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【死に瀕する地球③】人新世の海洋腐蝕 気温上昇、海水酸性化、海水脱酸素化 「死のトリオ」が地球の海を壊す

イアン・アンガス「人新世の海洋の三重危機」
『Climate&Capitalism』9月7日より)翻訳…脇浜義明

 何億年も続いている途切れることのない潮の流れや、エネルギーと物質の交換が、地球システムの中核部である。
 海洋学者シルヴィア・アールが書いているように、「私たちの生命は生きている海洋―岩や水だけでなく、安定し弾力性がある多様な生命システム―に依存している。生きている海洋が地球化学の動力であり、気象を左右する。深海のヒトデから砂漠のヤマヨモギにいたるすべての生物の生命を維持する装置を提供している」。
 その生きている海洋が今や大きく乱れているのだ。大昔にも大きな変動があったが、小惑星衝突による恐竜絶滅以降こんな急激な変化はなかった。海洋を混乱させているのは、地球が最後の氷河期以降保っていた状態から大きく異なる生物圏へ向かっている変化、すなわち「完新世から人新世へ変化」しているからだ。
 「私たちは未知の海洋エコシステムの領域へと突入している……それが海洋、続いて人類にもたらす意味は非常に大きい」とアールは記す。
 海洋と気候変動の関係の説明によく強調されるのは、氷山熔解と海面上昇である。グリーンランドだけで1年間に2800億トンを超える氷が溶けている。これだけでも大きな変化が起きる。地球上の氷河熔解と水位上昇が続くと、2100年までに、6億3000万人以上の人が住んでいる沿岸地帯が水没するだろう。
 海水温度上昇のために台風やハリケーンが巨大で破壊的になり、1億人以上の居住地を襲う。地球温暖化がもたらす海面上昇の影響だけを見ても、早急に温室効果ガス排出を止めなければならないことが分かるだろう。

 もっと長期的に地球システムを破壊する作用がある。生物地球化学者ニコラス・グルーバが海洋ストレス「三重苦」と呼んだもので、地球の炭素代謝の亀裂増大によって引き起こされるものだ。グルーバは次のように書いている。
 「数十年または数世紀先には、海洋の生物化学循環と生態系は少なくとも3種の要因からのストレスで乱れるであろう。
 気温上昇、海水酸性化、海水脱酸素化(P‐トルイル酸エステルを経てラジカル還元条件でアルコールを脱酸素化する手法)の3要因で、物理的、化学的、生物学的環境が大きく変質した。そのことが我々にはまだ十分にわかっていない形で、海洋の生物地球化学循環と生態系に大きな影響を与える。海水温度上昇、酸性化、脱酸素化は、人間的な時間尺度では元へ戻らない。
 この三要因の主たる推進力―二酸化炭素の大気圏排出―がもたらした地球規模的変質は、数千年とは言わないまでも数百年と続くからである」。
 この3要素が過去にも起きて動植物が大量死滅したことがあったため、海洋生物学者たちはこの海水温上昇、酸性化、脱酸素化を「死のトリオ」と呼んでいる。「死のトリオ」は同一原因から発し、密接に絡み合って、相互補強し合っている。
 海水酸性化は、地球温暖化と並んで、双子の悪魔と呼ばれる。どちらも大気中二酸化炭素の急増が原因で生じ、どちらも地球の生命維持システムを破壊する。
 大気と海洋の間には絶えざる気体分子の交換がある。大気中の二酸化炭素は海水に、海水中の二酸化炭素は泡となって大気に溶け込む。最近までこの交換は均衡していて、大気中の二酸化炭素も海水中の二酸化炭素も数十万年間量的に一定であった。しかし、現在大気中の二酸化炭素が50%も増え、交換均衡が崩れている。海中に入る二酸化炭素の方が海中から出る二酸化炭素よりも多くなったのだ。
 これだけをとると、気象にとってよいことであった。海が人為的二酸化炭素排出の25%と太陽熱の90%を吸収してくれるからだ。この吸収がなかったら、地球温暖化はもうとっくに壊滅的水準に達していたであろう。
 レイチェル・カールソンが何十年も前に書いたように、「地球にとって、海は大いなる調整者、最大の気温安定化装置である……海がなければ、世界は想像を絶する猛暑となるであろう」。
 しかし、これには代償が伴う。二酸化炭素が付加されたことで海洋の化学が変化しているのだ。H2O+CO2→H2CO3=水プラス二酸化炭素、つまり炭酸になる。つまり、二酸化炭素の増加で海水が酸性化するのだ。
 20世紀に海水のpH値が8・2から8・1へと0・1度低下した。0・1度といえば大したことがないように見えるが、pH尺度は対数で表示されるから、0・1低下は海水が約30%も酸性化したことを意味する。これは平均値である。
 概して海の上層部250mは深海より酸性度が強く、二酸化炭素は冷たい水に溶け込みやすいから、地理的には高緯度地域の海水の方が酸性度が高い。
 現在の酸性化率は過去5500万年間の自然的変化の100倍の速さだ。これが続けば、海水酸性化は今世紀末に産業革命前の水準の3倍になるだろう。

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