界30万人超の従業員という「世間」を動かした。この後トヨタは拡大路線から、コスト改善と高品質なクルマ造りという「本分」に回帰。損益分岐点を大幅に引き下げ、コロナショックにおいても黒字を出せる体制を築いた。

その経験は15年に常務役員が麻薬を輸入した容疑で逮捕された際にも生かされた。翌日開いた緊急記者会見で、豊田氏は「十分な説明ができるかどうかは分からないが、まずは私自身が自分の言葉で説明することが大切」と指摘。その上で「部下である役員は私にとっては子供のような存在。子供を守るのは親の責任であり、迷惑をかければ謝るのも親の責任」と述べた。

「不信感を持たれた際、世論を切り替えるスイッチが謝罪という存在だ」。『謝罪の研究 釈明の心理とはたらき』などの著書がある大渕憲一・東北大学名誉教授はそう話す。ただ、当事者は「自ら責任を認めると重い罰を受けたり賠償責任が発生したりする恐れがあり、それらの不利益を避けるため、一般的には責任を否定したいと思う」(大渕氏)から始末が悪い。

企業トップともなるとなおさらで、「誰も恥はさらしたくないし、一義的には役員報酬を守ることを考えてしまう」というのが大手企業の顧客を多く持つある危機管理コンサルタントの実感だ。とはいえ、今はマスメディアのみならず、ソーシャルメディアの普及で「1億総ジャーナリスト化している」(共同ピーアール総合研究所の池田健三郎所長)。嵐が過ぎるのをひたすら待つリスクは計り知れない。

「怒り(イカリ)を理解(リカイ)に」

過去の企業トップの謝罪で真っ先に浮かぶのは何だろうか。「かつては当局が挙げた案件に対して企業が会見で謝るという流れが一般的だった」と電通PRの黒田明彦・企業広報戦略研究所フェローは振り返る。その流れを変えたのが、2000年の雪印乳業(現雪印メグミルク)の集団食中毒事件だった。記者会見後のエレベーターホールで時間延長を求めた記者に対し、当時の社長が「私は寝てないんだ!」と口走ってしまった一件だ。

この言葉が翌日の新聞紙面に踊り、1万5000人近い食中毒被害者を出した惨事に対する企業トップの認識不足が白日の下にさらされた。「あれ以降、企業の不祥事会見が数字の取れるコンテンツとして、メディアで取り扱われるようになった」(危機管理コンサルタント)

2000年代半ばには期限切れ原材料の使用など食品偽装が次々と発覚。そして07年、料理の使い回しなど不適切な運営で窮地に立った高級料亭、船場吉兆の記者会見で「劇場化」はピークを迎えた。女将の湯木佐知子氏が隣に座る息子の湯木喜久郎取締役に「頭が真っ白になったと(言いなさい)」などと小声で話すシーンがテレビで繰り返し放送され、「ささやき女将」が時の言葉となった。

当局からマスメディアに移動した不祥事の発覚とそれに伴う謝罪の「火の元」は今、ソーシャルメディアへと渡っている。ただ、1つ変わらないのは、人と同様、企業も少なからず間違いを犯すということだ。

かつて在籍した吉本興業において同社のリスク管理を一手に引き受け「謝罪マスター」の異名を取る竹中功氏は、謝罪に臨む基本姿勢を2つの言葉で表現する。「怒り(イカリ)を理解(リカイ)に」、そして「謝罪にマカロンは似合わない」だ。

まず竹中氏は「謝罪に勝ち戦などない」と強調する。ただ「人々の怒りを理解へ、そして応援へと変えることはできる」。その秘訣は複雑なものではなく「二度と迷惑をかけないことを丁寧に伝えること」だ。謝罪はそれをしたら終わり、というゴールではなく、そこからみそぎが始まるのだ。

もちろん人のことだから、心情は大事だ。「どれだけ真摯に謝ってもピアス一つで台無しになる」(竹中氏)。謝罪の手土産の定番はようかんとされるが、日経ビジネスの読者アンケート(有効回答数380人)で「手土産はようかんか、マカロンか」を聞いたところ、マカロンと答えたのは全体の1割以下。「軽量なので相手に軽い気持ちを与える」「カラフルすぎて楽しい=浮ついたイメージがある」といった回答があった。もっとも、ようかんも全体の3割弱。「手土産は不要」「小手先に惑わされるべきではない」「菓子の種類は関係ない」といった答えが多数を占めた。

当然ながら、一度失った信頼を回復するのは並大抵のことではない。18年10月、建物を地震などの衝撃から守る「オイルダンパー」の不正が発覚したKYBのみそぎは現在も続いている。「ダンパーの適合化作業の進捗は20年10月末で82%。まだ完了したわけではないのでコメントなどは差し控えたい」(同社)。ホームページのトップページには今も「不適切行為に関するお詫び」が掲載されている。

17~18年に完成車検査や燃費検査の不正が相次いで判明したSUBARU(スバル)も改善活動の最中だ。「1台でも多く車を造ることを優先し、評価する風土があった」「現場とのコミュニケーションが不足していた」など原因を掲げ、「組織風土に問題があった」と整理。「長く根付いた文化を変えることは一朝一夕にはいかず、まだまだ道半ば」(同社)と現状を見据える。

両社の道のりは平たんではないが、謝罪によって「もう同じような失敗はできない」という危機感は残っている。これが代替わりする中で組織に浸透していけば、世間の信頼も回復していく。だが、この風土改革に向けたスイッチがないと、同じようなことをだらだらと繰り返すはめになる。典型的なのが、「悪い謝罪の見本市」とされた18年の日本大学の例だ。

「悪謝罪の見本市」日大は変われなかった

18年5月、アメリカンフットボール部の試合で、選手がコーチの指示を受けて危険なタックルを繰り出したシーンがSNS(交流サイト)で世界を巡り、同校は大騒動に見舞われた。この際の日大の対応には、明らかにアメフト部内の問題にとどめたい意図があった。大学トップの田中英寿理事長は「我関せず」として、公の場に出ることをかたくなに拒んだ。

その日大で20年、今度はラグビー部で問題が頻発した。1月に部員が大麻所持で逮捕され、8月には同年3月に辞任したヘッドコーチが部員の頭を爪ようじで刺すなど暴行を働いていたことが判明した。2年前の危険タックル事件で指摘されたガバナンス問題は置き去りにされていたわけだ。付属校を多く持つマンモス校だけに今のところ動じない姿勢を見せているが、「普通の象」であれば、すでに倒れていてもおかしくない。

中にはうちは大丈夫、と悠々構えられる会社もあるだろうが、一寸先にはいつもわなが潜んでいる。もちろん、自らの責任を認めず「否認」「正当化」「弁解」を選ぶこともできる。ただ「責任否定の釈明が受け入れられる条件はかなり厳しい」(東北大の大渕氏)。SDGs(持続可能な開発目標)の広がりなどで企業は「公器」としての存在を強く求められており、その責任範囲は広がっている。改めて、謝罪の心得を胸に強く刻むべきだろう。

「問題が起こった際には、他人のせいだと考える前に、まず自分のせいではないかと一度考え直してみることが大切だ」と松下幸之助氏は説いた。社会からの不信が募るような事象に直面したとき、まず企業に求められるのは、それを自分事として捉える主体性だ。信頼を取り戻すには、自らが覚悟を決める必要がある。

世の中と謙虚に向き合うことも重要な心構えとなる。相手の視点で物事を見る余裕を持ち、都合の悪いことも隠そうとしないこと。「謙虚さを失った確信はもう確信とはいえず、慢心になってしまう」というのも幸之助氏の弁だ。時代の流れが速まり、各社、各人にとっての「世間」が広がる中、自分がコントロールできない領域が増えていることを忘れてはならない。

そして、それらの基本には先行きを思い描いて行動することがある。謝罪において「誰に何を謝るのか」を明確にすることが重要なのは周知だが、それは生き方や仕事において、謝罪がどのような意味を持つかを把握することと同意だ。

日経ビジネスでは15年以降、年末に「謝罪の流儀」を特集してきた。その目的は一年を振り返る、ということだけではない。不祥事や失敗と無縁な企業などない。それらが発覚したときにどう振る舞うか、謝罪には企業の生き方がにじんでいると考えているためだ。

「企業の目的は顧客の創造だ」。経営学者のピーター・ドラッカー氏はそう指摘した。企業にとって最も重要なのはいかに存続していくかで、その礎となるのが顧客。利益を得るというのも、存続のための一条件にすぎない。

企業を取り巻くステークホルダーが多様化している。一人ひとりの市民に加え、その集合体である世間や社会も顧客の有力な候補だ。主体性を持ち、謙虚に構え、先行きを思い描いて動く。そして、世の中の怒りをも味方にし、周囲との連携を深め、困難を乗り越えていく。そんな「謝罪力」が問われる時代がやってくる。

(日経ビジネス 北西厚一)

[日経ビジネス電子版 2020年12月15日の記事を再構成]

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