2020/12/2

【同業他社と協業も】国内MaaSの最熱トレンド「マルチモーダル」とは

一般財団法人計量計画研究所

九州で浸透進む「マイルート」

複数の交通機関を連携し、利用者のニーズにフィットした効率的で快適な移動をかなえる「マルチモーダル」なサービスが世界中の都市で展開されている。
最近では、日本国内においてもそうした移動支援の新サービスが各地で始まっている。
九州エリアをメインにサービスの充実が進む「my route(マイルート)」は、市内の移動資源を惜しみなく統合しており、街のすべての移動手段を組みあわせて検索できる。
また、タクシーやカーシェア・自転車シェア・駐車場の予約をはじめ、目的地となる美術館のチケット購入まで、スマホで検索から予約・決済ができる次世代のモビリティサービスだ。
特にこのコロナ禍では、こうして人と接触せずに購入できる「非接触型」のモバイルチケットの販売が好調という。
バス乗車券においては、スマホ画面を降車時に運転手に見せるだけという手軽さと、非接触型のサービスが市民の心をつかんでいるのかもしれない。

Withコロナ対応のアップデートも

サービスローンチ後もさまざまなバージョンアップがされ、利便性が向上している。
例えばリアルタイムなバス車両の位置情報や混雑情報が反映されたり、また多言語に対応したりと至れり尽くせりのWithコロナ時代に対応した「移動安心サービス」なども始まっている。
また、11月からは福岡市美術館と福岡アジア美術館のチケットが「マイルート」で購入できるようになった。
美術館の窓口で購入したQRコードを読み取ることで、非接触で入場できるという、移動と文化や観光が融合した新サービスだ。
「マイルート」は福岡市エリアで2018年から実証が始められ、昨年には北九州エリアにまで拡大した。
20年からは水俣地域、横浜地域、福岡糸島地域でもサービスを始め、この10月からは宮崎で本格的に展開を始めている。

“ライバル”自動車と鉄道の協業

特に福岡エリアでは、トヨタ自動車と西日本鉄道の協業がなされている点が興味深い。さらに、2社での1年間の実証の後、JR九州も加わり本格的にサービスをスタートした。
これまである種ライバルだった企業が連携し、移動需要を共に創出していくビジョンにも注目だ。
糸島地域ではコーワケーションと移動の連携にも取り組み、横浜では、地元商店街との連携に取り組むなど、地域の課題に対応したサービスとしている点も重要だ。
さらに、横浜エリアでは日産自動車とも連携している。
日産自動車のレンタカーやカーシェアリング(e-シェアモビ)も利用できる。
宮崎では、買い物券と公共交通乗り放題券が一体となった電子チケットなど、移動×買い物のかけ算でおでかけを支援するサービスが始まっている。
いずれの地域においても、人が生まれてから亡くなるまでの生涯を通して、一生の移動を企業が支えていくという強い信念が感じられる。
移動の所有から共有までを個人ごとにカスタマイズして提供しようという、MaaS(Mobility as a Service)の本質に迫るものばかりだ。

JR西日本も専用アプリをリリース

鉄道事業者も次々と運用をスタートしている。
例えば、JR西日本は「WESTER(ウェスター)」という専用アプリを商用化した。
車両の混雑状況などの情報や、非接触でのチケット購入などの機能も内包した、顧客目線の「総合コンシェルジュサービス」を9月から始めている。
これまでのネット予約サービスや、せとうちエリアの観光ナビ「setowa(セトワ)」とも連携している点が特徴的だ。
「セトワ」も昨年の実証実験を踏まえ、今年本格的に運用を開始した注目のサービスだ。
昨年の実証実験ではまだ専用アプリのリリースだけであったものの、現在ではwebと専用アプリの両方から利用でき、サービス対象エリアも広島県を含むせとうちエリア全域に拡大している。

小田急「EMot」数日先の混雑予想も

また、関東エリアでは、小田急電鉄の「EMot(エモット)」がこの10月に関東エリアでのサービス展開から1周年を迎えた。
現在では東京・神奈川エリア(実証実験中)のほか、静岡西部エリアでもサービス提供中だ。
コロナ禍においてもサービスのアップデートを続け、リアルタイムな運行情報だけではなく、数日先までの混雑予報を加えたり、UI(ユーザーインターフェース)を大幅に改良したりと利便性を追求している。
特に地図と一体となったトップ画面から、自分の利用したいサービス(経路、買う、使う、デマンド交通、カーシェアなど)をワンクリックで提供できるなど、UX(ユーザーエクスペリエンス)が格段に向上している。
「EMOT」アプリトップ画面
スタート当初から買い物や食事、観光、レジャーとの連携に取り組み、新たな足の開発にも積極的にチャレンジするといった、次世代のモビリティサービスのトップランナーとして全国のお手本となるものだ。

東京メトロ、東急も続々

それ以外にも、20年3月には東京メトロの「my!東京MaaS」がスタートし、11月からは東急電鉄の「Izuko(イズコ)」が第3ステージにアップデートするなど進化が続いた。
ニューノーマルに対応しつつ、沿線やエリアの価値向上のための挑戦が続いている。
MaaSは移動産業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)そのものであり、さまざまな産業との連携は今後ますます加速していくだろう。
特にスマートシティの領域は、全国各地で計画段階から実装のフェーズに移行している。
移動を統合したプラットフォームが重要になるだけでなく、自動運転、脱炭素のカーボンニュートラルな社会を推進する移動プラットフォームとして、その存在感を増していくことは確実だ。
移動の安全、安心を担保し、まるでポケットの中にすべての交通があるかのような、そんな時代がすでに始まっている。