2020/12/5

【投資から読む】真のブランドの正体

NewsPicksアンカー
10月から配信している、投資リアリティショー「INVESTORS」。

バフェット流投資のパイオニア 奥野 一成氏が、番組内で発した投資にまつわる格言や、本編では深堀りし切れなかった事を、この「アトカの投資塾」でインベスターズのリーダー(※自称) 徐 亜斗香が聞き出していきます。
今回は「【実践編】世界的企業のブランド力に投資せよ」の補習として、投資視点で見たブランド力について伺いました。

ブランド=高く払わせる仕組み

 :前回の配信では、ブランド企業について触れましたが、そもそも「ブランドの定義」とは何でしょうか?
奥野 :客に高く払わせる仕組みを持っているかどうかです。
例えば、エルメスの客は原価が15万円のものに対して50万円払います。
皮の値段や職人の人件費が売値の3割だとすれば、粗利益が7割あります。
実は、この7割という利益率を叩き出すのは難しいのです。
トヨタでも粗利率は15〜20%。コストをかけて車自体をどんどん高付加価値化しているのですが、その価値を顧客に認めてもらえていないとも言えます。
販売促進費と管理コストを引いて、最終的な利益が出るのですが、エルメスの場合、SG&A(販売管理費)が36%で、最終的な営業利益は34%。
これは原価に対して客が高い値段で商品を買っているということを指しています。
なぜなら本来、鞄を作るのにそんなにコストがかかっていないからです。
つまり、ブランドの定義は「客に高く払わせる構造があるかどうか」です。

投資は流行を追ってはならない

奥野 :そもそもブランドの財の性質として、定番があるかどうかが重要です。
つまり、流行り廃りじゃない。なぜなら、流行を追うと、新しいものをどんどん作らなければならないため、ブランドを構築しづらいんですよ。
ルイ・ヴィトンだと、定番とまではいかないものの、LVのロゴがあることできちんとしたブランドがあります。
しかし、本当の意味で型が変わらないものを持っていることが理想的です。
エルメスでいれば、「ケリー」や「バーキン」といった定番の鞄があります。ティファニーだとティファニーブルーとオープンハート。
ブランドの難しいところは、あまりにも流布されると逆に希少価値が落ちるというところです。
街中フェラーリばっかりだと、乗りたくなくなりますよね。
 :特別感がなくなってしまいますもんね。

ジレンマから抜け出すには

奥野 :沢山売れば売るほど、売り上げは上がるけれど希少価値は落ちるから結果的に儲からなくなってしまう。だからこそ、ジレンマに落ちるんですね。
ブランド企業は自社で作るのが一番強いんですよね。
①の生産はクオリティーに関わる話で、生産を自分のところだけで行うことにより、自社で商品を作って、クオリティーをコントロール出来る状態になります。
エルメスの場合だと、8割がフランス国内の職人さんによって3〜4ヶ月掛けて作られています。
だから、「どこか変なところで作られている」という話がなくなるんですよね。
変なところで作られているという発想が出た瞬間、売れなくなるので、生産をコントロールしてクオリティーを一定にするのはとても大事なのです。

エルメスの強みは雇用関係

奥野 :ちなみに、エルメスは1930年代の不況時でも職人を切らなかったという話があります。
しかも、職人を切らずに3年間の給料を保証したんです。なぜそこまでやったかというと、作るのに技術がいる、つまり生産技術が必要。
しかし、人を切ると職人が別のところに流れてしまいますよね。
生産技術を囲い込むことができるようになる、つまり生産のところをコントロールすることでエルメスのブランドを維持出来ていると言えます。

Win-Winを作る

 :現在の少子高齢化社会にて、どのように生産性の高い技術者を確保するのでしょうか?
奥野 :エルメスには今大体5,000人ほどの職人がいるのですが、毎年新しい人を250人程度、新規採用しています。
つまり、毎年5%くらいの生産能力がアップしているのですよね。しかし、育てるのに4〜5年かかります。
 :そこまでの年月をかけられる「秘密」がエルメスにはあるんですね?
奥野 :その通りです。人材育成に時間とお金をかけることができるのは「ケリー」と「バーキン」を作り続けているからです。
生産をコントロールすることでここのクオリティーをコントロール出来ます。作るところまでコントロールできると強いですよね。

重要なのは直営店の比率

奥野 :自社で作っても、販売するところで色んな人に任せてしまうとコントロールを失ってしまうじゃないですか。
例えば、前回のプレゼンで奥井アナが発表したカナダグースのコート。あれは自社で売っていないんですね。
つまり自社で店舗や在庫を持っていないので、コスト的に今は助かるのですが、在庫を持たされている販売代理店は売れなくなると値引きして売ってしまいます。
それだとクオリティーやイメージが下がるので、本来のブランド企業は避けたい状況です。
 :エルメスはどれくらいの商品を自社で売っているのですか?
奥野 :エルメスは3分の2の商品を自社で売っています。ここまで徹底して自社で売っているところは少ないです。
他の高級ブランドに比べても、3分の2が自社なのはエルメスや近くてティファニーだけです。

ティファニーの秘密は「銀」

奥野 :ちなみに、ティファニーの場合なぜ儲かるかと言いますと「銀」です。
 :私も今日、ティファニーのシルバーを付けてきました。これは大学時代に・・・
奥野 :その話はインタビュー後にゆっくり聞くとしますね。
例えば金やダイヤモンドで商品を作ると元々原価が高いので粗利率が低くなります。ダイヤモンドで製品を作ると粗利率は40〜50%に下がるんですよね。
そんな中、銀は一番安い金属です。
金やダイヤモンドだと希少価値があるじゃないですか。
でも銀にはありません。安い銀でありつつも、ティファニーブルーと組み合わせることで高い値段を客に払ってもらう。
銀でティファニーまでのブランドを持っている会社はありません。
 :つまり、ティファニーの成功の秘訣は銀という安い金属を使いつつ、独自のデザイン性を組み込むことによって高い値段を払わせるようにしているということですね。

ユニクロはYES、吉野家はNO

 :だとすれば、奥野さんの定義によるとユニクロはブランドにならないのでしょうか?
奥野 :ユニクロは基礎製品という流行り廃りじゃないものを売っています。
これは一番良いクオリティーのものを一番安く作る、というブランドなのですね。
沢山作ることでコストを抑えることができるからこそ、安く売っても利益が出ます。
しかし反対に、吉野家の牛丼は「安く作れる構造」になっていません。
なぜなら、「労働集約型のビジネス」だからです。店舗で牛丼を作る「人」に値段を払うビジネスなので、コストを下げるためには人件費を抑えないといけません。
ですが、先進国では人が足りないから人件費は上がる一方です。吉野家の牛丼は安いけれど、自分たちのコストも高いから、全然儲かりません。
吉野家は消費者としては嬉しい会社ですが、長期投資家としては「?」と思わざるを得ません。

投資家視点のブランドは違う

奥野 :投資家としてブランドを見た時に一番重要なのは、売り上げ単体でなければ、コスト単体でもありません。
売り上げをコントロールして上げて、コストをコントロールして下げることが大切です。
つまり、サプライチェーンを自分でコントロールすることで利益が安定してきます。
ユニクロも他社から仕入れているわけではなく、自社で開発や生産をコントロールしており、SPAモデルを導入しています。
ニトリもSPAモデルを導入しています。
イオンやセブンの製造小売も作る方に移行しようとしており、独自のプライベートブランドを展開していますよね。
なぜSPAモデルを導入する企業が増えているかと言いますと、上手くブランドを作り込むにはサプライチェーンをコントロールする必要性があるからなのです。

エルメスの人気は今後永劫続く

 :これからもブランドの人気は持続すると思いますか?
奥野 :続かないという仮説を持つ方が難しいです。
エルメスの「ケリー」は100年近く続いていて、「バーキン」も40〜50年続いています。
続かない兆候が出てきたら考え直さなければいけませんが、100年続いたものに対して続かないという方にbetするのであれば、それなりの理論的な何かが必要です。

仮説をどう立てれば良いのか

 :では、ブランド投資において企業を分析するにあたり、歴史を紐解いて仮説を組み立てよと本編でおっしゃっていましたが、そもそもどのように仮説を組み立てれば良いのでしょうか?
奥野 :歴史を一から調べて仮説を組み立てていくのはなかなか難しいです。
逆にいえば、「今、なぜバーキンは50万円以上するのか?」「なぜ売れ続けるのか?」「なぜ定番が40年、90年あり続けるのか?」といった、「なぜ?」を追求すると歴史を分析せざるを得なくなります。
歴史を分析していくと、初期のエルメスは貴族の馬具を作っていたんですね。
元々貴族用に手作りの職人を抱えてを馬具を作っていた、そういった歴史があるから、他のところが新しく職人を抱えて馬具を作り始めるのは難しいのです。
そこから時代の流れと共に、馬具(ばぐ)からバッグに変わっていった訳ですね。
 :馬具からバッグ・・・ダジャレですか?(笑)
奥野 :全くダジャレではありません、真面目に聞いてください。
なので、仮説というよりかは「なぜこうなったのか」というのを自分で考えて、企業分析や企業研究をした会社に実際にお話をしに行って、固めていくべきです。

奥野氏が予測、ブランド企業の未来

 :奥野さんにズバリ聞きます。「ブランド企業の未来」の仮説を教えてください。
奥野 :この間SEDAモデルの話をしましたが、「意味的価値」がどんどんと増えていっています。
人が払う価値の中で、「機能的価値」と「意味的価値」があります。
今、機能に関してはもう行き着くところに行っているので、先進国では機能よりも意味が求められています。
例えば、電話は番号を打って相手側と話せれば良いのですが、それでもみんなiPhoneを欲しがるのはデザインがあるからですね。
ちなみに、マズローの5段階欲求というのがあるじゃないですか。
奥野 要するに、ある程度生き死にの要求がなくなっていけば、どんどん自分はどういう風にありたいか、と追求するようになるのですね。
簡単にいえば、「ライフスタイル」。
エルメスのカバンを持っているのが「自分の生き方」なのだ、という話になればそれこそ「意味的価値」です。
そのような世界になっていった時に、強い力を持つのがブランドなのですね。
将来、何らかのブランドを持っていないと儲けることが出来ない構造になると思います。
その時に、同じものであっても高く売ることができるのがブランドだとすると、それをコントロールするビジネスモデル、つまり、生産と販売の両方の工夫が大事になってきます。
 :今回はブランド企業に特化し、より具体的にエルメスやその他ブランド企業について学ばさせていただきました。
ブランドを持つとここまで強いんですね。とても勉強になりました。ありがとうございます。
これからも「INVESTORS」と「アトカの投資塾」もよろしくお願いします。
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