2021/1/18

【大室正志】“非合理”な休憩がリモートワークの生産性を高める理由

NewsPicks, inc. BRAND DESIGN SENIOR EDITOR
働き方改革や、新型コロナウイルスなどの影響により、リモートワークが浸透した。一方で、オンとオフの切り替えが上手くできず、ついつい働き過ぎてしまうケースが増えている。

「生産性を上げるためには、自分自身で『持続可能なリズム』を構築しなければならない」と指摘するのは、産業医として「休むこと」の重要性を啓蒙してきた大室正志氏だ。

大室氏へのインタビューを通して、リモートワーク時代でパフォーマンスを発揮するための“休憩戦略”を探る。

持続性のある「リモートワーク」とはなにか

──コロナ禍でリモートワークが推進され、仕事や生活にも大きな変化が生じています。最近では「スケジュールが詰まって、休憩が取れない」と訴える人も多いといわれます。
  オフィスでは、休憩の時間があらかじめ決まっていることも多いですが、最近では会社が自社にカフェテリアを設計するなど、会社全体で休むことへのコンセンサスがとれています。
 つまり、枠組みが緩やかになっている。
 そこでは、社員間のコミュニケーションの頻度も上がりますし、雑談してリフレッシュできるといった副次的な効果も生みます。
  時間に沿って行動しなければならないのは窮屈ですが、一定の枠組みの中で自分の裁量も持てるので、規則正しいリズムを作りやすいという利点はあります。
 一方、リモートワークの場合は決められた「ちょっとひと休み」のタイミングがないため、ついつい働き過ぎて疲れ果ててしまう。
 「今日も5時起きで仕事!」みたいなツイートをしていた意識高めのビジネスパーソンほど、半年も経たないうちにそんな投稿をしなくなるのは、そういうわけです(笑)
 つまり、リモートワークではスケジュールを詰め込み過ぎず、自分で仕事と休みのバランスをマネジメントして「持続可能」なリズムを構築しなければならない。
 そのスキルを磨くことが、今、多くのビジネスパーソンに求められていると思います。
──では、どうすればリモートワークで疲れることなく、持続可能な働き方のリズムを構築できるでしょうか。
 まず「自分が何に疲れているのか?」を知ることが重要です。
 「リモートワーク疲れ」を因数分解すると、最初に通勤やランチの移動がなくなったことによる運動不足が挙げられますよね。
 運動不足になると疲労が取れにくいことは、様々な研究で指摘されています。
 また、会議や打ち合わせがオンライン化したことで移動時間がなくなったので、分刻みのスケジュールを組みやすくなりました。
 つまり、運動不足やタイトなスケジューリングによって、相対的にリフレッシュする時間が減っているのです。
 このようにリモートワークによって変化した行動を見つめ直し、疲れが溜まる要因に気づくことで、打つべき対策も見えてきます。
──まず、リモートワークで疲れが蓄積する要因が増えることを認識する、ということですね。ただ、知らずしらずのうちに蓄積していく疲れに気づくのは、難しそうです……。
 そう、疲労はなかなか気づけないものなんです。
 特に怖いのが、仕事に熱中している時。いわゆる「ゾーン」と呼ばれる状態ですが、例えば企画書をつくったり、レポートを書いたりしていると、いいものを作ろうとするあまり没頭し過ぎてしまうことがありますよね。
 こうなると自分の脳にマスキングをかけたように、疲労に気づくことが難しくなります。これは、クリアするまで夜を徹して「ドラクエ」をやってしまう時の感覚と似ています。
 たまにはゾーン状態で仕事に取り組む日があってもいいのですが、その状態で無理を続けると、ある日突然“パタッ”と燃え尽きてしまう。
 そこまで追い込んでしまうとリカバリーはかなり大変なんですが、実際に“燃え尽きた”ビジネスパーソンから、相談されることも増えています。
 そうならないために、自分の疲労に気づき、積極的に休憩をスケジュールに組み込んでいくことが大切なのです。

リモートワークにおける「休憩」を考える

──リモートワークが常態化するなかで、上手く休むためにはどうすればよいのでしょうか?
 これまでであれば、外出して昼食を食べたり、コーヒーを買いに行ったりするなど、行動を切り替えることで脳がリセットされ、休むことができていました。
 ただ、在宅でリモートワークをしていると、同僚との付き合いもないので、昼食を取ったり、コーヒーを飲んだりするために外出することはありません。
 食事はデリバリーで済ませて、ちょっとパソコンで動画を見て「休んだつもり」になってしまう。でも、それだけで脳のスイッチは切り替わりません。
 では、どう切り替えるか。その一つの手段が「あえて面倒臭いことをやる」非効率な時間を作ることです。
 例えば、食事はデリバリーするのではなく、わざわざ歩いて飲食店に行ったり、3食に1回は自分で作ってみたりする。
 日ごろ飲むコーヒーを、自分でコーヒー豆を挽いたり、ハンドドリップするなどこだわってみるのもいいでしょう。
  そして、面倒臭いことをやるために、できれば「単純な作業」を選ぶことをおすすめします。
 イメージとしては、手を動かしているけど、頭を動かしていない状態でできる簡単な作業という感じでしょうか。
 コーヒーを淹れる、靴磨きをする、洗濯物を畳む……。なんでも良いのですが、シンプルな作業をする時間を設けることで、脳のスイッチを切り替えられる。
 仕事のことを考えずに他の行動に没頭する時間を、10分でもいいので作ることが重要です。
──生産性を上げるために、あえて「非効率」なことを取り入れるのが大事だと。
 そもそも人間の体のスペックは、20万年間変わっていない。それにもかかわらず僕らは、江戸時代の人が1年間で読む文字量をたった1日で読んでいるといわれています。
 原始人の頃から脳の処理速度が変わっていないのに、摂取する情報量はどんどん増えている。
 だから、仕事上の非効率は排除していくべきですが、生活においても効率を追求すると、処理する情報量が増えるばかりで、さらに疲れるのは間違いありません。
イメージ画像/iStock
 実際に、非効率なことを積極的に取り組む動きもあります。例えば、一時期ビジネスパーソンの間で写経が流行りましたよね。
 お経を書き写しているだけで、一見無駄な行為にも思えますが、メンタルを整えるという意味ではとても効果的です。
 コーヒーを淹れる、写経をする……。こういった非効率なことに、積極的に取り組むことで、かえって豊かさを実感できるのだと思います。
リモートワーク下では、コーヒーを淹れるなど「非効率」なことをあえて取り入れることが、生産性を高めることに寄与する。

ここからは「UCC イノベーションセンター」でコーヒーのデータ分析を担う半澤拓氏を招き、「非効率」な時間を作るだけではなく、休憩をさらに充実させる役割をもつコーヒーの効能を大室氏とともに考察する。
──大室先生も休憩の際には「非効率」なことを取り入れながら、コーヒーを飲んでいるとお聞きしました。
大室 1日に3杯、コーヒーをドリップして飲んでいます。コーヒーに含まれているカフェインは覚醒物質として有名ですが、一方で脳をリラックスさせる作用もある。すごく不思議な飲み物ですよね。
半澤 実はコーヒーの香り自体にも、それを嗅ぐことでリラックス効果が得られる、といった研究報告もあります。
 またカフェインには、自律神経の調節などの効果があると知られているため、習慣的にコーヒーを飲むことは、在宅ワークで狂いがちな生活リズムを整える上でも有効かもしれません。
 他にも、コーヒーに含まれるポリフェノールは、生活習慣病の予防に役立つ抗酸化作用を持っていたり、食後の血糖値の上昇を防いだりするなど、様々な効能があることが最近わかってきました。
 さらに、私が所属する「UCC R&D本部」ではコーヒーが健康・機能的にどんな影響を与えるかリサーチするだけでなく、コーヒーそのものの味や香りに関する分析もしています。
 特に、飲んだコーヒーの感想を登録すると、自分の好みが分かるサービス「My COFFEEマップ」で集めた味覚評価データ分析に力を入れています。
 これによって、コーヒーの味を細かく体系化し、お客様が楽しみながら自分好みの味を選びやすい仕組み作りをしているんです。
 最近の傾向としては、浅煎りのコーヒーも人気がありますが、まだまだ深煎りの強いコーヒーは支持されていることが分かっています。
大室 いわゆる「サードウェーブ」と呼ばれる、シングルオリジンの浅煎りコーヒーは話題になっていますが、全体観で言うとまだまだ一部なんですね。
 それでいうと、今飲んでいる「UCCカフェリズム」のコーヒーは、どちらかというとあんまり雑味やクセがない。ちょうど真ん中というか、普段使いで飲める感じがします。
半澤 そうですね。「UCCカフェリズム」は、多くのユーザーに好まれる味にしつつ、コーヒーを飲む時の「気分」や「シーン」を想定して商品をデザインしています。
大室 シチュエーションにフォーカスして、味だけでなくカフェインやポリフェノールの量もコントロールしているということですね。
家庭用レギュラーコーヒー製品「UCC カフェリズム シャキッと気分/うるおい気分/ゆったり気分」
半澤 おっしゃるとおりです。
 特にシチュエーションという点では、大きな変化も起きています。 COFFEE STYLE UCCの会員データを分析したところ、コロナ禍の前後でコーヒー飲用習慣が変容していることが分かったんです。
 例えば、今年の4月から8月頃の本サービス会員のコーヒーの飲用時間を前年同時期と比べると、朝の時間帯にコーヒーを飲む人が非常に増えています。
 通勤時間がなくなったことで、コーヒーを抽出するための「非効率」な時間を取る人が多くなっているのかもしれません。
 このように、今後も環境や人々の嗜好の変化をとらえて、コーヒーの新しい飲み方やスタイルを提供できるといいなと考えています。
大室 面白いデータですね。
 UCCといえば缶コーヒーのイメージでしたが、コーヒー文化を研究し、さらに向上させるための役割を果たしていたとは。その事実に対して驚きましたし、改めてUCCの企業イメージが変わりました。
 リモートワークにおける休憩という観点では、コーヒーを淹れる行為は「必要な非効率な時間」であり、飲料としても様々な効能があります。それに、仕事始めの儀式としてもちょうどいい。
 これからもリズムを作るための欠かせないツールとして、コーヒーを愛用していきたいと思います。
クーポンコード:newspicksUCC2012