【ホンダ N-ONE 新型】「手練れも楽しいと思わせる6MT&CVT」トランスミッション開発担当[インタビュー]

本田技研工業 パワーユニット開発統括部 パワーユニット開発二部 小型ドライブユニット開発課 アシスタントチーフエンジニアの鹿子木健さん
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  • ホンダ N-ONE 新型
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  • ホンダ N-ONE 新型「RS」の6MT
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フルモデルチェンジしたホンダ『N-ONE』の「RS」グレードには、要望が強かった6速マニュアルトランスミッション(6速MT)が設定されたことで話題となっている。同時にCVTもRSグレード専用にチューニングされたという。

N-ONEの開発責任者である本田技研工業四輪事業本部ものづくりセンターの宮本渉氏は、6速MTの特徴を3つ挙げる。それは、「ターボエンジンと『S660』のギアレシオの組み合わせによる軽快な走り、ショートストロークで爽快なシフトフィール、しっかり感があり疲れにくいセッティングを施した快適なクラッチフィールだ」と語る。

さらにクラッチペダルの急操作によるシフトショックを低減するスピードコントロールピークトルクリミッターと、クラッチペダルからの振動を軽減するクラッチダンパーを採用し、RSの6速MTモデルにより、「N-ONEはバランスの取れたスポーティなポジションを実現出来た」とのことだ。

ホンダ N-ONE 新型ホンダ N-ONE 新型
またCVTに関しては、2つの新たな制御が投入された。G-Design Shift制御は、「従来のCVTに比べ、より早くGが立ち上がりそれを持続させるもの」。また、「ブレーキ操作によって賢くシフトダウンするブレーキ操作ステップダウンシフト制御を採用し、坂道のエンジンブレーキや、減速から再加速するようなシチュエーションで、安心快適かつダイナミックな運転が体感出来る」と説明。

さらにRSのCVTは専用にセッティングを施した。G-Design Shift制御はSレンジでの専用CVT変速制御とし、アクセルの低開度からのレスポンス向上を図っている。ブレーキ操作ステップダウンシフト制御においても、「減速のためから加速準備のためにダウンシフトし、RSらしい鋭い加速を実現している」という。

CVTであっても走りを楽しめるように

ここからはより詳細にトランスミッションの開発担当者に説明をしてもらおう。答えてくれたのは、本田技研工業パワーユニット開発統括部パワーユニット開発二部小型ドライブユニット開発課アシスタントチーフエンジニアの鹿子木健さん。

ホンダ N-ONE 新型ホンダ N-ONE 新型
----:まずCVTからお話を伺います。フルモデルチェンジにあたり、先代から比べてかなり手が加えられているとのことですが、そのポイントについて教えてください。

鹿子木健さん(以下敬称略):オリジナルグレードとプレミアムグレードに関しては、現行の『N-WGN』でパワープラントを刷新し、CVTも同じく刷新したのでそのものズバリになっています。

ただし、RSだけは専用セッティングを施しました。私は実はCVT出身でNシリーズのCVTをずっと担当してきました。今回はそこに加えてMTも兼任でPL(開発責任者)をやっています。それが今回の目玉である6速MTですね。

開発初期に6速MTの試作が出来まして、実際に乗ってみると6速MTの方が(CVTよりも)ダイレクト感があって良かったのです。私としてもCVTをずっと良くしようとやってきてはいるものの、6速MTに実際に乗ってみると楽しかったんですね。こういうことがあり、RSというグレードで6速MTはお客様に対して非常にわかりやすくダイレクトに(スポーティーさや楽しさを)伝えられることが可能だとわかりました。

そこで、CVTはそのままでいいのか。やはりRSとしてちゃんと個性、差別化をしっかりと図らないとダメだとなったのです。CVTですからそこはセッティング領域で、どういう方向性にすればいいかをかなり議論しました。

ホンダ N-ONE 新型ホンダ N-ONE 新型
まずN-WGNで採用したブレーキ操作ステップダウンシフト制御ですが、お客様のブレーキ操作に対して、減速のためにエンジンブレーキを使うことに主眼を置いたセッティングです。しかしRSはスポーティに走りたいですよね。例えばレースをしている方などがダウンシフトをするのは、エンブレを使うためではなく、そのコーナーの立ち上がりの時の駆動力を決めるためにギアを選んでいます。つまりスポーティに走らせるのであれば考え方は180度違うのではないか。そこで、加速準備のためにブレーキ操作ステップダウンシフト制御のデータセッティングをしようと変えたのです。

ワインディングなどで走っている時にN-WGNのセッティングでは、もう一歩駆動力が欲しくなることがありますので、そこをRSではパンと踏んだ時にしっかり駆動力が出るように、具体的にN-WGNをベースに数値目標までしっかり決めて、コーナーの立ち上がりの時の、立ち上がり駆動力を何パーセント以上は向上させようとしました。

これはCVTの制御という観点では数値的なところをしっかり出しておかないとデータ設定が曖昧なものになってしまうからです。ですからそこのところはしっかりと数値目標を立てて、駆動力がしっかり出るようにセッティングしていきました。

ベースのN-WGNの出来が良いからこそできたこだわり

ホンダ N-ONE 新型ホンダ N-ONE 新型
----:その数値目標はどうやって作ったのですか。

鹿子木:単純にいうと走り込み、比較です。ホンダが所有する鷹栖のテストコースで、完成しているN-WGNでしっかりとデータを取りました。具体的にはアクセル開度やエンジントルクのデータを取り、あるひとつのコーナーを決めて、踏み増しているとすれば、もう少しトルクが欲しいと考え、そういったセッティングをデータ化して詰めていったのです。

6速MTは当然操作するという楽しみがあります。つまり、ある意味マニアックな乗り物で、操作をスムーズに出来ること自体がかっこいいと思いますし、下手な人が運転すれば、すぐにわかってしまいますよね。ですからそういうところの操作に注意を分散していかなければいけません。しかしCVTはあくまでも右足でのブレーキとアクセル、ハンドル操作に集中出来ますので、それをドライバーのアクセル開度、ブレーキ操作に対してダイレクトに駆動力が出ることをメインに考えてセッティングしました。

----:それはN-WGNなどに搭載されているCVTの出来が良いからこそできたことですね。

鹿子木:ベースのN-WGNのセッティングに関しても担当しているのですが、かなりこだわりました。このベースがしっかり出来ましたので、そのデータの部分を変えればもっと良くなるということがわかっていたのです。ブレーキ操作ステップダウンシフト制御に関しては、そのポイントを集中的にやっています。

さて、さらに走り込んでいくと、G-Design ShiftのCVTのマップが気になり始めました。N-ONE用にアクセルの中間開度を上げており、RSではSレンジのCVT制御を専用にしています。実はブレーキ操作ステップダウンシフト制御だけをやっていると、通常の走っているところが物足りなくなってしまったのです。

ホンダ N-ONE 新型ホンダ N-ONE 新型
鷹栖(ホンダの走行試験施設「鷹栖プルービンググラウンド」)でテストをしている時に、ブレーキ操作ステップダウンシフト制御を生かすには、G-Design Shiftもセッティングを改めて出さなければ、そこまで広げてやらないとお客様の操作についていけないことがわかりました。正直にいうとやる予定ではなかったのですけどね(笑)。

----:こだわりの6速MTとCVTですが、N-ONEのワンメイクレースに投入したとすれば、CVTと6速MTではどちらが速いでしょうか。

鹿子木:トリッキーなコースではおそらくCVTの方が速いかもしれませんが、フルコースになってくるとやはり6速MTかな…。6速MTの良いところは、すごくフリクションが少ないことと、重量そのものが軽いことです。フロントの重量そのものが占める割合が変わりますから、イナーシャ(慣性)が乗っているか乗っていないかの違いになっていきます。そうするとコーナーに入った時の回頭性は6速MTの方がおそらく良いのでは。もちろん一長一短あるとは思います。

6速MT採用の「機が熟した」

ホンダ N-ONE 新型「RS」ホンダ N-ONE 新型「RS」
----:さて、今回6MTをあえて追加したわけですが、なぜいまなのか、そしてそのこだわりはどういうものだったのでしょうか。

鹿子木:これは機が熟したということです。『S660』でターボのマニュアルを出しましたので、ギアはそこでの強度関係などの開発はしっかりと出来ています。次にFF用として『N-VAN』にノンターボのマニュアルがあります。今回はFFですからケースはそのまま使えるわけです。

ただしあくまでもN-VAN用ですから、商用です。従って1速、2速、3速がどうしてもローギヤードなのですね。一方4速、5速、6速は少し離れています。しかし普通の乗用ユーザーでは、3速、4速は比較的使うところですから、そのレシオが離れてしまうと良くないので、スポーツ仕様のクルマとしてのS660のギアレシオを選んでいます。ただそれも、本当にそれがいいのかというのは乗ってみないとわかりませんので、最初はN-VANのターボに、CVTから6速MTに乗せ換えて(N-VANのターボにはマニュアルの設定はない)テストをやりました。

私はCVTをやっていますので、CVTの制御に対してのこだわりはすごく強いと思っています。ですがマニュアルトランスミッションの(開発やテスト)担当から打ち上げられてくるものを確認すると、フィーリングに対して非常にセンシティブ、シビアに評価して来るのですね。もしくはこちらの方が良いと提案して来たり。その最たるものがシフト操作荷重や、クラッチの操作荷重、そして剛性感などでした。

ですから私としてもそこにはすごくこだわりました。単純にN-VANのものを採用するのではなく、例えばシフトストロークでは、S660はスポーツカーですからすごく短い一方、N-VANは商用ですからゆったりと乗れるように長めに作ってあります。ではN-ONEの目指すところはどこかというと、簡単にいうと中間の部分。しっかり感を持たせてストロークも短すぎず長すぎずというところを選んでいます。

それもどのくらいが良いかは担当が一生懸命触りながら、このぐらいが良いのではないかとセッティングを出しています。また、シフト操作する時の荷重、それもシフト操作自体のスムーズさは、シフトノブのウエイトが結構効いてくるので、『S2000』のものをベースに使っています。これも担当があらゆるものを試してこれがベストだと提案してくれました。

クラッチペダルの操作荷重もN-VANとS660の中間を狙った

ホンダ S660の6MT(参考画像)ホンダ S660の6MT(参考画像)
鹿子木:さらにこだわりをお話すると、シフトレバーの下のブラケットも最初はN-VANのものを使っていました。インパネシフトですからN-VAN用のものがそのまま流用出来るのです。ですが、実は今回は『CR-V』のものを使っています。これは剛性感を出すためで、これでないとスポーティな走りには似合わないと採用しました。もちろんこのベースブラケットはあくまでもCR-Vのものですからそのまま付くわけではないので、モディファイをして使っています。かなりごついもので、デザイナーも最初このブラケットが来た時はびっくりしたといっていました(笑)。

それから、S660と同じカーボンシンクロとダブルコーンシンクロを使っているのがこだわりです。使用頻度より、差回転に対するシンクロ容量の観点から2速にマルチシンクロ、3速にカーボンシンクロを採用しました。特に3速はシフトノブを前方に押し付けるような操作となるため、よりタフネスのある仕様としています。4速~6速においては、2速、3速ほど差回転が大きくないため、シフトフィーリングの観点から採用はしませんでした。

またクラッチペダルの操作荷重もN-VANとS660の中間のところをしっかり狙っています。極端にいうとスポーツカーは重くてもいい。商用車は逆に重くては困るのですが、当然スポーティさには欠けます。ですからやはりそこのところも中間の部分をしっかりと狙わなければいけないのです。

クラッチはS660のものを使っていますので、基準でいえば重くなりますがそのままだと少し重すぎる。スポーティではあるのですが、普段使いや、ロングドライブ、高速でずっと走っていることがロングドライブとは限りませんので、そういうことを考えると、クラッチペダル操作に対しても重すぎず軽すぎずで、チューニングを施しています。

----:S660からは少し軽くしてはいるものの、シフトの重さと、クラッチやアクセル、ステアリングの重さはきちんとバランスさせているのですね。

鹿子木:はい。色分けではありませんがN-ONEらしさはしっかりと出しているのがマニュアルトランスミッションの今回のこだわりです。

他機種担当者の「ヤバイね!」にガッツポーズ

ホンダ N-ONE 新型「RS」ホンダ N-ONE 新型「RS」
----:そのN-ONEらしさとは何ですか。

鹿子木:実は私もN-ONEユーザーで、開発にも関わったモデューロXに乗っています。N-ONEは乗っているとすごく自然に笑みがこぼれてくるのですね。それがN-ONEらしさだと思っています。

----:そこにRSが加わるとなおさら、笑顔になりそうですね。

鹿子木:本当にそうだと思います。実は鷹栖でCVTのセッティングを変えてテストをした時に、他の機種を担当している人間が来ていたので、試しに乗ってもらいました。まずはマニュアルトランスミッションに乗ってもらって、やっぱりマニュアルトランスミッションは楽しいねといって帰ってきて、最初はそちらの楽しさをいうのですね。

その後にCVTに乗せると、「ヤバイよ(笑)!」といってくれる。つまりシフト操作を気にしなくていいのです。それなりにCVTでも鷹栖で走り込んでいる人たちですから、しっかりアクセルコントロールしながら走らせてくれました。その結果これはヤバイね!といってくれた時、私は本当にガッツポーズしました。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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