再生可能エネルギーの歴史において、2021年はひとつのターニングポイントになる。チャレナジーにとっても例外ではない。独自技術に基づいて開発してきた「垂直軸型マグナス式風力発電機」の量産1号機が、21年の春以降にフィリピンで稼働する見通しとなったからだ。
垂直軸型マグナス式風力発電機とは、物体を回転させると風向に対して垂直方向に力が働く「マグナス効果」という物理現象を利用した発電機で、プロペラがないので台風やハリケーンなどの強風でも暴走したり壊れたりしにくく、安定して発電できる。風の流れに対して指向性のない垂直軸型なので、風向の影響も受けない。「台風でも活用可能な風力発電」という、これまでにないコンセプトから「台風発電」と呼ばれたりもしている。
これまで石垣島に試験機を設置して実証実験を進めてきたが、そこでの運用を経て地道に改良を繰り返してきた成果が、ようやくフィリピンで実を結ぶことになる。量産1号機の建設地はフィリピンの北部にあるバタネスという地域で、猛烈な台風が通過することで知られている。そこで発電の実績を積みながら、島国であるフィリピンでの本格導入を目指し、世界展開を進めていきたい。
フィリピンでの垂直軸型マグナス式風力発電機の量産1号機の稼働は、チャレナジーだけでなく再生可能エネルギーの将来にとっても大きな意味がある。なぜなら、ぼくたちはフィリピンで分散型の電力システムの構築を目指そうと考えているからだ。
「分散型」への最初の一歩
これまでの電力システムは日本も含め、巨大な発電所で生み出した電力を電力網を通じて流していく一極集中型が常識とされてきた。しかし、フィリピンのように多くの島からなる国では非効率だし、そもそも電力網が台風などの災害の影響で寸断されやすい。特にこうした地域では、垂直軸型マグナス式風力発電機のような災害に強い設備を活用して分散型の電力システムを構築することが、安定した電力供給につながる。
また、化石燃料に由来する温室効果ガスを削減すべく電気自動車(EV)などの電動モビリティの普及が世界的に見込まれるなか、「エネルギー面での自立」という離島に共通する課題がさらに顕在化していくことになるだろう。そうしたニーズにも、分散型の電力システムなら応えられる。これらの利点がもっと広く認知されていけば、新興国で固定電話より先に携帯電話が爆発的に普及したように、分散型の電力システムが一気に拡がっていく可能性もある。こうしたなか垂直軸型マグナス式風力発電機はメインストリームにはならないにせよ、特に離島をはじめとする過酷な環境下で必要とされる技術だと考えている。
気候変動の影響を受けて、世界各国が再生可能エネルギーの活用を加速させている。なかでも米国はトランプ政権下で再生可能エネルギーを軽視してきたが、バイデン政権になれば大きな方針転換が確実視される。この分野で中国が存在感を示そうとするなか、米国は確実にキャッチアップしていくことだろう。
新型コロナウイルスのパンデミックも、再生可能エネルギーの普及にとっては追い風になる。コロナ禍で停滞した経済を立て直す政策のひとつとして、再生可能エネルギーへの投資が加速していく可能性が高いからだ。
歴史的な転換点に
こうしたなか、多くの国で台風やハリケーンの影響が無視できなくなり始めている。大規模かつ猛烈な台風が頻繁に発生するようになり、従来の常識が通用しなくなってきているのだ。そこでチャレナジーの技術はこれまで以上に必要とされると考えている。
これらを総合して考えると、21年はエネルギーの歴史において重要な転換点になる。いまから50年後に現在を振り返って見たときに、この年が“エネルギー革命”の最初の年だったと思える年になるはずだ。そんな時代に、ぼくらがチャレンジャーとしてこうして表舞台に立っていられることが、いま本当にハッピーだと思っている。
清水敦史|ATSUSHI SHIMIZU
チャレナジー代表取締役CEO。1979年、岡山県生まれ。東京大学大学院修士課程を修了後、2005年にキーエンスに入社しFA機器の研究開発に従事。11年の東日本大震災をきっかけに、独力で「垂直軸型マグナス式風力発電機」を開発。14年3月の第1回テックプラングランプリ最優秀賞を受賞。同年10月にチャレナジーを創業。「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2018」受賞イノヴェイター。
INTERVIEW WITH ATSUSHI SHIMIZU